成年後見人制度と税理士
2024/10/29
今回は成年後見人制度について、制度の概要を紹介し、個人的な感想を述べたいと思います。
1.成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度がある。
(1)判断能力が不十分になる前は、任意後見制度
本人が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。
ご本人の判断能力が低下した場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じます。
任意後見契約は、公正証書により作成することが必要です。
(2)判断能力が不十分になってからは、法定後見制度
本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。本人の判断能力に応じて、「後見」、「補佐」、「補助」の3つの制度があります。
2.成年後見制度が実際に必要な場合
相続税の申告実務を取り扱う税理士としては、どうしても必要な時だけ成年後見人制度を使うのが良いのではないかと考えています。
どうしても必要な場合とは、
(1)遺産分割協議の当事者になった場合
(2)不動産の売却が必要な場合
(3)預金の引き出しなどで金融機関に求められた場合
などです。
3.成年後見制度のデメリット(親族の中に法律が・・・)
成年後見人は民法の規定通りに被後見人(成年後見をしていただく人)の財産を管理します。このように、親族の中に杓子定規な法律の取り扱いが入ってくるので、親族内で柔軟な財産管理ができなくなり、親族への生前贈与などの相続税対策はできなくなります。
したがって、親族内で円満に財産管理の問題を解決ができる可能性が高い場合は、おすすめできません。
例えば、親の財産及び預金を管理している親族を他の親族が信頼して財産管理を任せている場合は、無理に成年後見人の申し立てをする必要はないと思います。
4.成年後見制度が必要と考えられる親族
具体的に成年後見制度が必要と考えられる親族は、以下のような親族ではないかと考えています。
(1)親族内で仲が悪いため、財産の管理が事実上できない。
(2)親族内でもめている(理由はそれぞれです)。
(3)親族内で財産及びお金の考え方に大きな意見の相違がある。
(4)親族内で金銭感覚が著しく異なっている。
(5)財産を使い込んでしまう親族がいる。
(6)親族に財産管理を適正に行うことができる人がいない。
このような親族は、親族内で信頼関係が構築されていないケースが多いので、成年後見制度を利用し、法律に沿って粛々と成年後見人が被後見人の財産管理を行うほうが良いと思います。
5.親族がいない人、親族が外国にいる場合などの対応
(1)親族がいない人
相続人などの親族がいない人は、認知症になると財産を自分で管理できない可能性が高くなるので、成年後見制度を利用するのが現実的になります。
税理士が確定申告を受任している人の場合には、税理士が毎年の資料の準備状況などにより、本人が財産に関する書類の管理ができない状態になっていることを把握することになります。毎年ひとりで準備できていた申告資料が準備できなくなってきた場合、または、通帳を確認した結果、本人が説明できない多額の出金を確認した場合などのタイミングで、本人と相談することになるでしょう。
本人の認知機能の低下のスピードが速いときは、地域の包括支援センタ-、民生委員や地方自治体の社会福祉士に相談する必要が出てくるかもしれません。
(2)親族が外国にいる場合
相続人などの一定の親族(相続人等)が外国にいる場合は、本人が財産管理をできない状態になってきたことを早めに相続人等へ伝えることが必要になります。 本人の状態を相続人等に連絡し、相続人等と状況を共有したうえで、成年後見の申し立てを相続人等に決断していただくことになります。
実際に、税理士が申し立てに伴いどのような形で関与していくか、弁護士等の専門家に相談して申し立てを行うかなどは、ケースバイケースで対応していくことになると思います。
6.家庭裁判所が選任する成年後見人、成年後見監督人の選任
親族間でもめている場合や財産が多い人は、家庭裁判所が弁護士、司法書士など第三者の専門家を成年後見人として選任することが一般的です。
親族が成年後見人に選任された場合でも、財産が多い人は、家庭裁判所がその親族成年後見人の監督人として弁護士、司法書士など第三者の専門家を選任します。
これらの専門家が成年後見人もしくは成年後見監督人に選任された場合には、報酬が発生します。
成年後見人の基本報酬は月額2万円が目安です。ただし、管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合は月額3~4万円、管理財産額が5,000万円を超える場合は月額5~6万円が目安になります。
成年後見監督人は、管理財産額が5,000万円以下の場合は月額1~2万円、管理財産額が5,000万円を超える場合は月額2.5~3万円です。
これらの報酬の支払には家庭裁判所の許可が必要になります。
7.専門家が成年後見人に就任すると、
(1)まず、本人・ご家族と面会し、合わせて預貯金通帳などを預かることが多いです。通帳等を預かる際には、受取書を発行します。
(2)次に、役所、税務署、金融機関などへ成年後見等の開始の届出書を提出します。
(3)実際の財産の管理を開始します。
(4)必要に応じて、後見制度支援信託と後見制度支援預貯金を利用します。
8.後見制度支援信託と後見制度支援預貯金
(1)後見制度支援信託
後見制度支援信託とは、後見事件について、本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常、使用しない金銭を信託銀行等に信託した上、信託財産の払戻しや信託契約を解約するなどの場合には、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とする仕組みです。
(2)後見制度支援預貯金
後見制度支援預貯金とは、後見事件について、本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を銀行、信用金庫、信用組合、農業協同組合などの金融機関で開設できる後見制度支援預(貯)金口座に預け入れるもので、同口座に係る取引(出金や口座解約など)をする場合には、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とする仕組みです。
9.弊社で成年後見人業務を受任するとしたら
弊社では、まだ成年後見人を受任したことがありません。現実として、成年後見人を受任するケースとしては、お客さんが元気な時に任意後見人に選任されて、認知機能が低下した場合などに任意後見人になり、必要があれば、そのまま成年後見人になるパターンではないかと考えています。
確定申告などをしていない人(財産、収入状況、実際の親族関係、ご本人の性格や人柄がわからない人)の成年後見業務を受任するのは難しいと思います。
10.最後に
今回は、成年後見制度の概要と私の個人的な考えを紹介しました。いずれ、成年後見人を受任した際には、税理士として実務上気づいた点などを紹介したいと考えています。
参考資料:最高裁判所の成年後見人関連のHP
執筆:出岡 伸和 税理士/監修:松本 次夫 税理士