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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

同族経営陣から約81億円を超低利借入  審判所 行為計算否認規定の適用を支持

2025/02/18

同族会社が株主である経営陣から借り入れた約81億円の利息について、税務署が「貸付利率が著しく低い」として、適正な利率で利息を再計算し、経営陣に所得税を増額更正処分したことから争いとなった事案が明らかになった。国税不服審判所は、利率が低すぎる貸付について合理的な理由がないとして、「同族会社等の行為又は計算の否認等(所得税法第157条)」による税務署の更正処分等を支持している(令和6年5月15日裁決)。

 今回の裁決でカギとなる「同族会社等の行為又は計算の否認等」(以下、行為計算否認規定という)とは、税務署長に特別の更正処分等(追徴)を認める税法上の規定。具体的には、税務署長が、同族会社とその株主らとの間で行った取引等(同族会社の行為又は計算)について、その株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときに、この規定特有の更正処分等を発動するもので、「伝家の宝刀」とも言われている。

 裁決書によると、税務署の行為計算否認規定による更正処分等に納得がいかなかったのは、資産運用や経営コンサルタント業務、不動産の有効活用に関するコンサルタント業務のほか、企業への資本投資業務、有価証券の保有・売買・運用業務などを事業目的とした会社だ。同社の代表取締役とその親族が発行済み株式の全部を保有する同族会社で、問題になった経営陣と会社間の取引等の概要は次のとおり。

1.会社は、同社代表者ら株主に出していた社債を償還した。税制改正で同族会社が発行する一定の社債等の利息について、所得税の源泉徴収で済んでいた課税関係が平成28年から総合課税に移行するタイミングだった。

2.同時に株主4名との間で償還金とほぼ同額の約81億円を銀行の預入期間1年の大口定期預金程度の低金利、無担保、弁済期はいつでも可とする消費貸借契約を締結した。

3.税務署は、行為計算否認規定を適用し、日本銀行が公表する平成28年から令和2年までの各年の8月における国内銀行の新規貸出しかつ長期貸出しの「貸出約定平均金利」で利息を再計算して、株主らの所得税を増額更正等した。

 争点は、上記の消費貸借を容認した場合、請求人である株主4名の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か。

 株主側は、融資の利率が定期預金の水準にあることについて、「自己資金の安全な保管と求めに応じた速やかな弁済のための流動性の確保という目的に鑑みれば、ある個人と独立かつ対等で相互に特殊な関係にない法人との間で行われる金銭消費貸借において、貸付利率を定期預金の金利と同じ利率であればよいと考えることは、不合理なことではなく、本件貸付利率には合理性がある」と主張していた。

審判所の判断

 国税不服審判所(以下、審判所)はまず、行為計算否認規定の適用に当たり、問題の行為または計算が経済的合理性を欠くと評価される場合について、「行為又は計算が、独立当事者間の通常の取引との比較において異常又は変則的であり、かつ、当該行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由や目的があったとは認められない場合」などと説示した。

 その上で審判所は、問題となった約81億円の消費貸借につき、次のような点を指摘し、異常または変則的な取引と認定している。

①弁済期限を定めず、無担保で貸し付けること(独立当事者間の通常の取引においては極めて異常または変則的)

②金利については「平成28年から令和2年までの各年8月の貸出約定平均金利は、0.791パーセントから0.885パーセントまでの間」だったのに比べ、問題の利率は「貸出約定平均金利の約100分の 1または約500分の1にすぎず、著しく低い利率」だったこと。

 一方で、審判所は、会社の経済的状態について債務超過ではなかったことなどを指摘。「消費貸借の実行前後を通じて、資金繰りに窮するような状態であったということはできない」から著しく低い利率で、弁済期を定めず、無担保で同社に貸し付けることについて「合理的な理由や必要性があったとは考え難い」と認定。

 その結果、審判所は、問題の消費貸借が経済的合理性を欠くものと判断。加えて、社債では高い利率で株主らに利息を支払っていたのに、税制改正を契機として社債償還するなど取引を見直し、低利借入にしたことは「所得税の負担の増加を回避することを主たる目的として行われたものであると推認することができる」と断じた。

 最終的に、審判所はこの取引について「所得税の負担も減少させる結果となっている」として、行為計算否認規定の適用を認め、税務署の更正処分等を支持する判断を下している。

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