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相続財産である同族会社株式を発行会社に譲渡した場合の課税関係 ―みなし配当課税・措法9条の7・措法39条(相次相続の特則を含む)―

2026/08/04

1.相続財産である同族会社株式を発行会社に譲渡した場合の2つの取扱い
 
 相続又は遺贈により取得した同族会社(非上場)株式を、遺産分割の代償資金や相続税の納税資金確保のために、その発行会社自身に譲渡(自己株式として買い取ってもらう)する場面は、事業承継や相続対策の実務で頻繁に生じます。相続財産である同族会社株式を発行会社に譲渡した場合の所得税については、原則的な取扱いと特例的な取扱いの2つがあり、いずれを適用するかにより税負担が大きく変わります。

 原則的な取扱いは、譲渡対価のうち発行会社の資本金等の額に対応する部分を超える金額が「みなし配当」(所得税法25条)として総合課税の対象となります。特例的な取扱いは、みなし配当課税を適用せず、譲渡対価の全額を分離課税の譲渡所得として扱うことができる措置法9条の7と、相続税額を取得費に上乗せできる措置法39条(取得費加算の特例)の2つの規定があります。この2つの特例を適用するにあたり、「相続税額があるもの」が適用要件となっているため注意が必要です。また、相次相続の場面においては「相続税額があるもの」について異なる取扱いとなるため、それぞれの規定を確認したうえで、留意点について確認します。

2.原則:みなし配当課税の仕組み

 発行会社が自己の株式を株主から買い取る(自己株式の取得)場合、税務上は通常の第三者間売買とは異なる性質を持ちます。譲渡対価は、経済的に見れば「株式の対価」であると同時に、「会社に蓄積された利益の株主への還元(配当類似行為)」という性質を併せ持つためです。

 そのため税務上はこれを分解し、譲渡対価のうち発行会社の1株当たりの「資本金等の額」に対応する部分は株式の譲渡所得とし、それを超える部分は会社からの利益分配とみなして「みなし配当」(所得税法25条1項5号)とし、配当所得(総合課税)の対象とします。

 具体例で示すと、発行会社の資本金等の額の総額が500万円、発行済株式数が100株の場合、1株当たりの資本金等の額は5万円です。この株式を1株100万円で会社に売却した場合、95万円(100万円-5万円)がみなし配当(配当所得・総合課税)、5万円が譲渡対価(譲渡所得・分離課税。ここから実際の取得費・譲渡費用を控除)となります。

 みなし配当部分は他の所得と合算されて総合課税(最高税率段階では所得税・復興特別所得税45.945%+住民税10%=55.945%)の対象となるため、通常の非上場株式譲渡(申告分離課税、一律20.315%)と比べて税負担が著しく重くなります。相続税の納税資金を確保するための売却であるにもかかわらず、その行為自体に半分以上の税金がかかってしまうという、実務上非常に深刻な問題が生じる可能性があります。

3.特例①:措法9条の7(みなし配当課税の不適用)

 相続又は遺贈により財産を取得した個人が、その相続税額に係る株式を一定期間内にその発行会社に譲渡した場合には、上記のみなし配当課税を適用せず、譲渡対価の全額を株式等の譲渡所得(分離課税・税率20.315%)として計算できます。先の例であれば、100万円全額が譲渡所得の対価となり、最高税率の株主であっても約56%の総合課税を回避し、20.315%の分離課税に抑えることができます。

 適用要件(実体要件)は次の3点です。①相続又は遺贈により財産を取得した個人で、その相続につき納付すべき相続税額があること。②その株式を、相続開始の日の翌日から相続税の法定申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(3年10か月以内)に譲渡すること。③譲渡先がその株式の発行会社自体であること(第三者への譲渡は対象外)。

 手続き要件も重要です。本特例の適用を受けるためには、その譲渡の対価の支払を受ける時までに、発行会社を経由して、発行会社の本店所在地を所轄する税務署長へ「相続財産に係る非上場株式をその株式の発行会社に譲渡した場合の所得税の課税の特例に関する届出書」を提出しなければなりません。実務上、譲渡(決済)が完了した後に提出しても特例の適用は認められないとされています。この提出タイミングの管理を失念すると、措法9条の7の適用を受けることができず、原則(みなし配当課税)が適用されてしまうため、実務上最も注意すべき手続きリスクです。

4.特例②:措法39条(取得費加算の特例)

 相続又は遺贈により取得した財産を、一定期間(3年10か月)内に譲渡した場合には、その者が現実に納付した相続税額のうち、譲渡した財産に対応する部分を譲渡所得の計算上、取得費に加算(上乗せ)できる制度です。これは相続税と譲渡所得税の二重課税を調整する趣旨で設けられています。

 適用要件は、①相続又は遺贈により財産を取得した個人で、その相続につき相続税額があること、②その財産を相続開始の日の翌日から相続税の法定申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(3年10か月以内)に譲渡すること、の2点です。

 要件①・②は措法9条の7と共通しているため、実務ではみなし配当課税の不適用と取得費加算の特例が適用できるように検討します。すなわち、措法9条の7で「みなし配当(総合課税)」を回避し、措法39条の適用を受けることで取得費を加算することで、二段階の税負担軽減効果を得ることができます。

