癒しビジネスの支援に特化する『セラピスト税理士』
2016/10/05
益田 あゆみ 税理士
医業や建設業、飲食業など業種を絞り込んでサービスを提供する「特化型」の税理士事務所は少なくない。益田あゆみ税理士もその一人だが、特徴的なのは、セラピストとしての経験を活かし、自らを『セラピスト税理士』と名乗ることで、「癒しビジネス」の支援に特化している点だ。心身への治療・療法を行っている専門家に限らず、エステやネイルサロンなど「癒し」を与えるすべての事業主をターゲットとしている。
事業主の交流会に参加してブログや小冊子に繋げる
開業から1年後には、顧問契約の依頼や確定申告の相談が次々と寄せられるようになったという。確かに、「癒しビジネス」に特化するケースは珍しいが、それだけで関与先が増えるほど甘くはない。そこには、益田税理士の戦略と努力の成果が垣間見られる。
開業後、すぐに「癒しビジネス」の事業主が集まる交流会やイベントに積極的に参加。そこで多くの事業主と知り合い、自分自身のPRやネットワークの拡充に努めた。また、「自分の趣味をビジネスにしている場合、事業主や経営者としての感覚が足りない方も見られます。仕事をして収入を得ている以上、もっと幅広くお金のことに関心を持ってもらいたいと思い、『癒しのお仕事をしている方へ 損をしないための簡単なお金の話』という小冊子を作りました」。
その後、交流会やイベントで小冊子を配るほか、「癒し系」の各種専門学校などに置いてもらうなど、休む暇もなく走り回った益田税理士。さらに、ブログやホームページを積極的に活用し、小冊子のダウンロード機能を追加したところ希望者が殺到。現在、申込み件数はダウンロードも含めて2千冊を超えた。そこから顧問契約の依頼に繋がり、さらに関与先からの紹介によって顧問先は順調に増えていった。
「セラピスト税理士」のネーミング、事業主とのネットワークの拡大、ホームページやブログの有効活用、小冊子の贈呈・・・これらはすべて見込み客を囲い込むための一連の流れであり、戦略が見事にハマったといえるが、成功した一番の要因は、やはり益田税理士の行動力といえるだろう。
セラピストの経験は、税理士業務にも役立っているという。「セラピストという職業柄、相手の考えていることを敏感にキャッチする能力は多少なりとも身に付いたと思います。お客様からの電話でも声のトーンなどを意識し、調子がおかしいと感じた時は『元気がないけど、どうかしましたか?』と尋ねると、本来の要件とは別の話が次々と出てきます。このようにお客様とコミュニケーションを図る上で、セラピストの経験は大きな財産となっています」。
一方で、関与先に対して常に客観的な判断をできるように、相手との距離感にも注意を払っている。「他人にしつこく入り込まれるのを嫌がるタイプもいます。また、こちらが入り込んでしまうと冷静な判断ができなくなる恐れもあります。個々のお客様によって良いところで線を引き、互いに手を取って目標に向かうことがベストだと考えます」。
クラウド会計ソフトで企業の経理をサポート
「癒しビジネス」には個人事業や小さな会社が多く、経理担当者が不在というケースが大半だ。そこで、益田税理士はクラウド会計などを関与先に提案し、入力作業をサポートしながら経理処理を支援している。「お客様は売上などをタイムリーに確認できるほか、入力作業量に応じて顧問料を下げることもできます。私にとってはお客様を訪問する時間が増えますので、互いにメリットがありますね。今後、クラウド会計ソフトが普及してくれば、こうしたスタイルは増えてくると思います」。
益田税理士の今後の目標は、「税理士の仕事を続けていくこと」。事務所経営も軌道に乗っており、順風満帆にも思えるが、「税理士として仕事を続けるためには、お客様のために新しい知識を身に付けることが欠かせません。そこで、会計人の勉強会グループに所属してレベルアップを図るほか、税法以外の知識も幅広く身に付けています」という。つまり、「税理士を続ける」とは、「常に成長すること」を意味しているわけだ。「日々、学びですね」と語る姿に、現状に満足しない強い気持ちが感じ取れた。