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第6回:属人的株式を活用した対策    

2021/07/02

1.会社法の取扱い

 株主は、保有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱われなければいけません(会社法109条第1項)が、非公開会社(すべての株式について定款で譲渡制限をつけている株式会社)については、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができるとされています(同条第2項)。この株主ごとに異なる取り扱いがされる株式のことを、属人的株式と呼んでいます。

2.手続と登記

 属人的株式の内容は定款で定めることとなるため、導入する場合には定款の変更が必要となります。通常、定款の変更には特別決議(議決権の3分の2以上。会社法309条第2項)が必要ですが、属人的株式を導入する場合には、特殊決議(総株主の半数以上、かつ議決権の4分の3以上。会社法309条第4項)が必要とされ、決議のハードルが高くなっています。これは、属人的株式の定めが、株主の権利に重大な影響を及ぼすものと考えられるためです。

 なお、種類株式の内容については、登記事項とされていますが(会社法915条第1項、911条第37号)、属人的株式は登記事項ではありません。したがって、外部に属人的株式を発行していることが知られることは通常ありません。

3.具体的な活用

 属人的株式は、後継者に議決権を集中させる場合にも活用することができます。たとえば、「代表取締役が保有する株式については、1株につき10個の議決権を有する」などと定款に定めることで、後継者が代表取締役を務める期間、その議決権を増やすことができます。

 このような定款の定め方により、その株式が他の株主に譲渡等により移転した場合であっても、その株式を譲り受けた株主がその株式会社の代表取締役でなければ、特別な権利(上記の例では1株につき10個の議決権を有すること)が引き継がれることはありません。たとえば、後継者の配偶者が相続により甲が保有していた株式を取得したとしても、代表取締役でなければ、1株につき10個の議決権を有することはありません。この点、株式に権利が帰属している種類株式と異なることになります。

4.留意点

 属人的株式の活用を考える場合、その特別な権利が株式の移転により、次の株主に引き継がれるのかどうかという点は重要なポイントとなります。したがって、属人的株式を保有することで特別な権利を有する株主が死亡した場合には、その株主が有していた特別な権利が失効する旨を定款に定めておくことが無難です。また、死亡の場合だけではなく、その株主が意思能力を喪失した場合も特別な権利が失効する旨を定款に定めておくべきでしょう。

 なお、属人的株式については、税務上の評価も必ずしも明確になっていません。このため慎重な判断が必要です。 

【今回のポイント】

 属人的株式以外にも種類株式の活用により、後継者に議決権を集中させたり、後継者の経営を牽制することはできます。ただし種類株式の発行に当たっては登記が必要であり、現経営者や後継者が外部に種類株式の内容が分かってしまうことに抵抗を感じる場合があります。このような場合には、登記が不要な属人的株式を活用することで、種類株式の場合と同じような効果を得ることができます。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士・公認会計士 小野寺太一)


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