5.相次相続が起きた場合の「相続税額があるもの」の取扱い

(1)法の定め

 措法9条の7と措法39条は、「相続税額があるもの」「3年10か月以内の譲渡であること」という要件を共通に持ちますが、この共通要件の判定において、両特例には相次相続の場面で明確な差が生じます。

①措法9条の7第1項

 措置法第9条の7第1項は、相続又は遺贈による財産の取得をした個人でその相続等につき納付すべき相続税額があるものが、その相続の開始があった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場会社の発行した株式を当該非上場会社に譲渡した場合において、当該譲渡の対価として当該非上場会社から交付を受けた金銭の額が当該非上場会社の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額について、一定の手続の下、みなし配当課税を行わない旨規定しています。

②措法39条

 措置法第39条第1項は、相続等による財産を取得した個人でその相続等につき相続税額があるものが、その相続の開始のあった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合には、その譲渡した資産に係る譲渡所得の金額の計算上、その相続税額のうち一定の方法で計算した金額を加算した金額をもってその資産の取得費とする旨規定しています。

 ただし、ここで注意が必要なことは、措置法第39条第6項に、第1項に規定する相続税法の規定による相続税額は、(中略)、暦年課税分の贈与税額控除、相続時精算課税分の贈与税額控除及び相次相続控除規定により控除される金額がある場合には、同法の規定による相続税額又は当該納付すべき相続税の額に当該金額を加算した金額とする、と規定しています。

 したがって、相次相続控除によって、相続税の納付税額がない場合でも、相次相続控除によって、控除された税額があるときは、措法39条の規定の適用はあることに注意が必要です。

(2)措通39-11(第二次相続人が第一次相続に係る相続財産を譲渡した場合の取得費加算の計算)

 措法39条には措通39-11による限度額の承継・選択規定があり、二次相続時点で第二次相続人自身の相続税額が圧縮されていても、第一次相続を基礎とする計算を選択すれば救済されます。


 計算式は次のとおりです。


 通達では続けて、第二次相続について相続税の申告義務がなく申告書の提出がない場合は、B・Cとも実際の課税価格算入額ではなく、課税価格の計算の基礎に算入すべき価額を基に計算するとされています。
 
 算式の意味は2段階で理解できます。第1段階では、第一次相続人が死亡直前に持っていた限度額を第二次相続人に引き継がせ、第二次相続人ごとの取り分(A)に引き直します。第2段階では、第二次相続人が第二次相続で取得した特例対象資産全体(B)のうち、今回実際に譲渡した部分(C)が占める割合をAに乗じて按分します。つまり「第一次相続人から引き継いだ限度額のうち、今回売却した株式に対応する部分だけを取得費に加算する」という按分比例の考え方です。

 さらに通達は、この特例対象資産は第二次相続人が第二次相続によっても取得した資産であることから、①第一次相続を基礎とする上記算式による計算と、②第二次相続を基礎とする通常の措法39条の計算のいずれで行うかを、譲渡した資産ごとに第二次相続人が選択できるとしています。実務上は両方を試算し、有利な方を選択することになります。

(3)「相続税額があるもの」に係る配偶者の税額軽減と相次相続控除の留意点

 配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)は、配偶者が取得した財産のうち法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい額までについて相続税がかからない制度であり、この適用により配偶者本人の納付税額がゼロとなるケースは少なくありません。この場合、配偶者が取得した株式を発行会社に譲渡しても、要件を満たさないため措法9条の7・措法39条とも適用できず、みなし配当課税が生じます。

 配偶者だけでなく、子が取得する場合にも注意が必要です。前回の相続(一次相続)から10年以内に今回の相続(二次相続)が立て続けに発生した場合、子には相次相続控除(相続税法20条)が適用されます。一次相続からの経過期間が短いほど控除額が大きくなる設計のため、この控除によって子の納付すべき相続税額が結果的にゼロとなってしまうケースが十分に想定されます。一族単位で見れば一次相続等で多額の相続税を負担している事実に変わりはありませんが、二次相続時点の納税額がゼロになれば措法9条の7の規定が使えなくなるので注意が必要です。

 この相次相続控除の場面は、前述の措法39条と措法9条の7の取扱いに違いがあります。措法39条であれば、措法39条6項や措通39-11により取得費加算額を確保できる可能性がありますが、措法9条の7にはこれに相当する規定がありません。したがって、取得費加算(措法39条)は救済される一方、みなし配当課税の不適用(措法9条の7)は救済されず、譲渡対価のうち資本金等の額を超える部分にみなし配当課税(総合課税)が生じると考えられます。

 実務においては、株式を譲渡して資金化しようとしている本人(譲渡予定者)の相続税申告書(第1表)の「差引税額」がプラスになっているかを確認することが非常に重要です。特に相次相続の適用がある場合には、「相続税額があるもの」について、措法9条の7と措法39条については異なる取扱いとなるため、遺産分割の段階から、将来の株式譲渡の出口を見据えた分割方針の検討が重要になります。

執筆:河合 真悟  税理士/監修:川﨑 啓 税理士

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