日税連事業承継サイト「担い手探しナビ」で関与先の事業引き継ぎを支援!
2020/02/07
瀬戸 順一 税理士
日本税理士会連合会 中小企業対策部長
中小企業でも親族外承継が増えつつある中、関与先企業のことを熟知した顧問税理士による後継者の探索支援や事業の引き継ぎ支援に大きな期待が寄せられている。そこで注目を集めているのが、日本税理士会連合会(日税連)が運営する事業承継サイト「担い手探しナビ」だ。顧問税理士が主導して関与先企業の後継者探索を支援することができるネットワークの特徴ならびに現在の利用状況や成約件数について日税連中小企業対策部長の瀬戸順一税理士に話を聞いた。
―― 日税連の「担い手探しナビ」が誕生した背景からお聞きします。
今、我が国において中小企業の円滑な事業承継の実施が喫緊の課題となっていますが、日税連中小企業対策部では、平成29年5月に「事業承継に係る取り組みについて」という文書を取りまとめまして、その中で、顧問税理士主導による事業承継を実現するための施策の検討・実施が必要であること、そして、その具体的な施策として、第一に事業承継に関する研修等の実施・充実、第二に事業承継に関する会員同士のネットワークの構築、第三に関係団体等との事業承継に係る連携を提言しました。このうち第二の事業承継に関する会員同士のネットワークというのが、まさに現在の「担い手探しナビ」に当たりますが、中小企業等の事業承継において後継者不在が大きな課題となっていますので、全国の税理士が窓口役となり、狭い地域に制限することなく、関与先の事業承継を推進するためのプラットフォームを提供しようという狙いから、事業承継サイトの構築を検討することとなりました。当時、平成29年4月から北陸税理士会の管内で事業承継サイト「担い手探しナビ」の運用が始まっていましたので、この仕組みを参考にして、平成30年10月に全国版の「担い手探しナビ」の運用を開始しました。
――「 担い手探しナビ」を利用する場合の手続きについて教えてください。
所属の税理士会会員専用ページから利用申込みをしていただく必要があります。その際、税理士証票に記載されている証票番号と登録番号、ご自身のメールアドレスを入力すると、「担い手探しナビ」の初回ログイン時に必要となる仮パスワードがすぐに発行されます。担い手探しナビは税理士であれば無料で利用することができますので、譲渡しや譲受けの案件がない方でもまずは情報収集という観点からサイトをご覧になっていただければと思います。
―― 関与先から譲渡しや譲受けの案件が出てきた場合、どのようにサイトに登録すればいいのでしょうか。
関与先企業が「担い手探しナビ」への登録を希望する場合、税理士がサイトに掲載することについての「確認書」を取得し、経営者と相談の上、サイトにノンネーム情報で案件を登録します。企業名は表示されず、簡易な情報で登録することができます。登録できる案件について、個人や法人、企業の規模、承継までの希望期間といった制限などもありません。
―― 気になる案を見つけた場合、相手側とのやり取りも顧問税理士が行うのでしょうか。
はい。気になる案件があった場合は、税理士から関与先企業に提案・相談していただき、案件を登録した税理士に連絡を取りたい場合は、「担い手探しナビ」のサイト内からメッセージを送ることができます。ただ、「担い手探しナビ」は、あくまでも税理士が関与先企業の後継者探索を支援するための仕組みになりますので、案件の交渉などは税理士が個別に対応することとなります。日税連や税理士会では、税理士が事業承継支援に際して他の専門家から支援を受けることができるよう、事業引継ぎ支援センター、中小企業再生支援協議会、弁護士会といった地域支援機関との連携を進めているところです。
―― そのほかに「担い手探しナビ」の特徴はありますか。
サイトには税理士しかアクセスすることができないため秘匿性が高く、また、税理士には守秘義務がありますので企業情報が守られます。登録されている案件には必ず担当税理士がいますので、企業の詳細を把握している税理士同士が直接やり取りする点も大きな特徴といえます。また、税理士同士が窓口となるため、税理士の知らないところで勝手に事業承継の話が進んでいたという事態が起こることもありません。
―― 現在、どのくらいの案件が登録されていますか。
昨年11月時点における税理士の利用申込者は4,741件で、登録された譲渡しの案件が70件、譲受けが91件となっています。北陸税理士会が独自で運用していた頃から合わせると、これまで計4件の成約があったと把握しています。ただ、これは案件を登録した税理士自身が、サイト内で案件の進行状況のステータスを「成約済」とした件数のため、成約に至るまでの流れや詳細などは分かりません。しかし、そのうち1件の成約事例については、私が個人的に繋がりのある税理士が担当していた案件だったので内容をお聞きすることができました。
―― どのような案件だったのでしょうか。
実は、この案件は「担い手探しナビ」の中でマッチングしたのではなく、「担い手探しナビ」に案件を登録したものの、最終的には、その税理士の別の関与先企業へ事業承継が行われたという事例です。とはいえ、税理士から関与先企業に対して「担い手探しナビ」を紹介したことで、経営者が自社の将来についてどのように考えているか、どうしたいかを対話するキッカケとなり、まさに「担い手探しナビ」への案件の登録が、事業承継の掘り起こしに繋がったと聞いています。
―― 確かに「担い手探しナビ」を関与先に紹介することは、事業承継支援の取っ掛かりになりそうですね。
日税連としては、顧問税理士主導による中小企業の事業承継の推進を目的としておりますので、このようなサイトの活用の仕方も非常に有効かつ素晴らしい事例だと考えています。昨年11月には、その税理士にご協力いただき、日税連中小企業対策部が実施した研修会の場で事例を紹介していただきましたが、生の事例ということで非常に好評でした。
―― そうした成功事例を聞きますと、顧問税理士による事業承継支援の役割は非常に大きいと感じます。
そうですね。顧問税理士というのは、専門家の中でも経営者に長年寄り添い、会社の内情を最も熟知し、経営者と日々伴走する存在ですから、事業承継においても幅広く支援することが求められると思います。事業承継の掘り起こしや企業の見える化、磨き上げといったプレ承継から、事業承継計画の策定や税制の適用の係る支援、複数の支援機関との連携など、顧問税理士が主導的な立場で事業承継を推進していくべきだと考えます。
―― 全国の税理士先生にメッセージをお願いします。
現時点では関与先企業に事業承継のニーズがないため、自分には関係ないと思われる方もいるかもしれませんが、事業承継には少なくとも5年程度はかかると言われており、事前に税理士が「担い手探しナビ」による支援も視野に入れて利用申込をしておくことは、関与先企業に提供できる支援の種類を増やすことにも繋がります。まずは一度、「担い手探しナビ」をご覧いただき、税理士が主導して中小企業の事業承継を支援していくための準備をしてみてはいかがでしょうか。特に、「担い手探しナビ」は、利用者が増えるほどサイト内に集まる案件も増え、関与先企業同士のマッチングの可能性も高まってきます。個人的には、今年度中に1万件の利用申込みを目指したいと考えていますが、まだこのサイトの存在自体を知らないという方も少なくありません。税理士証票さえ用意すればすぐに利用できますので、是非、多くの方々に申込みをしていただければと思います。