平成29年度税制改正大綱の注目ポイント ~法人課税~
2017/02/03
<研究開発税制の見直し>
研究開発税制は、官民の研究開発投資を2020年に対GDP比4%以上とする政策目標の達成のため、試験研究費の増減に応じて支援にメリハリをつける仕組みへ見直しされます。
今までの研究開発税制は、「総額型」・「増加型」・「高水準型」・「オープンイノベーション型」で構成されていましたが、適用期限が到来した「増加型」は廃止されるとともに「高水準型」は2年延長されます。今後の「総額型」は、試験研究費の増減に応じ税額控除率が6%~14%になり(今までは8%~10%)、増加率が低ければ税額控除率も今までより引き下げられることになります。
ただし、中小法人の税額控除率は今後も12%~17%となり(今までは12%)、増加率が低くても税額控除率が今までより引き下げられることはありません。また、「オープンイノベーション型」は、手続の見直しにより使い勝っての向上が図られます。
<所得拡大促進税制の見直し>
所得拡大促進税制は、企業の更なる賃上げインセンティブを与える機能を強化する観点から、「大企業」と「中小企業」に区分し、高い賃上げを行う企業への支援が強化されます。「大企業」は、賃上げ率が前年度比2%以上であれば12%の税額控除ができますが、2%未満であると税額控除はできなくなります。一方、「中小企業」は、賃上げ率が前年度比2%以上であれば22%の税額控除ができるとともに、2%未満であっても今までの10%税額控除が維持されます。
<コーポレートガバナンス対策>
コーポレートガバナンス強化の一環として、企業と投資家の対話の充実を図るため、上場会社などが株主総会の開催日を柔軟に設定できるようにするため、法人税などの申告期限の延長可能月数が拡大されます(決算日以後6ケ月が限度)。
また、役員給与について、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与し、多様な業績連動報酬や自社株報酬の導入を促進するため、損金算入の対象範囲が拡大されます。
<組織再編税制等の見直し>
企業の機動的な事業再編を促進するため、特定事業を切り出して独立会社とする「スピンオフ」を行う際に、「スピンオフ」を行う会社の譲渡損益や株主への配当についての課税を繰延べる措置が講じられます。
そのほか、「吸収合併と株式交換の場合の対価に関する要件の見直し」・「スクイーズアウトによる完全子法人化を組織再編税制の一環と位置付ける措置」・「資産の時価評価制度の見直し」・「みなし配当の額が生ずる事由の見直し」・「組織再編税制における適格要件の見直し」などが行われますので、比較的規模の大きな法人である関与先には、見直し内容を整理して伝えるべきでしょう。
<円滑・適正な納税のための環境整備>
円滑・適正な納税のため、次の3点について手続の簡素化が行われます。
まず、「異動届出書の提出先の見直し」です。たとえば、法人税の納税地に異動があったときに提出する届出書について、異動前の納税地の所轄税務署長に提出すれば、異動後の納税地の所轄税務署長への提出が不要になります。
次に、法人の設立届出書などの提出時に、登記事項証明書の添付が不要になります。
最後に、「申告要件の見直し」が行われます。具体的には、研究開発税制などについて、納税者の立証すべき事項及び当初申告要件が明確化され、要件を満たせば控除額を変更できることを明らかにすることで、税務署長が増額更正する場合に連動的に控除額が増額できることになります。
<その他>
そのほか、適用期限が到来する「中小企業者の軽減税率の特例(15%)」は適用期限が2年延長され、「特定資産の買換えの特例」は一定の見直しを行うとともに、適用期限が3年延長されます。
また、今まで議論があった、中小企業向け政策税制の適用対象の範囲が厳格化されることになります。具体的には、資本金1億円以下の中小企業であっても、平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年15億円を超える事業年度については、中小企業向け政策税制が適用できないことになります。
(解説:中島孝一税理士)