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適格請求書保存方式(インボイス制度)の登録と棚卸資産に係る消費税額の調整

2022/10/25

1.はじめに

 令和5年10月1日から消費税の適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度がはじまります。おそらくはインボイス制度への対応準備に追われているのではないかと思います。特に免税事業者の方がインボイス発行事業者(課税事業者)になるか否かの相談もよくあるのではないでしょうか。

 現在は、インボイス発行事業者になった方がよいのか否かという相談がメインかもしれませんが、インボイス制度がはじまった後は、やはり免税事業者に戻りたいと相談を受ける可能性もあるかと思います。

 通常の税理士業務では一の個人又は法人が、免税事業者から課税事業者への変更、又は課税事業者から免税事業者への変更がよくあるというケースは限られた業種には見かけるかもしれませんが、なかなか日常業務ではないかと思います。

 そこで、本稿では、登録後も課税売上高が1,000万円未満の事業者を前提に、インボイス制度の登録関係を今一度点検して頂くのと同時に、忘れがちな棚卸資産の調整について確認します。なお、インボイス制度に関する条文は令和5年10月1日施行のものを前提とし、また、高額特定資産の取得はないものとしています。

2.インボイス制度の登録関係

(1)免税事業者が登録する場合の手続

 免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録を受けるために、「適格請求書発行事業者の登録申請書」(以下、「登録申請書」という。)を所轄の税務署長に提出し登録された場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなくても、登録日からインボイス発行事業者で、かつ、課税事業者となります(消令70の4、消規26の4、平成30年改正令附則13)。これを、「免税事業者に係る登録の経過措置」といいます。

(2)簡易課税制度を適用する場合

 免税事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受け、登録を受けた日から課税事業者となる場合、登録日の属する課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することができます(平成30年改正令附則18)。

(3)免税事業者に戻る場合

①原則的取扱い
 インボイス発行事業者になった後に、免税事業者に戻るためには次の手続きが必要になります。すなわち、納税地の所轄税務署長に、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下、「登録取消届出書」という。)を提出することでインボイス発行事業者ではなくなります。この届出書の提出によって、原則としてその登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われます(消法57の2⑩一)。ただし、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の末日から起算して30日前の日からその課税期間の末日までの間に提出した場合は、その翌々課税期間の初日に登録の効力が失われます。この規定は「30日前」であり、1か月前ではありませんので注意が必要です。
 しかし、これだけでは課税事業者のままになってしまいますので、さらに、「消費税課税事業者選択不適用届出書」をその課税期間の初日の前日までに提出する必要があります(インボイス通達2-5(注))。

②2年しばりについて
 「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出したとしても、原則として、登録を受けた日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは免税事業者になることができません(いわゆる「2年しばり」。消法9⑥)

③令和5年10月1日を含む課税期間中に適格事業者の登録を受けた免税事業者の場合
 原則としては②の取扱いですが、令和5年10月1日を含む課税期間に「免税事業者に係る登録の経過措置」の適用を受けて登録した免税事業者は、2年しばりの規定の適用はなく、2年を待たずに「登録取消届出書」の提出のみで免税事業者に戻ることができるという特例があります(インボイス通達5-1(注)なお書き)。

3.棚卸資産に係る消費税額の調整

 ①免税事業者がインボイス発行事業者(課税事業者)になった場合における免税事業者の期間に仕入れた棚卸資産に係る消費税額の取扱い、及び、②インボイス発行事業者が免税事業者になった場合における課税事業者の期間に仕入れた棚卸資産に係る消費税額の取扱い、について忘れがちですので注意が必要です。なお、簡易課税制度を選択している場合は、この棚卸資産の消費税額の調整は行いません。これは仕入税額控除の規定にかかわらず、「みなし仕入率」を用いて計算することになっているからです(消法30、37、消基通12-7-4)。

①免税事業者がインボイス発行事業者(課税事業者)になった場合
 免税事業者が課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうちに、免税事業者であった期間に仕入れた棚卸資産があった場合は、その棚卸資産に係る消費税額を、インボイス発行事業者(課税事業者)になった課税期間で仕入税額控除ができます(平成30年改正消令附則17、消法36①)。すなわち、「免税事業者に係る登録の経過措置」を適用すると、課税期間の途中から課税事業者になりますので、その前日までの期間に仕入れた棚卸資産で課税事業者になる前日に所有しているものについては、その課税事業者になった期間で棚卸資産に係る消費税額の調整の規定が適用され、仕入税額控除ができるということです。

②インボイス発行事業者(課税事業者)が免税事業者になった場合
 免税事業者になったインボイス発行事業者(課税事業者)が免税事業者となる課税期間の直前の課税期間の末日において所有している棚卸資産のうちに、課税事業者であった期間に仕入れた棚卸資産があった場合は、その棚卸資産に係る消費税額を、その直前の課税期間(すなわち課税事業者である最後の期間)において仕入税額控除ができません(消法36⑤)。

4.まとめ

 本稿では、インボイス制度の登録・取消しと棚卸資産に係る消費税額の調整について整理しました。令和5年10月1日を含む課税期間に「免税事業者に係る登録の経過措置」の適用を受けて登録した免税事業者は、2年しばりは適用されないため、すぐに免税事業者に戻ることが可能となっています。そのため、免税事業者の期間に仕入れた棚卸資産に係る消費税額の調整を行ったすぐあとに、今後は課税事業者の期間に仕入れた棚卸資産に係る消費税額の調整を行う、といった事態が発生する可能性があることにご留意ください。

筆:秋山高善 税理士/監修:松本次夫 公認会計士・税理士

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