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税務の勘所Vital Point of Tax

親の駐車場を借りて子が駐車場業 収益の帰属めぐる裁判の裏で贈与税めぐる争いも!?

2024/02/06

 子2人が親から使用貸借で土地を借りて駐車場を営んでいたが、その収益は土地を保有する親のものか、それとも子のものかで争われた税金トラブルがあった。大阪地裁は、使用貸借でも使用収益権のある子に所得が帰属するとして納税者に軍配を上げたことで注目を集めたが、大阪高裁はこの判決を覆し、親が収益を支配していたとして納税者を敗訴させた。しかし、争いはこれで終わらなかった。税務署は、駐車場の収益を得ていた子に対し、親からの贈与として贈与税を課したことで、その取消しをめぐる争いが起きていたのだ(令和5年6月13日裁決)

これまでの裁判の流れ

 まず、所轄税務署は平成29年3月、およそ次のような理由を挙げて、駐車場の収益の帰属は子ではなく、親とする更正処分等を行った。

①親の認知症で使用貸借契約自体、真正に成立した契約ではないこと
②節税のため親の所有権を残したまま使用収益権を移すという形式が採用され「特段の事情」があるといえるため、当事者の選択した法形式に拘束されず、契約書記載のとおりに有効に成立していると認められないこと
③資産から生じる収益は資産の真実の権利者に帰属すること

 大阪地裁の判決(令和3年4月22日)では、使用貸借契約は真正に成立しているとした上で、「特段の事情」についてこの取引が社会通念に照らして異常なものであるということはできず、また、この取引(使用貸借)を行う目的として「原告(親)及び子らが支払う租税の合計額を軽減させることにあったことは認められるものの、このような目的があったことと使用貸借契約の内容どおりの行為がされたこととは両立し得るというべき」と判断。

 所得の帰属については、駐車場土地の使用収益権は子にあるので、「真実の権利者が誰であるかが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する」との所得税基本通達12-1に沿えば、問題の事案は「明らかでない場合に当たらない」とし、「駐車場収入が親にあるということができない」として国側の主張を退けた。

 しかし、大阪高裁は、「すでに所有権に基づき駐車場賃貸事業を営んで賃料収入を取得していた親が子らに土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾してその事業を子らに承継させたことで、各土地の所有権の帰属を変えないまま何の対価も得ることなく、法定果実の帰属を子に移転させたものと評価できる。親が所有権者として享受すべき収益を子に自ら無償で処分している結果であると評価できるのであって、その収益を支配していたのは親である」とし、駐車場の所得の帰属は親にあると判断。納税者側は上告せず、親の申告漏れとなった駐車場の所得について追徴が確定した。

 この判決を受けて、専門家の間ではある疑問が出ていた。それは、「親が子へ収益を無償で処分しているなら、贈与税がかかるのではないか」という点だ。

 実は、税務当局はこの点をすでにマークしており、親の死亡で相続人となった長男に対して、令和3年1月6日に調査を開始。そして平成26年から令和元年分までの贈与税の決定処分等を行った。これに対して長男(請求人)は、贈与税の課税の取消しを求めて審査請求を行っていた。ところが、同年4月22日、大阪地裁が「収益は子に帰属する」という判決を下したことで、税務当局にとっては予想外のことが起きたわけだ。

逆転判決で変わる潮目

 収益が子に帰属することが確定すれば、父親からの贈与ではなくなるため、審判所としても税務当局を支持するのは難しい。こうした中、大阪高裁が令和4年7月20日に「収益の帰属は親にある」と判断したことで、税務当局が思い描いていたシナリオに戻ったわけだ。

 国税不服審判所(以下、審判所)での争点は、長男が駐車場に係る賃貸料収入を受領したことによる財産の増加は、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するか否か(各駐車場収益は、請求人に帰属するか否か)。まず、実質所得者課税の原則(所得税法12条)で駐車場収入の帰属がだれかを固め、それが長男ではないとした場合には、親から贈与されたものとみなして贈与税の課税が適法かどうかと2段階の判断が求められた。 

 審判所は実質所得者課税の原則について「担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合には、後者を収益の帰属者とするというものと解される」という大阪高裁の考え方を踏襲。駐車場収益について、長男は「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、被相続人がその収益を享受する場合に当たるか否かを検討した。

弱り目にさらなる追徴

 審判所は最終的に「使用貸借契約等の取引は、被相続人が本件各士地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である請求人に移転させたものと評価できる」とし、「使用貸借等の取引は、被相続人の相続に係る相続税対策を主たる目的として、被相続人の存命中は、各士地の所有権はあくまでも被相続人が保有することを前提に、各土地による被相続人の所得を子である請求人に形式上分散する目的で、請求人に対して本件使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。(中略)各駐車場収益を支配していたのは被相続人というべきであるから、当該収益について、請求人は単なる名義人であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たる」と判断。

 そして、「被相続人に帰属する各駐車場に係る賃貸料収入を長男が受領し、長男の財産が増していることは、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」場合に該当するというべきである」としている。

 これにより、駐車場土地の使用貸借による所得分散・節税策は、親の申告漏れの追徴と、子への贈与税の賦課決定ということでひとまず決着した。

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