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第12回:役員退職金の支給による非上場株式の株価引下げ対策

2022/01/06

 前回(第11回:相続税の軽減のための非上場株式の株価引下げ対策)では、非上場株式の株価引下げ対策の手法として、類似業種比準価額の引下げ対策があることを説明しました。今回はこの類似業種比準価額の引下げ対策のうち、役員退職金の支給による方法について説明します。

1.役員退職金の支給による株価の引下げ対策

 類似業種比準方式では、【評価会社の営む事業と類似する業種の上場企業の課税時期の株価】×【その上場企業の1株当たりの配当金額、年利益金額および簿価純資産価額に、評価対象会社の1株当たりの配当金額、年利益金額および簿価純資産価額を比準させて求めた倍率】×0.7(中会社で評価する場合は0.6、小会社で評価する場合は0.5)の算式により非上場株式を評価します。

 倍率の計算要素である配当、利益、純資産の3要素のうち、利益については、たとえば代表者が退任する際に、役員退職金を支給し、費用計上することにより利益の額が減少するので、その分株価は下がることになります。また、役員退職金(現金)の支給により、それが将来の相続税の納税資金の備えにもなりますから、その点でも有効な対策となります。

2.役員退職金の算定方法

 法人が役員に支給する退職金で適正な額は、法人税の所得の金額の計算上損金の額に算入されます(法人税法34条第2項、法人税法施行令70条2号)。その一方、役員退職金のうち不相当に高額な部分の役員退職金は、損金の額に算入されません。課税当局が個々の役員退職金の適正額を算定する方法として採用し、裁判上でも妥当とされる方法は平均功績倍率法と呼ばれる算定方法で、具体的には次の算式です。

〈算式〉 役員退職金= その役員の最終月額報酬×その役員の勤続年数×平均功績倍率

 平均功績倍率法は、課税当局が次の①~③の手順により算定します。

①その法人と同種の事業を営み、かつ、その事業規模が類似する法人で役員退職金の支給事例を有するものを数社選びます。

②①の支給事例につき、各法人の功績倍率={役員退職金の支給額÷(退職役員の最終月額報酬×勤続年数)}を求めます。
③②の複数の功績倍率の平均値が「平均功績倍率」であり、その倍率を上記の算式に当てはめて算定した金額が役員退職金の適正額です。

 支給をする法人は、上記平均功績倍率を算定することは不可能であるため、平均功績倍率を推測して適正な役員退職金の額を推定するほかありません。なお、支給する法人の役員退職金の適正額の判定においては、当然その法人の財務状態も影響することになります。

 なお、平均功績倍率は、裁判例においては概ね3倍程度になることが多いようですが、3倍という値が公認されているわけではないので、その推測には注意が必要です。

3.役員退職金と税金

(1)役員本人が役員退職金として受取る場合

 役員退職金は所得税の計算上は、退職所得に分類され所得税、復興特別所得税および住民税が課されます。退職所得の計算は次の算式のとおりです。

〈算式〉
 (役員退職金−退職所得控除額(注))1/2(役員等の勤続年数が5年以下である人が支払いを受ける退職金については×1/2しない)×税率
  (注)退職所得控除額の計算
    ・勤続年数20年以下:40万円×勤続年数=(80万円に満たない場合には80万円)
    ・勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
    *勤続年数の1年未満の端数は年単位に切上げ。

 退職所得は他の種類の所得に比べ、所得税の計算上①勤続年数に応じた一定額を退職所得控除(注)として控除、②原則として退職金から退職所得控除額を控除した金額の1/2に対して課税、③退職所得は他の所得と合算されない分離課税のため税負担が低く抑えられる、という3つのメリットがあり、株価対策に加え所得税負担の側面からも有効です。

(2)役員の遺族が死亡退職金として受取る場合

 役員の死亡に伴い、その相続人に死亡退職金が支給される場合は、その死亡退職金は相続税の課税対象になります。ただし、その全額が相続税の対象となるわけではありません。全ての相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は除きます。)が取得した死亡退職金の合計額が、非課税限度額(500万円×法定相続人の数=非課税限度額)以下の場合には課税されません。非課税限度額を超える部分が相続税の課税対象になります。

【今回のポイント】
 上記2の通り、法人が役員退職金を支給する場合において、課税当局から支給した役員退職金について不相当に高額と認定されたときは、不相当に高額な部分の金額については課税所得の計算上損金の額に算入されません。損金の額に算入されない金額は類似業種比準価額算定上の年利益金額(法人税の課税所得金額)の計算上減算されないため、株価引下げの効果にはつながりません。
 役員退職金支給の際の金額の算定については、法人税法の側面だけでなく、株価対策の側面からも適正額となるよう、十分な検討が必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義)

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