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インタビューInterview

10周年の関東信越税協連企業年金基金 経営者の目線で作った企業年金制度

2018/11/15

常務理事兼運用執行理事
澤田 真由美 税理士

中小企業の実態を熟知している税理士が集まり、経営者の目線で作り上げた「関東信越税協連企業年金基金」(理事長=藤沼康雄税理士)。平成20年に栃木県内で誕生して以来、多くの経営者から支持され、すぐに対象エリアを拡大。設立10周年を迎えた現在の加入者は約1千名となっている。そこで、同基金の常務理事で設立メンバーである澤田真由美税理士に、多くの経営者を惹きつける同基金の魅力について話を聞いた。

――関東信越税協連企業年金基金は、もともと栃木県内で設立されたそうですが、その経緯からお聞きします。
 平成24年3月末に税制適格退職年金制度(適格年金)が廃止されることが決まり、地元の栃木県の中小企業でも、多くの経営者が適格年金からの移行先について頭を悩ませていました。私自身も関与先から移行先について相談される機会が増えてきて、いろいろと調べてみましたが、お客様に喜んでもらえる移行先がなかなか見つかりませんでした。そうした中、栃木県税理士協同組合の役員の先生方も同じような問題を抱えていて、お客様に喜んでもらえる制度がないのであれば、自分たちで作ってみてはどうかという流れになり、私もそのメンバーの一人として参加しました。

――実際に基金の設立認可が下りるまで、どれくらいかかりましたか。
 栃木県税理士協同組合において企業年金基金設立プロジェクトの検討を平成17年7月にスタートさせ、その翌年にオリックス㈱と同プロジェクトの推進で基本合意しました。その後、何度も話し合いの場を設けましたが、まったくのゼロから作り上げてきましたので、壁にぶつかることも多々ありました。それでも、地元の困っている経営者を救いたいという一心で、全員で努力した結果、平成20年3月に栃木県税理士協同組合企業年金基金の設立許可を取得することができました。

――設立後、加入者の反応はいかがでしたか。
 設立当初は栃木県内の15事業所、330名で事業を開始しましたが、加入した経営者の方々にお会いすると「中小企業にとって非常に使いやすい制度ですね」などと喜んでくれましたので、基金を作って本当に良かったと思いました。その評判は、栃木県外の企業にも伝わるようになり、平成21年には新潟県と福島県の企業が、「中退共以外の退職金準備手段として活用したい」ということで加入されました。その後も適格年金の廃止が近づくにつれて、栃木県外の企業からの問い合わせが増えてきましたので、関東信越税理士協同組合連合会の組合員や関与先にも提案・加入していただけるように、平成22年10月に「関東信越税協連企業年金基金」と名称を変更しました。

――その後、㈱日税ビジネスサービスに基金の事務局業務を移管されていますね。
 加入者が増えるにつれて、事務局としての業務負担も重くなってきます。特に、当時の加入事業所は、基金の掛け金を振込みなどで納付していましたので、私どもはこれを口座振替にしたいと考えていました。口座振替といえば、保険料や顧問料など、税理士業界の様々な集金業務の事務を代行している㈱日税ビジネスサービスに相談するのが一番ですから、当基金の役員らが同社を訪問したところ、口座振替だけでなく事務局業務も引き受けてくれることになり、とても助かりました。その後も加入事業所は順調に増え続け、今では加入者が約1千名の基金へと成長しています。

加入資格や掛金は自由に設定でき、従業員1名以上で代表者も加入OK


――関東信越税協連企業年金基金の特長を教えて下さい。
 厚生年金保険の適用事業所であれば、従業員1名以上から加入できるほか、公的な退職金共済制度とは異なり、代表者を含む役員の退職金準備手段としても活用できるのは大きな特長と言えますね。例えば、夫婦二人で会社を経営されている方々が、自分たちの給料とは別に、リタイアした時の退職金準備として基金を積み立てているケースもあります。また、老後資金の準備だけでなく、従業員の中途退職時に支払う退職金原資の準備手段としても活用できます。

――社長自らが加入できるのはニーズが高そうですね。
 そこが気に入って加入された経営者も多いですね。従業員と役員が加入する場合は、それぞれ異なる基準を設けることができるほか、会社ごとに役職や等級、勤続年数などに応じて基準給与(掛金)を自由に設定することが可能です。加入者からも自社の退職金制度に合わせてオリジナルのプランを作ることができると好評を得ています。

――経営者の意思を反映した柔軟な制度が構築できますね。
 自由度の高さで言いますと、積立金は10 0 0円単位で、下限は1000円、上限は設けていませんので毎月数十万円を積み立てている経営者もいます。会社が負担する掛金は全額損金扱いで、退職時に基金から受け取る一時金は退職所得として退職所得控除の対象となります。そのほか、経営者の意思を反映している点といえば、中退共の場合、従業員が不正なことをして会社を辞めても、従業員に退職金が直接振り込まれます。その仕組みを嫌がる経営者も多いですが、当基金では不正を働いて従業員が退職した場合、会社が手続きを踏むことで、その従業員には退職金が支払われず、基金の留保金として溜めておくことができます。

――経営者としては基金の積立不足が気になるところですが、その点はいかがですか。
 当基金は、給付水準が国債の平均利回りに連動するキャッシュバランスプランを採用していますので、これまでの企業年金制度のような利差損の発生する可能性を低く抑えています。ですから、大きなリターンは期待できませんが、積立不足による掛金の追加負担が生じにくいので、企業規模に関わらず安心・安全に導入できる制度となっています。また、健全な基金運営を実施するため、基金の代議員会において加入審査を行っており、債務超過の企業などは加入をお断りしています。

――基金に加入できる業種は限定されるのでしょうか。
 当基金は、日本でも珍しく、様々な業種が加入できる「多企業型」となっており、現在、サービス業や小売業、卸売業、税理士などの士業関連など様々な事業所が加入しています。ある医療法人は、理事長および理事の退職金準備と従業員の退職金準備を目的に当基金に加入されましたが、求人票に「関東信越税協連企業年金基金加入」と記載したところ、業務経験者の応募が増加したと聞いています。私自身も税理士法人で当基金に加入していますが、職員の採用面接のときに「企業年金基金に加入している点が魅力でした」と言われることがあります。

――今年で基金設立10周年を迎えましたが、最後に今後の展望をお聞かせください。
 これからも時代の変化に合わせてブラッシュアップを行い、あまり地域にこだわらず、多くの経営者に喜んでいただける基金に育てていきたいと思います。もし、自社の退職金制度の見直しなどをご検討されている関与先がいらっしゃいましたら、是非、税理士だから作ることができた「経営者目線」の関東信越税協連企業年金基金をご紹介していただければ嬉しいですね。

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