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相続対策と事業承継を実現! 『家族信託』の活用事例を紹介

第12回 家族信託支援専門職への重い不法行為責任 ~令和3年9月17日東京地裁判決~(上)

2022/01/25

 ご承知のように、東京地裁は平成30年9月、遺留分を無視した『受益者連続型信託契約』について「公序良俗に反して違法である」とする判決を下した。あれから3年経った令和3年9月、東京地裁で新たな判決が出された。今回は、依頼者が望んだ有効な信託契約書を作成して提供しなかった専門職に対し、損害賠償金の支払いが命じられた。この事件で原告の訴訟代理人となった遠藤家族信託法律事務所の遠藤英嗣弁護士に、事件の概要や家族民事信託の組成の在り方などについて解説してもらった。

令和3年9月17日東京地裁判決

 令和3年9月17日、東京地裁は、依頼者が望んだ有効な信託契約書を作成して提供しなかった専門職に、支援業務と称して受け取った報酬額と抹消登記用の損害賠償金の支払いを命じました。 

 事案は、高齢者から家族信託支援業務の委任を受けて家族信託契約の公正証書を作成したのですが、この信託契約書が信託口座開設金融機関において有効なものと認められず、委任者(委託者)が意図した融資可能な「信託口」口座が開設できなかったのです。そこで、使えない公正証書ではやり直すほかないとして、信頼できる公証人に依頼して新たな家族信託契約の公正証書を作成したうえで、金融機関において融資可能な「信託口」口座を開設し、かつ信託登記をやり直したというものです。

 筆者が、原告の訴訟代理人となって、専門職の士業を相手に不法行為等による損害賠償請求事件を提訴し、当該案件で、原告である委任者が、受任者の専門職士業に支払った信託登記手続き費用を含む家族信託支援業務(信託組成)報酬につき損害賠償を求めたのです。判決では、新たな公正証書の書き換えの費用は認められなかったのですが、専門職に支払った報酬のほか信託登記をやり直すための抹消手続費用と弁護士報酬、それに弁護士費用(一部)が認められるという、原告にとっては満足できる判決でした。

 筆者が、原告の訴訟代理人を務めたこともあって詳細は開陳できないところもあるのですが、判決書に現れた事柄を中心に解説します。

事件は家族信託の高揚期に起きた

 まず背景事情から説明します。事件は、平成3 0年の案件でした。 当時は、家族信託の高揚期で、年間に公正証書だけでも2000件を超える家族信託契約書が作成されていたのです。しかし、筆者は憂いていました。それは、何でもありの家族信託に仮装した書契が街にあふれていたからです。

 そこで、筆者は、論文やセミナー等において、①違法・無効な信託を組成しない、②「正しく生きる信託」の組成に向けて、最大限努力し、決して手抜きをしない、③信託設定の意思、意思能力のない者の契約等は、受任しない―断る、④嘘をつかない(消費者契約法3条4条)、「何でも夢がかなえられる家族信託」などという表現はしない、⑤不確実な事柄を確定的な告知提示をしない、⑥「信託登記すればあとは何でもできる」などと、言わない、⑦他の大事な法制度をないがしろにしない。例えば「大事な成年後見制度は、家族信託をつかえば不要である」「遺言もいらない」などと、公言しない、⑧現に「紛議性のある事案」については、弁護士以外組成をしない(弁護士法72条)と再三訴えてきたのです。しかも、当法律事務所のホームページにも掲載してきたのです。
(参考:http://www.kazokushin.jp/publics/index/41/ http://www.kazokushin.jp/publics/index/52/


 皆さんも、ご承知のとおり、信託契約書の作成にあたった専門6 フォーカス 2022年・冬号職士業が、公序への挑戦ともいうべき無謀な信託の組成をして信託行為の一部無効という平成30年9月の東京地裁判決があったわけです。しかし、その後も、一向に改められることはなく、士業の一部の人たちによって、奔放かつ無規律な家族信託契約書が作成されるという問題が起きていたのです。そのような、無規律な家族信託支援業務を憂いていた、筆者に二度目の朗報(結果)をもたらしてくれたのが、令和3年9月17日東京地裁判決です。

判決にいう「リスク説明義務」とは

 判決では、「リスク説明義務」を負うという、専門職士業にとっては極めて重い責任が示されたのです。

 筆者も驚いています。家族民事信託は、誰もが理解するのが難しい「特異な仕組み」です。そのため、「家族信託のメリット」と「デメリット」は無数あります。今回の判決後デメリットだけを拾い出してみたところ、その数は20項目を超えることが分かったのです。それだけ、家族民事信託は、「後見信託」と「承継信託」という複合的法制度が難しく、しかも学問的な考え方と家族民事信託の実務に大きな乖離があることが、この大きな数になっていることがわかりました。それとともに、近時、家族信託支援業務を担う士業等専門職に対して、トータル的サポートも求められており、何が、リスクなのか、判断が難しくなってきています※。

 それは、家族信託の「メリット」や「デメリット」など「特異な仕組み」の説明は当然のこと、今組成する信託の「うまくいかないところ」を、予知能力をフル回転して探し出すことが必要だということになります。そして、その対策をも練ることが求められるということになります。※「信託が泣いている」(東京大学溜箭将之教授の言葉)(遠藤英嗣著「家族信託の実務 信託の変更と実務裁判例」197頁。) (下)に続く。

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