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1年を超えての海外勤務になった場合の証券口座等の取り扱い

2022/02/21

 「貯蓄から投資へ」の流れの中で、近年、証券口座を開設し、NISAやiDeCoを始めた方も多いことかと思います。証券口座での所得は、税務上は、主に配当・株式譲渡課税として、制度的には、国内に住所を有する方(「居住者」)を対象とする取り扱いとなっています。それでは、「居住者」でなくなった場合には、どのような取り扱いとなるのでしょうか?

1.「非居住者」の定義
 所得税法において、「居住者」は「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」とされ、「非居住者」は、「居住者以外の個人をいう」と定義されています(所法2①三、五)。
 あらかじめ1年を超えて海外に居住することが明らかな場合は、日本を物理的に出国した時点(厳密には出国した日の翌日)から日本の「非居住者」になります。例えば、会社の辞令等で1年を超えての海外勤務となった場合には、出国した日の翌日から「非居住者」になり、出国の前日までに各種手続きをする必要があります。

2.証券口座の取り扱い
①特定口座
 特定口座を開設できるのは、「居住者(又は、日本国内に恒久的施設を有する非居住者)」に限られていますので、「非居住者」になる時点で、特定口座は廃止され、一般口座へ振替えられます。(証券会社によっては、解約を求められる場合もあるようです。)

②一般口座
 「非居住者」の場合、日本で課税を受けるのは、国内源泉所得のみとされています(所法7①三)ので、株式譲渡に関しては、原則非課税(一定の要件に該当する場合のみ課税)で、国内源泉所得となる配当(法161①九)は、源泉徴収の対象(住民税は課税されず、源泉徴収税率は、多くの租税条約で減免規定が設けられています。)となります。
 ただし、証券会社が開設している一般口座は、「居住者」を対象にしている口座になることが多く、「居住者」から「非居住者」への変更があった場合の対応は、証券会社ごとに異なりますので、詳細は、証券会社各社にご確認ください。

③NISA(一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISA)
 NISA口座を開設できるのも「居住者」に限られていますので、「非居住者」になる時点で、NISA口座は廃止され、一般口座へ振替えられます。仮に子供がジュニアNISA口座を保有しており、親の海外勤務に伴い、「非居住者」になる場合には、課税ジュニアNISA口座に移管する必要があり、3月31日時点で18歳となる年まで払い出すことはできませんでしたが、「ジュニアNISA」制度が2023年末で終了されることに伴い、2024年以後の払い出しについては、課税されません

3.iDeCoの取り扱い
 「非居住者」は、一般的に日本の公的年金制度の対象から外れるため、原則iDeCoへの加入は認められていません。ただし、以下の場合は、引き続き加入ができます。
①国内法人の厚生年金被保険者のまま海外勤務をする場合(2022年5月から国民年金任意加入者も加入可能となります。)
②社会保障協定の締結先18か国で短期就労(5年未満)を行う場合
 ただし、「非居住者」の場合、掛金拠出時の所得控除のメリットを受けることはできなくなります。

4.国外転出時課税制度
 上記で確認をした証券口座で、その保有する対象資産(有価証券等)の国外転出の時点における時価が1億円以上である者は、対象資産を日本国外への転出時において時価で譲渡したものとみなされて、未実現の利益に対して15.315%の税率(株式の場合)で所得税が課税されます。(所法60の2)

5.最後に
 今回、「非居住者」になる例として、会社の辞令で海外勤務者となる場合を取り上げてみましたが、日本の会社員の多くは年末調整で申告納税を完了することができ、証券口座でも特定口座を利用すれば確定申告の必要がなく、普段、申告納税制度に関して意識することは少ない状況かと思います。そのような状況の中、「非居住者」になる場合は、証券口座だけを見ても、手続きの有無や、税金に関するメリットとデメリットの両面があり、今回のお話が、証券口座をお持ちの方にとって、少しでも有益な情報になれば幸いです。

執筆:村田光央 税理士/監修:髙橋毅 税理士

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