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合同会社の社員に相続が起こった場合

2025/02/25

 合同会社は、会社法上では持分会社として取り扱われるため、株式会社と異なり、あらかじめ定款において、相続が発生した場合に相続人に持分を承継する旨の定めを置いていないと、会社は継続できなくなる可能性がある。 
 また、社員の持分の相続税評価では、相続人へ持分を承継するか否かで、評価方法が異なるという問題がある。
 今回は、それらの問題点と対処法についてまとめてみる。

1.会社法上の取り扱い

⑴ 定款に相続人へ持分が承継する旨の定めがない場合

 ① 会社法第607条第1項第3号の法定退社事由に当たるため、会社を退社することになる。 
  その相続人には、相続財産として持分の払戻請求権が残る。
  社員がもともと一人であった場合は、社員が不在となるため、解散となり会社を継続できないこととなる。(会社法第641条第1項第4号)

 ② 会社を継続させたい場合は、あらかじめ社員を2人以上にしておく必要がある。

⑵ 定款に相続人へ持分が承継する旨の定めがある場合

 ① 定款で持分の承継が定められている場合は、持分を相続で承継することが可能。

 ② 定款の持分の承継の際に「他の社員の承認を得て、持分を相続人へ承継させることができる旨」を任意に定めることができる。

 ③ また、特定の相続人をあらかじめ指定して承継させることを定めることができる。

 ④ 相続人が複数の場合は、原則として、その各相続人が法定相続割合に応じて持分を準共有する形となり、社員数としては1名となる。
 複数の相続人のうちの一人が単独で承継する場合は、まず法定相続分で登記してから、特定の一人の相続人に持分の譲渡の登記をする必要があるため、贈与税が発生する可能性を考慮する必要がある。

 ⑤ 相続人が複数の場合に、遺産分割協議により相続人の一人が単独で持分を承継することはできないとする登記先例(税法でいえば通達と上級官庁からの回答を合わせたようなもの)がある。(昭34・1・14民甲第2723号、昭36・8・14民甲第2016号、昭和38・5・14民甲第1357号) 
 上記3つの先例はいずれも旧商法時代の合名会社に対するものである。そのうち前者2つは無限責任社員に対するものであるが、最後のものは有限責任社員が死亡した際のものであるため、合同会社の登記にも適用される可能性があり、合同会社に対してどのように適用されるか明確になっていないため、注意が必要である。

 ⑥ 参考までに、私の事務所で実際に体験した事例では、上記②のような定款の定めがあった場合に、残存している社員の承諾書を添付することにより、上記④の準共有の登記を経ずに、被相続人から特定の相続人に直接社員を変更する登記をすることができた。
 但し、この取扱いが、その他の管轄の法務局でも認められるかどうかは、明らかになっていない。

 ⑦ 上記②の定款の定めで、持分の承継が必ず認められるかどうかは、定かではない。 
 従って、相続があった場合にあらかじめ特定の相続人を指定して、その者に承継させる旨を定めておくとともに、遺言においてもその旨を明記しておく方法が確実であると考える。

2. 税務上の問題点

  この点については、下記の質疑応答事例が参考となる。

 質疑応答事例 『持分会社退社時の出資の評価』

 「照会要旨」

 合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称します。)の社員は、死亡によって退社(会社法第607条第1項第3号)することとされていますが、その持分について払戻しを受ける場合には、どのように評価するのでしょうか。
  また、出資持分の相続について定款に別段の定めがあり、その持分を承継する場合には、どのように評価するのでしょうか。

 「回答要旨」

 1 持分の払戻しを受ける場合
  持分の払戻請求権として評価し、その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額となります。

 (理由)
  持分の払戻しについては、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法第611条第2項)とされていることから、持分の払戻請求権として評価します。

 2 持分を承継する場合
  取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価します。

 (理由)
  出資持分を承継する場合には、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します。


財産評価基本通達194『持分会社の出資の評価』は下記のとおりとなっている。

194 会社法第575条第1項に規定する持分会社に対する出資の価額は、178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫から前項までの定めに準じて計算した価額によって評価する。(昭59直評7外・平18課評2-27外改正)


⑴ 合同会社の持分について、承継する旨の定めがない場合

 ① 相続人に対する相続税  
 持分の払戻請求権という債権を相続することになる。

 払戻請求権=【各資産合計額(相続税評価額)-各負債合計額】×出資持分の割合

 
 基本的には、純資産価額に類似する計算方法によることになる。 
 類似業種比準価額を用いることはできず、評価差額に対する法人税等相当額37%を控除することができないため、割高となるケースが多い。

 ② 被相続人に対する所得税(所得税法第25条、第181条、第182条)   
 払戻請求権の額が、当該社員の出資金額を超えるときは、その超える部分の金額は、利益の配当とみなされ、配当所得の準確定申告が必要となる。この配当所得の収入すべき時期は、死亡による退社日となる。(所得税基本通達36-4(3)ト)
 なお、その合同会社において、金銭等の支払いの際、配当とみなされる金額の20.42%を源泉徴収し、その翌月10日までに源泉所得税の納付が必要となる。
 仮に、死亡による退社日から1年を経過した日までに支払いがされない時は、その1年を経過した日において支払いがあったものとみなして源泉徴収義務が生じる。
 この源泉所得税は、被相続人の相続税の計算上、被相続人が負担すべき債務となるため、債務控除の対象となる。 

⑵  合同会社の持分について、承継する旨の定めがある場合

 ① 上記、質疑応答によると「取引相場のない株式の評価」に準じて財産評価基本通達178から193までの定めに基づいて評価することになっているため、会社の規模に応じて、類似業種比準価額又は一定割合で類似業種比準価額と純資産価額を併用した価額を用いることができる。

  ② 合同会社は、社員ごとに個別に配当を請求することができることとなっている。
そこで、配当の金額をもとに計算する類似業種比準価額や配当還元価額は、社員ごとに配当の受給回数に差がある場合の評価方法が確立していない点が今後大きな課題となる。
 一部の社員が、利益の配当を受けているとその部分につき、その社員に対応する利益剰余金が減少して持分価額が下がっていると考えられ、社員ごとに持分の価額に差異が生じることになる。
 各社員ごとに帰属した持分の価額をもとにして、個別に計算した方が合理的であると考える。

 ③ また、配当還元価額は、議決権割合をもとにするため、合同会社の場合は原則として、出資割合でなく社員数で計算する点にも注意が必要である。

執筆:梶田 義孝 税理士/監修:村田 光央 税理士

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