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第1回:事業承継対策の基本的な考え方

2021/04/06

 中小企業のオーナー経営者が親族の後継者に自社株式を承継する際に、最も大切なことは、①後継者に自社株式や事業用資産を集中させる(「経営権の確保」)のはもちろんのこと、②後継者以外の相続人に遺留分以上の遺産を相続させる(「遺留分の確保」)ことも重要になります。そこで今回は、②の後継者以外の相続人の遺留分対策について概要を説明します。

1.後継者への事業用資産の集中と後継者以外の相続人への配慮
 オーナー経営者の相続に際しては、経営権の確保のため自社株式を後継者に集中的に取得させることが基本となります。たとえば、株式会社においては、株主総会で定款の変更や、組織再編、事業譲渡等の重要度が高い議案については特別決議が必要であり、これら重要議案を可決するため議決権総数の3分の2以上が必要になります。株式は通常1株式につき1議決権ですから、後継者が安定的に会計経営を承継するためには、発行済株式総数の3分の2以上の株式の取得が必要となります。

 一方で、後継者以外の相続人に何も相続させないとなると、あまりにバランスを欠き、相続人間で揉めてしまうことも考えられます。そこで、後継者以外の相続人には、会社とは関係のない金融資産(預貯金等)を取得させることでバランスを取ることが一般的です。

2 遺留分対策
(1)遺留分とは
 オーナー経営者の財産構成を見ると、全体に占める自社株式や事業用資産の割合が高く、これらを後継者に集中させると、後継者以外の相続人が取得する財産が著しく少なくなってしまうことがあります。遺留分を侵害してしまうケースも少なくありません。

 遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、遺産について最低限留保されなければならない割合のことをいいます(民法1042条)。遺留分を侵害された相続人は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(同1046条)。仮にオーナー経営者が、自社株式や事業用資産を後継者に集中させる旨の遺言を作成したとしても、後継者以外の相続人から遺留分侵害額請求をされてしまうと、後継者の議決権確保に問題が生じてしまう可能性もあります。

(2)遺留分の放棄
 (1)のような場合の対策の1つとしては、生前に後継者以外の相続人に一定額の金融資産を贈与し、その見返りとして、後継者以外の相続人に遺留分を生前に放棄(民法1049条)してもらうということが考えられます。遺留分の放棄のためには、家庭裁判所の許可が必要となりますが、その際、「代償財産の有無」も許可の基準とされています。生前の金融資産の贈与は、その代償としての意味を持ちます。

(3)経営承継円滑化法の「民法の遺留分に関する特例」の活用
 2の遺留分の放棄以外には、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)4条に規定する「民法の遺留分に関する特例」を活用することが考えられます。この特例の適用を受けることにより、オ-ナー経営者から後継者に自社株式の議決権の過半数を贈与する際に、一定の要件を満たす場合は、①生前贈与する株式を遺留分の対象から除外(「除外合意」)または②生前贈与する株式の評価額をあらかじめ固定(固定合意)することが認められます。

3.後継者以外の相続人に金融資産を渡すための方法
 オーナー経営者が受け取る退職金や給与の引き上げにより、後継者以外の相続人に渡すための金融資産がオーナー経営者に蓄積できれば問題は生じませんが、十分な金融資産がない場合には、その対策も必要となります。一案としては、相続時に一部の自社株式を後継者以外の相続人に取得させるものの、すぐにその株式を会社が自己株式として取得することで、後継者以外の相続人が株式の対価としての金銭を得るようにすることも考えられます。

 ただし、この場合、株式を取得した相続人がすぐに会社に株式を譲渡しないと、議決権が分散してしまう可能性があります。後継者以外の相続人に取得させる株式を種類株式(会社法108条第1項)の1つである取得条項付種類株式(同)としておき、すぐに会社が買い取ることができるようにしておくことも考えられます。

 なお、自己株式の取得については、会社法上、財源規制が課されているため(会社法461条)、注意が必要です。

【今回のポイント】
 子が1人で後継者のみという場合には、自社株式を全てその子に渡せば問題は生じませんが、後継者以外の子もいる場合には、その子に対する配慮も必要となります。

 安定的な経営を実現するために、自社株式や事業用資産については後継者に集中的に取得させることが原則となりますので、後継者以外の子にはそれ以外の資産、具体的には事業とは関係ない金融資産を渡すことが一般的です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士・公認会計士 小野寺太一)

 

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