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インタビューInterview

「事業性評価融資」で税理士事務所と顧問先の距離感が縮まる

2017/05/12

㈱スペースワン 代表取締役 徳永貴則 氏

 企業の財務データや担保・保証に捉われず、事業内容や将来性などを適切に評価して融資を実施する――。これは、金融庁が掲げる「事業性評価に基づく融資」の方針だ。バブル崩壊後、不良債権を抱える金融機関は財務体質の改善に追われ、リスクの少ない融資が行われてきたが、今後、融資の審査はどのように変わろうとしているのか、また、融資を受ける企業サイドではどんな準備をすべきなのか――。都市銀行の勤務時代に法人融資を主体に約2000社の取引先に携わり、現在は財務・資金繰り・事業再生コンサルタントとして活躍する徳永貴則氏に話を聞いた。


――金融庁では、担保・保証に依存しない「事業性評価に基づく融資」を促していますが、その背景からお聞きします。

 
「金融検査マニュアル」をご存知の方も多いと思いますが、バブル崩壊後の金融庁検査は、不良債権処理を中心に金融機関の健全性を確保することに主眼が置かれていました。そのため、金融機関としても融資審査ではリスクをできるだけ排除し、借り手企業の事業内容よりも、財務状況や担保・保証の有無に着目するようになりました。しかし、それでは将来性が見込める企業であっても、担保などがなければ、資金を調達することができません。こうした状況を生み出したことに金融庁は反省し、今後は担保や保証に頼らず、企業の数字に表れない部分を適切に評価するといった事業性評価に基づく融資に方向転換したわけです。


――事業の将来性などを評価して融資が行われるわけですね。
 そもそも借り手企業の事業内容もよく分からないのに、財務データや担保・保証の有無だけで形式的に融資審査を行うこと自体、おかしな話だと思います。「捨てられる銀行」という書籍がベストセラーとなっていますが、金融庁の金融レポートでは、2025年に地銀の6割が本業で赤字に陥るという試算があります。マイナス金利が導入され、金融機関としても従来のビジネスモデルを変えないと、生き残っていくことは難しいでしょう。


――具体的に、金融庁は金融機関にどのようなことを求めているのでしょうか。
 平成28年9月、金融庁は「金融仲介機能のベンチマーク」を公表しました。ベンチマークとは“指標”のことで、金融検査マニュアルに代わる新たな“通信簿”といえるでしょう。これは、5つの共通ベンチマークと50の選択ベンチマークで構成され、共通ベンチマークでは、「取引先企業の経営改善や成長力の強化」、「取引先企業の抜本的事業再生等による生産性の向上」、「担保・保証依存の融資姿勢からの転換」が示されています。ベンチマークは、金融庁のホームページからダウンロードできますが、要は、金融機関が地元企業に寄り添い、経営改善を支援して、将来性が見込める企業に融資を実行するといった金融仲介機能を果たしているかどうかが評価されます。


――信用力が高い優良企業ばかりに融資する姿勢は「問題あり」ということですね。
 企業というのは人生と同様、創業期、成長期、成熟期、衰退期といったライフステージがあります。成長期や成熟期の優良企業には、どこの金融機関も積極的に融資の相談に応じるでしょう。しかし、資金を必要としている創業期や衰退期の企業には消極的になるのが現実です。こうした姿勢を見直し、創業支援に力を入れたり、下降気味の会社をブラッシュアップさせることが、今、金融機関に問われています。


――金融庁の方針とはいえ、すぐに事業性評価に方向転換できるものでしょうか。
 金融庁が重点施策に掲げてベンチマークを公表している以上、金融機関も無視するわけにはいきません。ただ、事業性評価による融資を実現させるには、2つの問題をクリアする必要があります。1つ目は、事業性を評価する金融機関の「目利き」の問題です。金融庁のパンフレットには「企業訪問や経営相談等を通じて情報を収集し、事業の内容や成長可能性などを適切に評価する」と書かれていますが、審査担当者は財務諸表を読む力はあっても、企業の技術力や開発力などを的確に評価し、市場を予測しながら将来性を判断するのは容易なことではありません。そこで、企業側から積極的に情報を開示し、審査担当者に理解してもらうことが、事業性評価の融資を実現させる重要なカギとなります。


――審査担当者の「目利き」の材料を企業側から開示するわけですね。
 はい。金融機関からの動きを待つのでなく、企業側から積極的にアプローチすることが大切ですが、ここで2つ目の問題が出てきます。それは、多くの経営者が、自社の強みや弱み、将来性などを明確に理解していないことです。私も仕事上、クライアントの経営者から「うちの商品はすごいんだよ」などと言われることがありますが、私には何がすごいのか分からないので、競合商品と比べてどこがすごいのか、品質なのか、技術なのか、付加価値なのか、数年後も優位性があるのか、その「すごい」という根拠を尋ねると、ほとんどの経営者が考え込んでしまうか、曖昧な回答が返ってくるだけです。経営者本人が自分の事業を理解していないのに、第三者である審査担当者に説明することなんてできません。


――まずは、自社の事業をしっかり理解することが重要といえますね。
 これまでの融資では、決算書の数字や担保など目に見えるもので評価されていました。しかし、事業性評価による融資では、ブランド力や営業ノウハウ、技術力といった目に見えない知的財産が評価されますので、企業側はそれらを緻密に分析し、自社の成長可能性を整理し、融資判定の資料として「見える化」させる必要があります。分析の方法としては、SWOT分析をはじめ、様々な手法がありますが、審査担当者を納得させる資料を作るためには、やはり専門家のサポートが不可欠だと思います。そして、その適任者こそ税理士の先生方ではないでしょうか。事業性評価を支援することで、融資以外にも様々なメリットが期待できるはずです。


――どのようなメリットが考えられますか。
 例えば、顧問先は自社のビジネスを分析することで、強みや弱みが明確になりますので、今後の経営方針がハッキリと見えてきます。また、税理士事務所にとっても顧問先のビジネスを深く理解するキッカケとなります。そして、分析結果から、税理士事務所として新たに支援すべきところも発見できるでしょう。さらに、分析結果をベースに事業性評価の判断材料となる上質の資料を作ることができますので、顧問先と金融機関との付き合い方も変わってくるはずです。そもそも、事業性評価に基づく融資は金融庁の反省から始まったものですが、税理士事務所が顧問先と一緒にビジネスを分析する絶好の機会であり、それにより税理士事務所と顧問先の距離感、さらには顧問先と金融機関の距離感を縮める大きなチャンスではないかと考えています。

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