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インタビューInterview

経理のデジタル化は待ったなし!中小企業が克服すべき課題とは?

2025/05/27

株式会社 経理がよくなる
(一社)経理革新プロジェクト代表 
児玉 尚彦 税理士

中小企業でもデジタル化の取り組みが活発化しているが、経理部門のデジタル化は思うように進んでいないのが実情だ。その背景にはどのような要因があるのか――。
経理業務の効率化や経理部門の人材育成などを行うほか、1万社以上が受講した「経理財務セミナー」の講師を務める児玉尚彦税理士に話を聞いた。

――経理部門のデジタル化を進めるポイントを教えてください。

 経理部門のデジタル化には3つのステージがあります。まず、第1ステージは「デジタイゼーション」です。これは、紙の書類をデータ化するなど、アナログからデジタルに移行する取組みです。ただし、この時点では紙をデータ化しただけで、業務プロセスは変わっていません。そこで、第2ステージの「デジタライゼーション」では、データ化した請求書などを会計システムと連携させて入力の手間を省くなど、業務プロセス全体のデジタル化を図っていきます。そして最終段階が、第3ステージの「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。AIなどを活用して業務プロセスを最適化・自動化し、経理業務そのものを変革していく取り組みになります。

――現状、経理部門のデジタル化はどこまで進んでいるのでしょうか。

 大企業では、第2ステージの業務プロセスのデジタル化まで終わり、AIの活用などを検討する第3ステージに移行しています。一方、中小企業でもインボイス制度や電子帳簿保存法への対応のほか、コロナ禍をきっかけにデジタル化が一気に加速しました。ただ、一定の進展はあったものの、そこで満足してしまい、その後のデジタル化への取り組みが停滞しているように感じます。特に、地方の中小企業では紙ベースの業務が依然として多く、デジタル化の進み具合には地域差が見られます。

――中小企業のデジタル化が進まない要因は何だと思われますか。
 中小企業の経理部門は、年間の業務スケジュールがほぼ固定されており、新年度ごとに業務改善計画を立てるような企業は少ないのが現状です。そのため、業でも手軽な価格で利用できる便利なツールが増えていますので、導入コストは以前ほど大きな障壁ではなくなってきています。むしろ、システムを導入したものの、十分に活用できないケースが問題といえます。

――具体的にどのような事例がありますか。

 よくあるのが、システムを導入した後、自社の業務フローに合わせるために過度なカスタマイズを発注するケースです。企業のやり方に合わせてカスタマイズするには、それなりの追加費用や時間がかかります。そのため、見積りを見て「コストがかかりすぎる」などとカスタマイズを断念したものの、これまでの業務フローを変えることができず、結局、システムを活用せずに従来のやり方を続けてしまう企業があります。経理の仕事は特にこだわる必要はなく、むしろ標準化することが重要であり、システムの仕様に合わせるほうがスムーズに運用できます。特に、人材採用が難しい時代だからこそ、アナログの作業をITで標準化させておくことは、企業にとって喫緊の課題です。また、若手社員の離職を防ぐためにもデジタル化は不可欠といえます。

――若手社員の離職とどのような関係があるのでしょうか。

 経理部門に新入社員が入社した場合、アナログ企業では大量の紙の書類を処理させますが、デジタル企業ではツールを活用して効率的に処理を進め、空いた時間でより高度な業務を任せます。もし、アナログ企業に勤める若手社員が、デジタル企業の業務内容を就活サイトなどで見たら、「ここにいても成長できない」などと感じ、転職を考えるかもしれません。若い世代はデジタル社会で育ってきましたので、大量の紙に埋もれて手作業で仕事をすること自体、強い違和感を覚えると思います。

――経理のデジタル化を進めることで、仕事がなくなるのではないかと不安を抱える人もいるのではないでしょうか。

 おっしゃるとおりです。デジタル化によって入力作業から解放されると、それまでの業務が不要になるため、不安を感じる方もいるでしょう。そのため、私が経理担当者向けのセミナーなどで講師を務める際には、経理のデジタル化や合理化を進めるだけでなく、経理担当者のスキルアップ研修を同時に実施し、より高度な業務に取り組めるよう支援することの重要性をお伝えしています。

――今後、税理士事務所は関与先のデジタル化をどのように支援していくべきでしょうか。

 支援の方法はいくつかありますが、まずは関与先が困っていることを解決するツールの導入をサポートしてあげるのが取り掛かりやすいと思います。紙の請求書が多くて経理部門が負担を感じているのであれば、経費精算や支払処理のクラウドサービスの利用を提案する。郵便料金の値上げに頭を悩ませているのであれば、請求書発行のデジタルツールを紹介する。こうした小さなきっかけを作りながら、さらなるデジタル化に向けて継続して相談に乗ることが大切です。セミナー会場などで経理担当者の方々と話をしていると、税理士事務所にクラウドサービスやデジタル化について相談したところ、「紙のままで大丈夫」、「わざわざデジタル化なんてしなくていい」などと言われたという声をたまに聞くことがあります。関与先がデジタル化を進めようとする際には、ぜひ積極的に協力し、支援していただきたいと思います。

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