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相続・事業承継Vital Point of Tax

専門業者に支払った片付け費用は譲渡費用に含めることができるか?!

2024/05/16

 親から相続した住宅等を売却する際、家の中に残された遺品の片づけを相続人が専門業者に依頼し、その費用を譲渡所得の計算上、譲渡費用として処理したところ、税務当局が否認したことで争われた事例が明らかになった(国税不服審判所、令和5年9月11日)。
 家屋を引渡すために負担した遺品片付け費用は、譲渡費用に含めることができるのか――。

1.はじめに
 亡くなった親が住んでいた住宅を売却する際、家の中に遺品が残っているケースは少なくない。買主としては、そのまま引き渡されても困るため、このようなケースにおける売買契約では、遺品の整理について売主側で処理することを前提に引渡しを実行するという取り決めが多いようだ。
 特に、住宅の売買から引渡しまで日程が詰まっている場合には、整理業務を迅速に実行する専門業者に任せる必要があり、思いのほか費用がかさむこともあるようだが、こうした遺品片付け費用が、譲渡所得の計算上、譲渡費用になるかどうかで国税当局と争った事例が注目されている。

2.事案の概要
 裁決書によると事案の概要は次のとおり。
・相続人Aは父親と母親から賃貸不動産(土地・建物)と親と住んでいた住宅(土地・建物)などを相次いで相続した。
・Aは、平成30年7月に買主との間で、上記不動産を売却する旨の契約を締結し、平成31年1月25日、上記不動産を買主に引き渡した。
・その際Aは、建物の中に残存していた遣品の片付け費用として300,000円を支払い、遺品は自身が引き取り、自宅で保管していたという。
・Aが申告書に添付した「譲渡所得の内訳書」には、上記不動産を譲渡するために支払った譲渡費用として、仲介手数料および収入印紙代のほか、遺品片付け費用300,000円などがそれぞれ記載されていた。
・これに対し、所轄の税務署は令和3年に調査を行い、「遺品片付け費用は譲渡所得の計算上、讓渡費用には該当しない」として所得税の更正処分・過少申告加算税の賦課決定をした。
・Aはこれを不服として国税不服審判所(以下、審判所)へ審査請求した。

3.審判所の判断

 土地・建物を売却して利益が出た場合には、その利益は譲渡所得となり、所得税・住民税が課税される。譲渡所得の計算は、売却に伴う売買金額などの収入金額から、売却した土地・建物の取得費と譲渡費用を控除して求める(所得税法33条)。計算式に表すと以下のとおりで、税額は課税譲渡所得金額に税率を乗じて求めることになっている。

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額(売却代金等)-(取得費+譲渡費用)- 特別控除額

 譲渡費用は、国税庁の取扱いで次のようになっている(所得税基本通達33-7)。

 法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」(以下33-11までにおいて「譲渡費用」という)とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く)をいう。
⑴資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記もしくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
⑵上記⑴に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、すでに売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことにともない支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用
(注)譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持または管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
 審判所はまず、「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみて、その譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものであると解される」と譲渡費用についての基本的な考え方を示した。
 そして、所得税基本通達33-7について、「譲渡費用とは、資産の譲渡のために直接要した費用および当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいうものと定めた上で、当該資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持また管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する旨定めている」と指摘し、譲渡費用の基本的な考え方に沿うものと認めた。
 これを前提に審判所は、Aらの契約について次のような事実関係を指摘した。「売買契約における特約事項(動産の撤去の特約)においては、不動産の建物内に構築物、動産がある場合は、不動産の引渡日までに売主(請求人)の責任と負担において処分・除去するものとし、また、不動産の引渡し時において残存する構築物、動産等一切について、売主(請求人)はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主(本件譲受人)による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められている」。
 一方で、審判所の調べに対し買主の取締役が「上記特約は不動産を売買する場合に一般的に使用する条項」だと答えていることも指摘。こうしたことから審判所は、次のように事実関係を整理した。
1,Aが行った遺品片付けは「特約事項に基づいて、請求人の責任と負担においてされたもの」
2,「売買契約における代金に対し請求人の主張する遺品片付け費用は300,000円にすぎない」こと
3,「不動産の引渡し時において残存する構築物や動産等一切について、売主はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められていることからすると、仮に遺品の片付けがされていなかったとしても、特約事項を理由に、不動産の譲渡が実現しなかったとは認め難い」こと
4,「遺品は請求人が引き取り、自宅で保管している」こと

 これらをもとに審判所は、「遺品片付け費用の性質についてみると、遺品片付け費用は、建物の中に残存していた遺品を片付けるために請求人が支出したものであり、また、遺品は請求人が引き取り、自宅で保管している。以上からすると、請求人は、両親が死亡したことを受け、遺品を整理する目的で遺品片付け費用を支出したとみるのが相当であり、特約事項の内容に照らしても、客観的にみて、譲渡を実現するために遺品片付け費用が必要であったとは認められない」と判断している。

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