会計検査院 小規模宅地等特例で「政策目的に沿っていない」と指摘
2017/12/07
会計検査院はこのほど、「租税特別措置(相続税関係)の適用状況等について」の報告書を公表した。その中で、平成30年度税制改正の議論の中でも多くの注目を集めている「小規模宅地等の特例」について、その政策目的に沿っていないケースが指摘されている。
報告書によると、会計検査院が70税務署において26年分および27年分に譲渡収入が高額だった2907人を抽出したところ、小規模宅地等の特例を適用した相続人は243人だった。そして、この243人が譲渡した特定宅地等273件を調べたところ、相続人が相続税の申告期限の翌日から「1年以内」に譲渡していたものが163件(このうち貸付事業用宅地等の譲渡は110件)。さらに、相続税の申告期限の翌日から「1か月以内」に譲渡していたものも22件(同13件)見られた。
そもそも、小規模宅地等の特例は、事業用または居住用宅地等の相続税の課税価格を軽減することで相続人の事業または居住の継続等に配慮することを目的として創設されたもの。しかし、相続人が、小規模宅地等の特例を適用した土地等を、特に貸付事業用宅地等について短期間しか所有していないケースが見受けられる状況に、会計検査院は「小規模宅地等の特例の政策目的に沿ったものとなっていない」などと指摘した。
なお、報告書では、小規模宅地等の特例を適用した土地を申告期限の翌日から短期間で譲渡していた事例が示されている。
<事例>
相続人Aは、平成26年分の相続税申告書等において、相続した土地249.70㎡、現金預金28,538,289円、家屋4,477,440円等のうち、被相続人の不動産貸付事業の用に供されていた宅地198.46㎡(このうち相続人Aの持分は2分の1。以後、持分に係る価額のみ表示)について、事業を承継することとして、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用し、当該土地の課税価格51,599,600円から50%相当額である25,799,800円を減額し、3,075,100円(当該土地に係る相続税額は1,537,631円)を相続税として納税していた。
そして、相続人Aは、保有継続要件である相続税の申告期限の翌日から約1か月半後に当該土地を64,500,000円で売却した。また、相続人Aは、措置法第39条の規定に基づく特別措置を適用して当該土地に係る相続税額1,537,631円を取得費に加算して譲渡収入から控除するなどした課税譲渡所得59,523,207円に対する譲渡所得税額8,928,450円を納税していた。
仮に、相続人Aが小規模宅地等の特例等を適用しなかった場合、会計検査院において試算したところ相続税額は5,098,200円増加して8,173,300円となる一方、取得費に加算される相続税額が3,658,456円増加して5,196,087円となることから譲渡所得税額は548,850円減少して8,379,600円となる。したがって、相続人Aの負担する納税額は、相続税と譲渡所得税額の差引きで4,549,350円増加することとなる。