会計事務所に情報やツールを提供し、中小企業のDX推進をバックアップ
2021/09/09
中小企業DX推進研究会
会長 山口 高志 氏
ビジネス変革の鍵としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されているが、全国の中小企業のDXを推進するため、そのサポート役となる会計事務所を支援しているのが「中小企業DX推進研究会」だ。山口高志会長に研究会の活動内容やDXに取り組む際の注意点などについて話を聞いた。
―DX(デジタルトランスフォーメーション)が大きなブームになっていますね。
メディアなどで取り上げられる機会が増えたほか、デジタル庁の新設など国としてもDX推進に本腰を入れていますので、ここ数年でDXの注目度はかなり高まったと思います。DXの実現に向けて動き出す企業も増えてきましたが、中小企業の場合は、人の問題や予算の問題など様々な制約の中でDXに取り組んでいかなければなりません。そのためDXを推進する外部のサポート役が必要であり、それに最も適任なのが会計事務所だと考えています。
―なぜ、会計事務所が適任なのでしょうか。
ITベンダーなどは、自分たちが売りたい商品を提案してきますので、その提案を受け入れた結果、会社のビジョンにマッチしないものや身の丈に合わないツールを導入してしまい、使いこなせずに失敗してしまうケースが多く見られます。その点、会計事務所は、顧問先の数年先の経営ビジョンを共有しているほか、どこまで投資できるかという懐事情も把握していますので、将来のビジョンを実現させるために必要なツールなのか、会社にとって無理のない投資なのか、外部の視点から的確に判断することができます。中小企業のDXを支援する絶好のポジションにいるわけです。
―とはいえ、支援するにはITの知識などが求められてくると思います。
確かに、税理士業界はそれほどITに強いとは言えないと思います。また、ITやシステムの専担者を置いている会計事務所も少ないでしょう。ですが、もし全国の会計事務所がDXを支援できるようになれば、中小企業におけるDXの取組みが一気に広がり、最終的に中小企業の成長や発展に大きく貢献できるはずです。そうした想いから、全国の会計事務所がITやDXについて理解を深めていただき、顧問先である中小企業のDX推進を支援できるようになっていただくための場として、この研究会を立ち上げました。
―研究会ではどのような活動が行われていますか。
会員事務所向けに毎月1回、オンライン形式による勉強会を開催しています。ここでは、会計事務所自体がDXを実現させるための取組みのほか、顧問先のDXを指導する上で必要な情報の共有、Webマーケティングにおいて必須となる基礎知識の習得といった大きく3つのテーマを学んでいただきます。また、会計事務所自体のDXの実践事例と、顧問先へのDX推進事例の2つのパターンの事例研究を行っています。他社が成功しているから自社でも必ず成功するということはありませんが、DXのイメージをつかむ上でも事例研究は重要だと考えます。そのほか、定例勉強会よりもさらに深いテーマを研究する分科会を開催し、会員事務所が互いに協力しながら、より高い知識やスキルを習得しています。
―会計事務所の中には人材を育てる余裕がないというところもあります。
そうした事務所をフォローするため、研究会では、DXに役立つ情報や課題解決のヒントを収録した動画コンテンツをはじめ、顧問先の課題を抽出するヒアリングシート、顧問先への情報提供に利用できるニュースレターなどを用意しています。これらのツールを活用することで、ITに詳しくない職員でもお客様に有益な情報を提供できるほか、顧問先のデジタル化のニーズをくみ取ることができます。また、多くのITベンダーなどにパートナー企業として協力をいただいておりますので、会員事務所はそれぞれの地域でパートナー企業の協力を得ながら顧問先のデジタル化を推進することができます。
― 会計事務所に対して様々なバックアップをしてくれるわけですね。
分科会にも積極的に参加したいという事務所がある一方で、DXに関する情報だけほしいという事務所もあります。そうしたニーズにお応えするため、研究会ではプレミアム会員や一般会員などに分けてサービスを提供しています。ただ、どの会員に所属したとしても、顧問先のDX推進だけでなく、会計事務所自体のDXにもチャレンジしてほしいと思いますね。そのための動画コンテンツやツールもたくさん用意しています。DXの実現にはいくつかのステップがありますが、それをひとつずつ達成できるように研究会としても全力でお手伝いさせていただきます。
―DXを実践するに当たって注意すべきことはありますか。
最も重要なのは、どこを目指しているかというビジョンをしっかり持つことです。いわゆる経営計画ですね。ITに精通した優秀な社員が何人いても、このビジョンをよく理解しないでDXを実践した結果、お金をかけてシステムを導入したのに、何の成果も生まれなかったというケースに陥ることが往々にしてあります。何のためにDXに取り組むのか、その目的地はどこなのか、まずは経営者が従業員に対して明確に伝えることが大切といえます。システムはあくまでツールに過ぎません。さらに言えば、それを使ってデジタル化を図ることがゴールでもありません。製品やサービス、ビジネスモデル、企業文化・風土といった経営そのものを変革させることがDXの本質であることを理解しておく必要があります。
―なぜ、企業文化や企業風土まで変える必要があるのでしょうか。
例えば、社内で紙を使わずに業務を回すことができる仕組みを整えても、それを一人でも利用しない人がいれば意味がありません。社内にペーパーレス化を根付かせるのであれば、アナログの紙からデジタルの紙へと全社員のマインドが切り替わり、それを企業風土として定着させることが不可欠です。今まで当たり前だったことを変えるのはとても大変ですが、それを乗り越えることができれば、大きな成長や発展に必ず繋がっていきます。
―最後にメッセージをお願いします。
会計事務所はこれまで中小企業の身近なサポーターとして、税務や財務という面から経営支援を行ってきましたが、今後はデジタルに対する知見を獲得し、経営とデジタルを一体として支援することが今まで以上に求められてくると思います。特に、コロナ禍によって世界のデジタル化の流れは急速に早まったと感じます。全国の中小企業が元気にならなければ、会計事務所も元気になりません。研究会では、これからも会計事務所や中小企業のDX推進に役立つツールを提供しながら、メーリングリストなど会員事務所の情報交換の場も増やしていきます。興味がございましたら、研究会のホームページを覗いてみてください。
中小企業DX推進研究会 https://dxgroup.jp/