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従業員が突然、死亡したら!!

2022/04/28

 税理士を長年経験していても、顧問先の従業員が突然死亡するという経験は、あまりないのではないでしょうか。従業員の死亡後に給与の支給をすることがあり、その給与支給に係る各種税制、社会保険については、給与の対象月がいつなのか、支給日がいつなのかにより、その取扱いが異なります。私自身も危うくミスをしてしまうところでありました。今一度、事例に基づき会社側と相続人側の取扱いについて確認したいと思います。

〈事例〉
A社給与・・・月末締め翌月20日払い
甲・・・・・・給与収入毎月50万円
       昭和47年6月10日生
       令和4年3月10日死亡(享年50歳)
       子供2人(生計一) 乙30歳(給与所得者)、丙25歳(給与所得者)

1.A社側の取扱い 
 令和4年1月20日、2月20日、3月20日、4月20日の各月の給与支給については 以下の通りとなります。
 まずは各支給日における支給額の計算について確認します。特に注意が必要なのが、死亡後の支給日(3月20日、4月20日)における計算であるため、同日を中心に確認します。

(1)厚生年金・健康保険料について
 厚生年金・健康保険料については、死亡退職も通常の退職と同様の取扱いとなります。原則として退職日の「翌日」が社会保険資格喪失日になります。社会保険料は資格喪失月(退職日の翌日の属する月)の前月分までを月単位で計算します。日割り計算ではありません。
 従って、2月分の給与(資格喪失月の前月)である3月20日支給分については、控除しますが、3月分の給与は、月の途中で死亡退職しており、資格喪失日と退職日が同じ月となるため、4月20日支給分については、控除しません。

(2)雇用保険料について
 雇用保険料については、他の社会保険料と違い会社が給料を支払う際に、労務の対価としてその都度控除します。退職日が末日でも月の途中でも変わりません。死亡退職も通常の退職と同様です。
 従って、死亡退職日である3月10日迄の支給分について4月20日支給額から控除します。

(3)所得税・住民税について
 源泉所得税及び住民税特別徴収については、所得税・住民税の非課税所得となるため、死亡後に支給する給与から控除はしません(所法9①十七、所基通9-17)。
 従って、3月20日及び4月20日支給日の給与から控除はしません。特に、実務で月末に差引支給額で未払金を立てている場合は注意が必要です。
 なぜならば、所得税と法人税では給与の認識時点が違うからです。法人税では、原則として権利確定主義が採用されているため、給与所得者が労務の提供をして、その対価として給与債権を獲得したときに権利が確定されるため2月末日で給与として費用処理しますが、所得税法では、管理支配基準が採用されています。そのため給与の支給日があらかじめ定められている場合、給与所得者が実際に支給を受けられる日または、受けられた日に給与収入を認識します(所法36、所基通36-9)。そのため、3月10日死亡後に支給する給与は、所得税法上の給与ではなく、死亡した甲の相続分割財産(本来の財産)となります(相基通3-33)。そして実際に、3月10日後に支給される給与については、甲の預金口座に振込むことはできず、相続人代表者の口座に振り込むことになります。
 また、毎月の所得税徴収高計算書、法定調書合計表においても、収入金額及び税額の両方とも3月20日及び4月20日の支給額を入れることはできません。

(4)年末調整について
 年末調整の対象となる給与は、その年の1月1日から年の中途で死亡により退職した人等については、その退職等の時までの間に支払うことが確定した給与です(所法190、所基通190-1)。3月10日死亡後に支給する給与については、甲の給与所得とならないため、2月20日支給日までの給与に基づき年末調整を行います。年末調整による還付金も甲の本来の財産として相続人代表者の口座に振り込みます。

(5)その他
 会社は、住民税特別徴収について、死亡退職として給与所得者異動届出書を市区町村に提出しなければなりません(地法321の5②③)。

2.相続人側の取扱い

(1)準確定申告について
 甲に死亡日までに本年分の給与所得以外の所得がある場合等の理由により、確定申告書を提出すべき場合に該当するときは、相続人は、甲の死亡日の翌日から4か月以内(7/10まで)に、相続人全員で甲の令和4年分の所得税につき準確定申告をしなければなりません(所法125①)。また、死亡日までの本年分の所得につき、還付金等を受けるための申告及び確定損失申告をすることができます(所法125②③)。
 そして、甲が令和3年分の所得税につき提出期限である令和4年3月15日までに申告書を提出しないで死亡した場合には、相続人は甲の死亡日の翌日から4か月以内(7/10まで)に、令和3年分の確定申告をしなければなりません(所法124)。

(2)甲の住民税について
 甲の給与から本来控除されるはずであった令和3年分の住民税特別徴収税額の残額については、甲の居住市区町村から納付書が来るので相続人が納付する必要があります(地法9)。また、令和4年1月1日現在では存命であったため、令和4年分の住民税の普通徴収税額についても相続人が支払うことになります(地法24①一②、39、294①一②、318)。
 これらの住民税額と3月20日支給分以後に控除された社会保険料控除は、相続人が負担したものであり、相続税額を計算する際に債務控除の対象となります(相法13①②、相基通13-7、8)。

(3)その他
 扶養控除の対象については、死亡した者の死亡時の現況により判断する(所法85、所基通85-1)ことから、子供である乙または、丙のどちらか一方の令和4年分の年末調整において、甲を扶養控除の対象とすることができます。

まとめ
 給与については、締日と支給日が事業者により異なると思います。それにより、各種税制・社会保険の取扱いが、会社側だけでなく、相続人の側でも変わってきます。例えば、住民税について、死亡した日により、事例のように2年分の住民税納付書が相続人に届くので、会社側が相続人に予めその旨を伝えるように税理士としてアドバイスすることが必要だと思います。
 税理士は、税法に精通するだけでなく、他分野も含めて横断的な見識が必要だと改めて痛感しました。

〈文献参照〉

長谷川記央「未払役員給与の税務上の問題について」(税務研究会 税務QA2月号) 
国税庁質疑応答事例 「死亡後に支給期が到来する給与」
 (https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hotei/7/05.htm)          

執筆:安藤智子 税理士/監修:冨永典寿 税理士

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