日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

インタビューInterview

スマホやパソコンには様々な情報が・・・ 今すぐ始めたい『デジタル終活』

2022/06/14

日本デジタル終活協会 代表理事
伊勢田 篤史 弁護士・公認会計士

 スマートフォン(スマホ)やパソコンのログインパスワードを誰にも伝えずに持ち主が亡くなり、遺族や会社関係者がこれらのパスワードロックを解除できずに、予期せぬトラブルに巻き込まれてしまうケースが相次いでいる。一方、パスワードロックを解除したことで、機器内などに保存されていた故人のプライベートな情報が遺族などに知られてしまうケースも珍しくない。こうしたトラブルを防ぐため、日本デジタル終活協会では、自身の死後のスマホやパソコン内のデータといった「デジタル遺品」の処理を考える「デジタル終活」を広める活動を行っている。代表理事を務める伊勢田篤史弁護士・公認会計士に話を聞いた。 


――伊勢田先生がデジタル終活に注目されたキッカケからお聞きします。

 相続は、亡くなった方から残された方への「想い」のリレーです。しかし、その想いとは裏腹に、相続で争う人は後を絶ちません。トラブルを未然に防ぐためには、亡くなった後の身の回りの整理や相続対策など、いわゆる「終活」を行っておくことがとても有効です。私は、「いつか相続で苦しめられる人をゼロにしたい」という想いから、「終活弁護士」として相続対策の観点から終活を広める活動を行ってきました。そんな活動の折、ある方からの紹介で、萩原栄幸先生の「デジタル遺品が危ない」という書籍を読みまして、そこで「デジタル遺品」や「デジタル終活」という言葉を知りました。

―書籍を読んでどう思われましたか。
 とても面白いと思いましたね。終活というと、どうしても「葬儀どうする?」「お墓をどうする?」という非日常的な部分に目が行きがちで、なかなかとっつきにくいという印象をもたれることもありました。一方で、デジタル終活というのは、毎日使っているスマホやパソコンという「日常」が対象となります。どうしても「他人事」のように捉えられがちな終活を、「我が事」として捉えてもらうことができるきっかけになるのではないかと思いました。2015年当時、デジタル終活という言葉自体、まだ世間にほとんど認知されていませんでしたので、なんとかして広めたいと思いました。

――どのようにして「デジタル終活」を広めていったのでしょうか。
 2015年当時、この問題を取り扱っている専門家は非常に少なく、特に士業の先生でデジタル終活に取り組んでいる方は、インターネットで調べた限りでは皆無でした。そこで、士業の立場からデジタル終活を広めていこうと考えましたが、一人の弁護士という形よりも協会という形にしたほうが認知もされやすいのではないかと思い、「日本デジタル終活協会」という協会を立ち上げました。協会では、デジタル終活に特化した日本初のエンディングノートを企画・製作したほか、デジタル終活のセミナーなどを積極的に開催していました。

――デジタル終活のポイントを教えていただけますか。
 遺族が亡くなった方のスマホやパソコンなどを調べる際、最も問題となるのが「デジタル機器にログインできるかどうか」という点です。ログインさえできれば、保存されているデータや利用しているインターネットサービスなどを確認できますので、その後の引き継ぎなどの作業をスムーズに進めることができます。とにかく、デジタル機器のログインパスワードだけは必ずメモに残しておくべきです。ログインパスワードを共有しておくだけで、デジタル遺品に関する問題は8~9割解決するといっても過言ではありません。

――パスワードが分からなければ、どうすることもできませんね。
 パソコンであれば、専門事業者に依頼すれば、比較的安価にパスワードロックを解除してもらうこともできます。一方で、スマホのパスワードロックは、そもそも対応できる専門事業者も限られており、また非常に高額となるケース(20万円以上かかることも)が多いと聞きます。またロック解除に半年以上かかるケースもあるようです。スマホのパスワードがわからない場合には、残念ながら、過半数以上の方がデータ復旧を諦めてしまうようですよ。

――パスワードの共有のほかに、どんな対策がありますか。
 遺族は、相続手続きの観点から、故人の金融資産を把握する必要がありますので、現在利用しているネット銀行やネット証券の会社名(ID、PWまでは不要)をデジタル機器のログインパスワードと一緒にメモしておくとよいでしょう。また、サブスクリプションサービスは遺族が解約しなければいけない場合がありますので、利用しているサービス名などをリストアップしておくとよいと思います。

――デジタル遺品は、高齢者よりも若い人のほうが多く持っている感じがします。
 おっしゃるとおりです。終活は、高齢者が行うものというイメージがありますが、デジタル終活はむしろスマホやパソコンなどのデジタル機器を使いこなしている若い人こそ、やっておくべきものといえます。また、個人事業主や中小企業の経営者は、仕事に関する情報がスマホやパソコンに大量に保存されているケースも多いかと思いますので、仕事の引継ぎという面からもデジタル遺品の処理について考えておく必要があります。

――仕事で使っているデジタル機器のパスワードなども、家族に伝えておくべきなのでしょうか。
 万が一の際には、業務の引継ぎなどもありますので、仕事で使用しているデジタル機器のログインパスワードの共有は必要不可欠です。一方で、家族や従業員に見られたくないデータ等も存在する可能性があり、慎重な対応が求められるといえるでしょう。

――では、どのような対策が考えられますか。
 個人事業主や中小企業の経営者が使用している仕事用のデジタル機器のログインパスワード問題については、信頼できて守秘義務も負っている顧問税理士の先生にお願いするのが最適だと考えます。エンディングノートなどを活用して、どこに、どんな名前でデータが保存されていて、どう処理してほしいのか、ログインパスコードと一緒を書いておき、税理士の先生と共有しておくとよいでしょう。必要な情報を取り出した後は、個人情報の漏洩を防ぐために物理的に破壊してもらえばデータは完全に消去できますので、具体的な対応策を税理士の先生と一緒に考えることが求められます。

――協会を立ち上げた2016年と比べると、デジタル終活の認知度は高まってきたと感じますか。
 楽天インサイト㈱が男女1千人を対象に「終活に関する調査」を今年実施しましたが、終活の実施意向がある人に今後する予定があること、興味があることを複数回答で聞いたところ、「家の中の荷物整理」が60.9%とトップでしたが、次に多かったのが「パソコンやスマートフォンなどのデータ整理」で39.8%と約4割に及んでいます。こうした数字からも、デジタル遺品について考える人が増えていると感じますね。

――最後にメッセージをお願いします。
 デジタル終活は、たった10秒。スマホやパソコンのログインパスワードを共有するだけで済んでしまう、最高にコストパフォーマンスの高い終活です。税理士の先生方におかれましては、まずはご自身の万が一に備えて対策をして頂けたらと思いますが、一方で、「終活」や「事業承継」をはじめるきっかけを作ることができうるコンテンツとして、是非「デジタル終活」をお客様にもお勧めしていただけたらと思います。1人でも多くの方に、デジタル終活に取り組んでもらえたらうれしいです

PAGE TOP