日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

インタビューInterview

ダウン症の子を持つ親として障がい者の「親なきあと」を支援

2023/05/08

藤原 由親 税理士(大阪・中央区)

 相続専門の税理士として活躍している藤原由親税理士。ご自身の子がダウン症と診断されて以来、相続案件をサポートする一方で、障がいがある子どもたちの「親なきあと」対策にも積極的に取り組んでいる。その活動について話を聞いた。


――障がいがある子の「親なきあと」を支援するようになったキッカケからお聞きします。
 私の家は妻と長女、次女、長男の5人家族で、次女が生まれた時にダウン症と告知されました。その時はさすがにショックを受け、この先どうなるのか、発達はどれくらい遅れるのか、漠然とした不安を抱えていました。そんなある日、自宅へ戻ると、長女が人形に注射をしたり、布団に寝かせたりしているので、何をしているのか尋ねると、「妹が病院から帰ってきたら看病してあげるの」と言うのです。長女も小さかったのでダウン症のことは分かっていませんでしたが、彼女なりに「妹には何かあるんだ。妹のことは私が面倒をみよう」と思ったのでしょう。長女の言葉を聞いて、子どもがそんなことを考えているのに、親が泣いていてどうするんだと思い、そこから私も次女のためにできることを考えるようになりました。

――まず、どのようなことをされましたか。
 ダウン症のことを詳しく理解していなかったので、まずはダウン症について調べました。1千人に1人くらいの確率で生まれてきて、かつては平均寿命が短いと言われていましたが、現在では医学の進歩により60歳くらいまで生きる人もかなり増えています。もちろん、長生きできるようになったのは嬉しいことですが、一方で、完全に自立することは難しいであろう次女の「親なきあと」の生活に不安を感じました。自分がいなくなった後、誰が面倒をみてくれるのか、お金の管理はどうするのか、どこに住めばいいのか、いろいろと調べていくうちに、障がいがある子の「親なきあと」のインラフがあまり整っていないことが分かりました。

――「親なきあと」の子どもの生活は心配になりますね。
 その不安を解消させるには、正しい情報収集が欠かせません。私は相続専門として法律や税務に携わっていますので、その分野における「親なきあと」対策などについてセミナーを通じて情報を発信しています。そうした中、同じように障がいがある子を持つ藤井奈緒さんと相続の勉強会で知り合い、一緒にセミナーを開催していくうちに、「親なきあと」について異なる得意分野を持っている専門家が集まれば、もっと多くの情報発信ができるほか、不安を抱えている方々の受け皿にもなれるという想いが合致し、「親なきあと相談室」関西ネットワークを設立しました。なお、「親なきあと相談室」は、行政書士の渡部伸先生が設立されたもので、渡部先生の想いに賛同した方々が全国で同じように相談窓口を作っています。

――関西ネットワークではどのような活動をしていますか。
 「親なきあと」に関するセミナーや個別相談のほか、各方面の専門家への橋渡し、インターネットやメディアを通じた情報発信を行っています。また、障がいがある子のご家族の情報交換の場を提供するほか、(一社)日本相続知財センターが無料配布している『親心の記録®』の普及活動や書き方などをアドバイスしています。「親心の記録®」は、障がいがある子の日々の状況や通っている病院などを記しておくことで、親がいなくなった後、その子を支援してくれる方々に、その子のことを知ってもらうための冊子です。

――藤原先生は「親なきあと」に関する書籍も執筆されていますね。
 「親なきあと」のセミナー受講者で希望される方には個別相談を行っていますが、皆さん知らないことが多すぎて、「親なきあと」の情報が世間に届いていないことを痛感しました。また、セミナー受講者の大半は障がいがある子の母親で、セミナーが終わった後、「自宅に戻ったら主人に話してみます」などと言われますが、セミナーで聞いたことを上手く説明することができず、結局、先に進まないというケースも多々あります。そこで、「親なきあと」の情報を一冊の本にまとめて、「これを読んでみてください」と渡すことができれば、ご両親の理解が深まるだけでなく、本を買っていただいた全国の方々にも「親なきあと」の情報を届けることができるとの思いから執筆しました。

――個別相談ではどんなことをアドバイスしていますか。
 ご家庭の状況によって様々ですが、いろいろな事情を考慮して遺言を書くことを提案しています。ただ、相談者が40代や50代となると、財産の内容やご家庭の状況も将来変わってきますので、そのような場合は、万が一のときにお子さまが困らなくて済むように、ご主人の財産はすべて奥様に、奥様の財産はすべてご主人に渡すことを書いておくように勧めています。相談者がご高齢の場合は、もっと具体的な遺言が必要になりますが、いずれにしても、まずはご家庭の財産の棚卸しをして、現状把握を行わないと最善の対策を打つことはできません。これは通常の相続対策でも同じことが言えます。

――財産の棚卸しをする前に、相談者から「信託を活用したい」などと要望を言われた時はどうされていますか。
 ネットで情報をいろいろ入手できますので、信託に限らず、相談者から「この方法でお願いします」などと要望を言われるケースは少なくありません。ただ、要望に沿ってプランを作ることはできますが、ご家族にとってそれが本当に最適かどうかは別の話です。大事なのは、財産の棚卸しを行った後、こちらから提案する対策の必要性を理解していただき、ひとつずつ納得してから次へと進んでいくことです。その結果、例えば、相談者の要望とおりに信託を活用するのがベストという判断になることもありますが、いろいろな対策の中で信託を活用するのがどうして一番良いのか、そのことをご家族が理解して納得していることが最も重要だと捉えています。

――最後に今後の展望についてお聞かせください。
 障がいのある子が一人きりになった場合、裁判所に成年後見人を選定してもらうケースがありますが、どんな人が後見人になるか分かりません。また、後見人は本人の財産を守ることを役割としていますので、本人の気持ちを察して対応してもらえるとは限りません。親としては後見制度の利用に不安が残るところがあります。そこで、障がいのある子が一人きりになった時、ほかの障がいの子を持つ親たちが後見人を引き受けるような組織を作りたいと考えています。親としても安心して子どもを任せられるほか、私自身も成年後見制度の利用を勧めやすくなります。また、私が代表社員を務める税理士法人のグループの中で作業所を開設していますので、今後は相続関連の資料整理などをやってもらうことを検討しています。障がい者の作業所で職員が虐待しているニュースをたまに見ますが、障がいを持った子の親が運営していて、しかも税理士法人での作業となれば、子どもを安心して預けられるのではないでしょうか。税理士法人としても業務効率化を図れるメリットがありますので、ひとつのモデルケースとして実現させたいと思っています。

PAGE TOP