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第2回:非上場株式が未分割である場合の議決権の取扱い

2021/04/26

 中小企業のオーナー経営者の相続の際に、遺産分割協議がまとまらず、相続財産である非上場株式が未分割である場合には、その株式に係る議決権の取扱いに注意を要します。今回はその場合における議決権の取扱いについて説明します。

1.相続財産である株式が未分割である場合の株式についての権利

 株式その他の相続財産は、遺産分割が確定するまで複数の相続人の共有とされます(民法898条)。所有権以外の財産権を複数の者が有する場合の法律関係を「準共有」ともいいますが、株式が(準)共有されている場合は、民法264条により、民法の共有に関する規定(民法252条~ 263条)が準用されます。

 相続財産である株式が未分割であり、相続人間で共有となっている場合、会社法106条により、株式についての権利を行使するためには、権利を行使する者を一人定め、その氏名を株式会社に通知することが必要であり、それをしなければ、株式会社がその権利を行使することに同意した場合を除き、権利行使ができません。

 未分割の株式について、その権利を行使する者は、準共有されている株式の持分の過半数により決定されるものと考えられます。これは、準共有されていた有限会社の持分につき、その権利行使者の決定方法を「その持分の価格に従いその過半数をもってこれを決する」とした平成9年1月28日最高裁判決の考え方を準用し、その判決における「その持分」を「その(未分割の)株式」に、「価格」を「共有者としての持ち分に相当する株数」と読み替えて適用することが合理的だからです。

 なお、会社法106条の規定は、株式会社側の同意さえあれば、複数の相続人のうちの一人が単独で議決権を行使できるようにも読めますが、このような方法による議決権の行使を違法とした平成24年11月28日東京高裁判決があるので、注意を要します。未分割の株式について、複数の相続人のうちの一人が単独でその権利を行使する場合は、たとえ株式会社側で同意を得られる場合であっても、株主間のトラブルや株主総会の決議の有効性をめぐる争いを避けるため、上記の最高裁の判示の考え方に従って相続人間の協議により権利を行使する者を選定すべきと考えるのが無難です。

2.未分割株式についての議決権行使の方法

 未分割株式についての議決権行使の方法について、事例により説明すると以下の通りになります。

【事例】
 Q.
被相続人甲は、株式会社A(A社)の株式600株(普通株式)を遺して亡くなりました。甲は遺言を作成していません。甲の相続人は長男、次男、三男の3人です。A社の発行済株式数は1,000株、うち被相続人甲が600株、後継者である長男が400株保有していました。甲が保有していたA社の株式600株について遺産分割が確定していない場合、その600株の株式の議決権の行使はどのように行われるのでしょうか。

 A.上記より、相続人である長男、次男、三男の3人は、その600株につき、それぞれ3分の1ずつ持分を有しています。この3人のうち2人が合意をすれば、未分割のA社株式600株について過半数をもって議決権を行使する者を選定できます。

 たとえば、相続人のうち準共有の持分3分の1(600株×1/3=200株)をそれぞれ持つ次男と三男が合意をすれば、600株についての過半数を制し、長男の意向にかかわらず次男または三男を株式の権利(たとえ議決権)を行使する者と定めることができます。これによって次男と三男はA社の議決権総数の過半数にあたる600株分の議決権を有し、長男を抑えて会社の経営権を握ることが可能になります。

 甲が後継者は長男が適任と考え、確実な事業承継を実現したいのであれば、生前にA社株式を長男に贈与しておくか、遺言でA社株式を含めた財産の配分をしておく等の配慮が必要です。

【今回のポイント】
 民法上、未分割の株式については、遺産分割が確定するまで複数の相続人の共有とされます。このため、議決権その他の株式にかかる権利の行使については、原則として相続人の過半数により権利を行使する者を一人定め、その氏名を株式会社(=株式の発行会社)に通知することが必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士・公認会計士 芦沢 亮介)

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