未払決算賞与を出すときは就業規則の確認を忘れずに
2024/11/25
問 A社(×年3月決算)は、3月中に従業員に対して決算賞与の支給を決定し、×年4月15日に支給をしました。なお、あらかじめ、税理士の指導により、3月中に支給予定者全員に個別に支給金額を通知した上で、当該通知日の属する事業年度において、当該支給予定金額について損金経理しています。この未払賞与は、×年3月期において損金に算入されると考えてよろしいでしょうか? なお、A社は就業規則を作成し賞与に関する規定を設けています。
解答
1.使用人賞与の損金算入時期(法令72条の3)
使用人へ支給する賞与は、以下の掲げる賞与の区分に応じ、それぞれ次の事業年度の損金の額に算入されます。
(1) 労働協約又は就業規則により支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額の通知がされているもので、その支給予定日又はその通知日の属する事業年度にその支給額について損金経理しているものに限ります)その支給予定日又は通知日のいずれか遅い日の属する事業年度
(2) 次に掲げる要件を全て満たす賞与
その支給額の通知をした日の属する事業年度
① その支給額を、各人に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること
② ①の通知をした金額をその通知をした全ての使用人に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内に支払っていること
③ その支給額について①の通知をした日の属する事業年度において損金経理していること
(3) 上記(1)及び(2)以外の賞与
その賞与が支払われた日の属する事業年度
2 検討
問のケースについて、上記1の規定に当てはめて検討しますと、上記1(2)のいわゆる決算賞与に該当すると考えられます。よって、上記1(2)に定める3つの要件を全て満たしているため、当該未払賞与は、A社の×年3月期において損金に算入されるように思いますが、問のケースの場合には、就業規則の内容を確認しないと損金算入の判断はできないので注意が必要です。
3 就業規則の確認の重要性
就業規則には、賞与に関しての定めがあることが通例です。そして、多くの就業規則においては、賞与は在職する社員へ支給するという制度設計から、賞与の支給日までに退職した使用人には賞与を支給しない旨を定めています。
上記1(2)の未払決算賞与の規定は、実際に支払われたと同視し得る場合に限って、例外的に損金に算入することを認めるという趣旨ですので、法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合には、上記1(2)①の支給額の通知には該当せず、結果として未払決算賞与の損金算入が認められません。(法基通9-2-43)
よって、A社の場合には、事前に就業規則を確認する必要があり、賞与の支給日までに退職した使用人には賞与を支給しないという規定となっている場合には、仮に、通知日から支給日までに退職者がおらず、結果として、就業規則に抵触する社員がいない場合であっても、未払賞与について損金算入が認められないことになりますので、注意が必要です。
この対応策としては、以下のような方法が考えられます。
① 就業規則の賞与に関する規定について、「賞与の支給日に在職しない場合には、当該賞与は支給しない。ただし、決算賞与については、この限りではない。」等の変更を行う。
② 決算賞与の支給通知書において、「本賞与については、就業規則第〇条(賞与)に関する規定は適用しない。」等を明記しておく。
4 法定福利費の未払計上にも注意
未払経理をした決算賞与が損金されるとした場合には、当該賞与に係る法定福利費の会社負担分についても、未払計上することにより損金に算入することはできるでしょうか?答えは、損金算入が認められません。これは、社会保険料の損金算入時期は、当該社会保険料等の計算の基礎となった月の末日の属する事業年度とされているためです。(法基通9-3-2)
上記問の事例にあてはめますと、A社は決算賞与を×年4月15日に支給しており、当該賞与の社会保険料等の計算の基礎となった月は×年4月となることから、×年3月期では、法定福利費の未払計上による損金算入は認められません。
執筆:湊 義和 税理士/監修:坂部 啓太 税理士