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トラブルは現場で起きている!

権勢を誇った人物が理解できなかったこと

2022/03/30

 「金木は私の生まれた町である」と作家の太宰治はその自伝的小説『津軽』に書いています。青森県北津軽郡金木町。この町の出身者としては他に、歌手の吉幾三と日本大学の田中英寿前理事長が知られています。

 国内最大規模の学校法人日本大学のトップを13年間にわたって務めた田中英寿前理事長は、日大相撲部で活躍し、大学職員を経て、2006年に学校法人の理事長に就任すると、4年後には総長のポストを廃止し、名実ともに学校法人のトップとして絶大な影響力を持つようになりました。一般に学校法人や公益法人のような非営利組織では、役職員に当事者意識、帰属意識が希薄な場合が多く、強烈な当事者意識、帰属意識を持つ者が現れると、その存在感に圧倒されて道を開けてしまいます。おそらく田中前理事長も、そのようにしてするするとトップの座に駆け上っていったに違いありません。

 しかし、その強烈な当事者意識が、一方で無自覚な公私混同を招いていました。JR中央線阿佐ヶ谷駅から徒歩2分の4階建てのビルに、田中前理事長の自宅と妻が経営する「ちゃんこ料理 たなか」があり、大学の理事や職員だけでなく、出入りの業者らも怪しげな包みを抱えて頻繁に出入りしていました。

 田中英寿前理事長が、5,200万円を脱税したとして所得税法違反で東京地検特捜部に逮捕されたのは、2021年11月29日のことでした。隠したとされる所得は、日大付属病院の建て替えなどに関して背任の罪で起訴されている大阪の医療法人理事長からの7,500万円、日大アメフト部の元主将である理事からの150万円、3つの設計・建築業者の4,020万円、そして5つの清掃業者からの150万円の、合計で1億1,800万円です。そのうちの半数は、「ちゃんこ料理 たなか」で受け取り、自宅で現金のまま保管していたというものでした。

 2022年3月29日、東京地裁において、田中英寿前理事長に、懲役1年、執行猶予3年、罰金1,300万円の有罪判決が言い渡されました。

 田中前理事長は、初公判で「なんでこうなったか理解できない」と述べていましたが、権勢を誇った人物が坂道を転げるように失墜し、一転して受難のときを迎えるドラマは、聖書のヨブ記の時代から、人類の歴史の中で繰り返し演じられてきました。偉い人、君臨して威張っている人が、蹴落とされて、引きずり下ろされる。それは個人崇拝なしに成り立たない社会の避けられない運命のようなものなのかもしれません。

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