平成30年度税制改正大綱のチェックポイント ~資産課税~
2018/01/30
〈事業承継税制の特例の創設〉
中小企業経営者の高齢化が進んでおり、今後10年間に70歳(平均引退年齢)を超える経営者は約245万人になるにもかかわらず、半数以上が事業承継の準備を終えていない現状であることから、事業承継税制の特例として(10年間の特例(平成30年1月1日から平成39年12月31日まで))、次の措置が創設されます。
・猶予対象の株式の制限(総株式数の2/3)の撤廃
・納税猶予割合の引上げ(80%から100%)
・雇用確保要件の弾力化
・複数(最大3名)の後継者に対する贈与・相続に対象を拡大
・経営環境の変化に対応した減免制度
・相続時精算課税の適用範囲の拡大
事業承継税制の特例の対象となる中小企業は、先生方の顧問先のうちでも重要の取引先(黒字の会社・含み資産の多い会社など)である場合が多いことから、改正内容をいち早く把握し、対象となる顧問先に周知すべきと思われます。
〈一般社団法人等に関する相続税・贈与税の課税の見直し〉
一般社団法人には持分が存在しないため、一族で実質的に支配している一般社団法人に財産を移転した後に、役員の交代による支配権の移転を通じて子や孫にその財産を代々承継させた場合でも、相続税が課税されないことが問題視されていました。
そのため、平成30年度改正により、同族関係者が理事の過半を占めている一般社団法人について、その同族理事の1人が死亡した場合、当該法人の財産(一般社団法人の純資産額を死亡時の同族役員の数で除して計算した金額)を対象に、当該法人に相続税が課税されることになります(平成30年4月1日以後)。
〈小規模宅地等に係る相続税の課税価格計算の特例の見直し〉
小規模宅地等の減額特例は、被相続人等の居住又は事業の用に供されていた宅地について、相続税の課税価格を減額する特例ですが、居住又は事業の継続への配慮という政策目的に沿ったものになっていない使われ方があるとの指摘を踏まえ、次の規制措置が平成30年4月1日以後の相続等により取得する財産に係る相続税に適用されます。
・居住用宅地(持ち家に居住していない者)の見直し(相続開始前3年以内にその者の親族等が所有する家屋に居住していた者などを除外)
・貸付事業用宅地の見直し(相続開始前3年以内に貸付けを開始した宅地を除外)
〈その他〉
農地に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、特定生産緑地に指定された生産緑地に対し納税猶予が適用されるなどの見直しが行われます。
美術品・文化財についても、次世代への確実な承継と、公開・活用を促進するため、文化財保護法の改正を前提に、美術館などに寄託・公開された美術工芸品について相続税の納税猶予の特例(80%)が創設されます。
また、宅地等及び農地の負担調整措置は、平成30年度から平成32年度までの間、現行の負担調整措置の仕組みが継続されます。
さらに、相続登記が未了となっている土地の発生原因の一つとして、相続登記に係る費用の負担が指摘されていることから、相続により土地の所有権を取得した者が、その土地の所有権の移転登記を受けないで死亡し、その者の相続人が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に、その死亡した者を登記名義人とするために受ける当該移転登記に対する登録免許税について、免税とする措置が講じられます。
相続税の申告書の添付書類については、納税者の負担を軽減するため、戸籍謄本に限るのではなく、被相続人の全ての相続人等を明らかにできる書類の提出も可能になります。