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インタビューInterview

互換性のないソフト同士を転記作業の自動化で繋げる

2019/08/19

轟勝之 税理士/中村由布紀 氏/宮本エリ子


人間がパソコン上で行っている定型的な業務を、ロボットが代わりに毎日処理してくれる――。そんな「業務の自動化」を実現させるのが「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)という機能だ。税理士法人とどろき会計事務所の轟勝之税理士(写真・右)の事務所でも、職員の中村由布紀氏(写真・中央)と宮本エリ子氏(写真・左)が中心となってRPAを導入し、業務の効率化・自動化を図っている。


――事務所にRPAを導入しようと思ったキッカケを教えてください。

轟:税理士業界にも人手不足の波が押し寄せていますが、そうした時代に所長に求められるのは、限られた人数で効率的に業務を遂行していくことです。そこで、私の事務所でも数年前から業務の改善を進めており、少しずつ成果が出ているところですが、そうした中、さらなる業務効率化として中村から提案されたのが、RPA機能を使ったデータの自動転記でした。

中村:事務所の給与計算ソフトと電子申告ソフトに互換性がなく、関与先企業の年末調整の作業で給与支払報告書を作成しても電子申告することができず、すべて郵送で提出していました。電子申告ならボタンひとつで終わるところ、顧客企業のデータを印刷して申告書類を加工し、宛名を書き、切手を貼って各市区町村に郵送しなければならず、その手間を何とかしたいと思っていました。給与計算ソフトのデータを電子申告ソフトに手入力で転記すれば電子申告することはできますが、膨大な時間と手間がかかります。そこで、個人的に関心があったRPAの機能を使うことで、転記の自動化が実現できるのではないかと考え、RPAツールの展示会に行ってみました。

――展示会は一人で行かれたのでしょうか。
中村:宮本と一緒に行きました。もともと事務所のアシスタントとして入力作業などを担当していましたが、メーカーの研究開発部門でエンジニアとして働いていた経歴を知り、一緒にやりませんかと声をかけました。経験者の宮本が加わったことで、RPAの導入スピードが一気に加速したのはラッキーでしたね。展示会には高額なRPAツールもありましたが、導入後の費用対効果も分かりませんので、まずは所長に提案しやすい価格のツールを選びました。


――RPAの話を聞いて轟先生はどう思われましたか。
轟:中村から説明を聞いているうちに、私自身もRPAの可能性を追求してみたくなりました。最近、働き方改革が話題になっていますが、所長が「残業しないで帰りなさい」と言ったところで、職員の仕事量が変わらなければ帰りたくても帰れません。職員が残業しないで早く帰れる環境を作ってあげることは、所長としての重要な役割であり、それを実現させるには、まさにRPAは必要不可欠なツールだと感じました。高額な価格だったら二の足を踏んだかもしれませんが、チャレンジしやすい価格だったことも導入の決め手になりました。


――独自でシステムを開発するのは大変でしたか。
宮本:今回開発した業務アプリ「給与支払報告書電子申告用 データ移行システム」は、給与管理ソフトに蓄積されたデータをRPAに読み込ませ、電子申告ソフトに自動で記入させる仕組みですが、開発を進めていく上で大変だったのは、11月頃に給与管理ソフトと電子申告ソフトの両方の機能に若干の変更があったことです。プルダウンメニューの位置が少し変わったところで、人間が操作する分にはまったく問題ありません。しかし、RPAは指示通りにしか動きませんので、ほんのわずかでも変更があれば、それに対応した新しい指示を出さなければなりません。開発当初は慣れていないのでトラブルも多々ありましたが、何度も修正しながら最終的に電子申告で申告書を提出することができたので安心しました。


――どれくらいの効率化を図ることができましたか。
中村:150人分のデータを約150分で電子申告ソフトへ自動転記することが可能となりました。関与先の中には社員500人という企業もあり、これまで年末調整については3人の職員が約3日間かけて申告書を各市区町村に郵送していましたが、今回のデータ移行システムにより、約9時間で電子申告ソフトに500人分のデータを自動転記することができました。しかも、自動転記が行われている間、担当者は別の作業を行うことができるほか、電子申告のため印刷代や郵送代などの費用負担もありません。


――人手と時間とコストが大幅に短縮できたわけですね。
轟:そうですね。ただ、RPAを導入して一番良かったのは、これまで入力作業などの処理業務に多くの時間を費やしていた職員たちが、RPAによる自動化を目の当たりにして、「このままではダメだと」という意識を持つようになったことです。RPAを活用すれば、事務所業務の3割くらいは自動化できると思いますので、処理業務から解放された分、お客様に対して頭を使った仕事を提供しようとする意識が生まれてくることを期待しています。AIによって税理士業務がなくなるなどと言われていますが、AIやRPAは、税理士の仕事を奪うものではなく、税理士が質の高い仕事をするための時間を生み出してくれるものだと捉えています。


――RPAの導入を検討する事務所も増えてきそうですね。
轟:人手不足がさらに深刻になってくれば、RPAはますます強力な武器になるのは間違いありません。もし、RPAを導入することで職員5人分、10人分の仕事量をカバーできるとなれば、多少高額な費用を払っても導入する事務所は多いと思います。また、RPAを導入して職員の残業をなくすことができれば、税理士試験の勉強時間なども取りやすくなりますので、「残業なしの事務所」をアピールすることで、良い人材の採用に繋がるかもしれません。


――今後、新たなツールを開発する予定はありますか。
中村:事務所の経理担当者が請求システムを使って消し込み作業や請求書の発行を行っていますが、上手いやり方を考えてRPAに指示すれば、8割くらいは自動化できると考えています。今回の業務アプリの開発を通じて、RPA機能を活用すれば、越えられないと思っていた垣根も越えることができることを実感しました。RPAには多くの可能性がありますので、これからも日々の業務の中で自動化できそうなところを見つけていきたいと思います。

宮本:RPAツールの開発を外部委託する事務所もあると聞きますが、私どもは内製化していますので、強みである機動力と柔軟性を活かし、職員の皆さんに喜んでもらえる新しいツールを開発していきたいと考えています。
轟:中村と宮本の2人がそろわなければ、今でもRPA導入には至っていなかったと思います。今回の開発は、今後の事務所経営において非常に価値あるものとなりました。これからも業務の効率化を進めていき、自動化できる作業はすべてRPAに任せ、事務所全体でサービスの質を高めていきたいと考えています。

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