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第10回:個人から法人に非上場株式を譲渡した場合の税務上の譲渡価額

2021/11/08

1.非上場株式の譲渡価額の考え方

 前回(第9回:持株会社スキームによる遺産分割対策・納税資金対策)のように、個人(オーナー経営者)が、法人(後継者が100%出資する持株会社)に対し、保有する非上場の自社株式を譲渡する場合、その株式の譲渡時の価額(=時価)の把握が重要になります。といいますのは、個人から法人に対して時価の2分の1未満の譲渡価額により非上場株式を譲渡した場合には、売主である個人に対して株式の時価を基に所得税の譲渡所得が計算されます(所得税法59条第1項2号、所得税法施行令169条)。また、買主である法人においては、譲渡価額が時価の2分の1未満かどうかにかかわらず、非上場株式の時価が譲渡価額を超える場合には、その超える額が受贈益とされ、法人税の計算上、益金に算入されます(法人税法22条第2項)。このため、非上場株式の譲渡価額を考える場合には、その株式の時価の把握が必要となるわけです。

 個人と法人間の非上場株式の譲渡においては、上記のような税務上の問題を避けるため、国税庁通達に定められた方法に基づく評価額を時価として取扱うことが一般的です。この場合の非上場株式の税務上の時価の算定の考え方と方法をまとめると、次の2と3のとおりとなります。

2.売主である個人における非上場株式の税務上の時価

 個人が法人に非上場株式を譲渡したときの株式の税務上の時価について、国税庁通達は次のとおりに定めています(所得税基本通達59-6、23~35共-9(4))。

(1)原則

 次の区分に応じて定められた価額が時価とされます。

①その非上場株式について売買実例がある場合
 …最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額。

②公開途上にある株式で、上場に際して株式の公募等が行われるもの(①に該当するものを除く。)
 …入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額。

③売買実例のないもので、その株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がある場合
 …その類似する他の法人の株式の価額に比準して推定した価額。

④①~③に該当しない場合
 …その株式の譲渡日又は同日に最も近い日における、発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額。

(2)簡便法(財産評価基本通達の準用が認められる場合)

 前述(1)の非上場株式の税務上の時価は、売買実例があるなど特殊な場合を除き、通常は④の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」となります。この「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」の規定を準用して計算します。

①「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡した個人の譲渡直前の保有株式数により判定します。なお、②の「中心的な同族株主」に該当するかどうかの判定も同様です。

②株式評価において、株式を譲渡した個人が株式の発行会社にとって「中心的な同族株主」(注1)に該当するときは、その発行会社は常に「小会社」(財産評価基本通達178)として計算します(注2)。

(注1)「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人ならびにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が議決権総数の25%以上を有する会社も含みます。)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合の、その株主(1人)をいいます(財産評価基本通達188(2))。この場合において「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人およびその同族関係者(その株主の親族等およびその株主とその親族等が支配している一定の会社をいいます(財産評価基本通達188(1))。ここで「支配」とは、他の会社の発行済株式総数または議決権総数の50%超を有していることをいいます(法人税法施行令4条第3項))。の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上(同総数の50%超となる場合は50%超)である場合の“その株主とその同族関係者”をいいます(同(2))。

(注2)小会社の株式は、会社の資産価値に着目する純資産価額方式で評価することを原則としますが、「類似業種比準価額×0.50+1株当たり純資産価額×0.50」の算式により求めた価額を評価額として選択することもできます。純資産価額よりも類似業種比準価額の方が低くなることが多いため、小会社の株式の評価は「類似業種比準価額×0.50+1株当たり純資産価額×0.50」の算式で計算されることが一般的であり、この算式による株式の評価は「小会社方式」とも言われています。

③1株当たりの純資産価額の計算に当たり、株式の発行会社が土地等または上場有価証券を有しているときは、これらの資産については譲渡時の価額(時価)により評価します。

④1株当たりの純資産価額の計算に当たり、評価差額に対する法人税額等相当額(注3)は控除しません。

(注3)「評価差額に対する法人税額等相当額」とは、課税時期に発行会社が清算した場合に課せられる法人税等に相当する金額です。具体的には、相続税評価額による純資産価額(総資産価額-負債金額)から帳簿価額による純資産価額を控除した残額(マイナスの場合はゼロ)に37%を掛けて計算した金額をいいます(財産評価基本通達186-2)。

3.買主である法人における非上場株式の税務上の時価

 法人が非上場株式を取得した場合の株式の税務上の時価の意義について、直接的に定めた法令の規定はありません。そこで実務上は、非上場株式の低廉譲渡等にかかる対価の額を認識する場合の基準を定めた法人税基本通達2-3-4と、同通達が準用する同4-1-5または4-1-6により評価します。

 具体的には、次の区分に応じ、それぞれに定める方法により非上場株式の税務上の時価を算定します。

(1)原則(法人税基本通達4-1-5)

①売買実例がある場合
 …その株式の譲渡日前6ヶ月間において売買の行われたもののうち、適正と認められる価額。

②公開途上にある株式で、上場に際して株式の公募等が行われるもの(①に該当するものを除く。)
 …入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額。

③売買実例のないもので、その株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの(②に該当するものを除く。)
 …その価額に比準して推定した価額。

④①~③に該当しない場合
 …その株式の譲渡日又は同日に最も近い日における、その株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額が、税務上の時価とされます。

(2)簡便法(財産評価基本通達の準用が認められる場合・法人税基本通達4-1-6)

 前述1の非上場株式の税務上の時価は、売買実例があるなど特殊な場合を除き、通常は④の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」となります。この④(または③)に該当する非上場株式の時価については、次の方法によることを条件に、財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価の規定により算定することが認められます。ただし、この取扱いは課税上弊害がない場合に限られます。

①その法人が株式の発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは、その発行会社は常に「小会社」として計算します。

②1株当たりの純資産価額の計算に当たり、株式の発行会社が土地等または上場有価証券を有しているときは、これらの資産については譲渡時の価額(時価)により評価します。

③1株当たりの純資産価額の計算に当たり、評価差額に対する法人税額等相当額は控除しません。

【今回のポイント】

 上記2(2)の所得税基本通達に定められた方法による評価や、3(2)の法人税基本通達に定められた方法による評価は、実務上のいわば“簡便法”による非上場株式の時価の計算法です。この適用にあたっては、財産評価基本通達を準用することによる課税上の弊害が無いことが条件となります(2(2)の所得税基本通達でいうところの「原則として」は、具体的には法人税基本通達における「課税上弊害がないこと」と同じ意味であると考えられます)。弊害があると認められる場合には、原則的な評価方法である2(1)④や3(1)④の“時価純資産価額”により、非上場株式の時価を計算することになります。この場合の「課税上弊害があるかどうか」は、個々具体的に判断されますので、財産評価基本通達を準用することによる譲渡価額の計算に当たっては、十分な検討が必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義)

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