中小企業の事業性を向上させる税理士の経営支援|インタビュー|日税ジャーナルオンライン

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インタビューInterview

中小企業の事業性を向上させる税理士の経営支援

2017/07/27

吉永 茂 公認会計士・税理士 京都大学経営管理大学院特命教授

金融機関は融資における判断の軸足を従来の担保・保証重視から借入先の「事業性(収益性・将来性など)」に移し始めている。こうした中、税理士事務所に求められるサポートとは何なのか――。 書籍『中小企業の事業性を向上させる税理士の経営支援』を執筆した京都大学経営管理大学院特命教授で、一般社団法人コンサル技連代表理事を務める吉永茂公認会計士・税理士に話を聞いた。


――このほど、中小企業の事業性の向上をテーマにした書籍を執筆されましたが、その経緯からお聞きします。

 現在、金融庁は『金融仲介機能のベンチマーク』の施策などを通じて、金融機関に事業性評価融資の強化を促しています。事業性評価とは、取引先企業の決算データや担保・保証に過度に依存することなく、事業内容やその将来性など、数字に表れない部分を適切に評価することですが、企業側としても、こうした時代の流れに対応する必要があります。そのためには、中小企業の最も身近な専門家である税理士の支援を受け、企業のトップがリーダーシップを発揮しながら自社の経営力向上に取り組むことが欠かせません。そこで、その方法を分かりやすく解説した実務書として『中小企業の事業性を向上させる税理士の経営支援』を執筆しました。

――実務書というと分厚いイメージがありますが、とてもコンパクトですね。
 高額の報酬を受け取っているプロのコンサルタントを対象とした実務書であれば、この何倍ものボリュームになると思いますが、今回は、税理士ができるコンサルティング、中小零細企業が取り組むことできる経営力向上計画という内容に絞り込んでいます。130ページ程度なので、3時間もあれば読めるのではないでしょうか。

――実際、どのように事業性を向上させていくのでしょうか。
 経営の改善にあたっては、まず、社内の経営管理体制を整備し、自社の金融機関の評価やキャッシュフローの現状を知った上で、セグメント(製品・顧客)ごとの重要度を決定しながら必要利益を明らかにし、経営力向上計画を立てていきます。その後、「日報」を活用して社内のコミュニケーションを円滑化し、人材育成につなげ、定例経営会議で評価や改善策の検討を繰り返すことで、計画の実現可能性を高めていきます。

――それを税理士事務所が支援していくわけですね。
 はい。税理士の先生方は数字に強いので、見方を少し変えて勉強すれば、すぐにコンサルティングを実践できると思います。問題なのは、中小零細企業の経営者がやる気にならなければ、何も始まらないということです。まずは、今後の経営について社長自身に考えてもらい、社長の目線で経営力向上計画を作ってもらうことがポイントとなります。

――計画はどれくらい綿密に立てるべきなのでしょうか。
 あまり難しく考える必要はなく、最初はA4の紙一枚でも構いません。計画が出来上がった後は、所長や職員の方々が毎月訪問する度に、計画と実績の対比を行います。計画通りに実行できたら一緒に喜び、売上が落ち込んだところがあれば、その理由を一緒に考えていく。社長と二人三脚で歩んでいくことが重要といえます。税理士事務所の所長や職員は、関与先を毎月訪問することができますが、これは他の専門家と比べて一番の強みです。その機会を最大限に活かさないのは、非常にもったいないと思います。

マイナスの部分を指摘するよりも良いところを伸ばす

――経営支援において注意点などはありますか。
 税理士に共通する弱点とも言えますが、数字を見ながら企業の悪いところを指摘する傾向があります。もちろん、経営において悪いところを修正することも必要ですが、同じ労力をかけるのであれば、良いところをもっと伸ばしたほうが、企業はより成長していくものです。この“良いところを伸ばす”というのは、税理士事務所に置き換えても同じことが言えると思います。

――事務所の強みを伸ばすべきということですか。
 税理士事務所も中小企業と同様、弱い部分を平均レベルまで上げたところで、経営者から注目されることはありません。一方、強いところに磨きをかけて、さらに強くすることで、周囲から目立つ存在になります。これが、他事務所との差別化となるわけです。もし、差別化に繋がる強みがないのであれば、記帳や申告だけでなく、コンサルティングに目を向けて、その能力を高めてみてはいかがでしょうか。きっと、多くの中小企業に喜んでもらえるはずです。そのキッカケになればという思いもあり、この本を執筆しました。

――今後、金融機関は事業性評価融資に本腰を入れてくるのでしょうか。
 金融機関の数を見ると、この30年間で大きく減少しています。特に、少子高齢化などで地方は元気がなくなってきていますので、金融機関としても新しい成長産業に目を向けて、成長する可能性がある企業には、多少のリスクを取ってでもサポートする、すなわち事業性評価による融資を行っていかなければ、今後淘汰されていくといっても過言ではないでしょう。

――金融機関には事業性を評価する「目利き」の力も求められてきますね。
 そうですね。先日、地元の金融機関から依頼を受けまして、「融資先の事業性を見極める『目利き力』を高めるには」をテーマに職員向け研修会の講師を務めました。当日は、支店長など約40人が参加し、本書の内容を踏まえたテキストを配布しましたが、「金融仲介機能のベンチマークをバランス・スコア・カードに置き換えた説明で分かりやすかった」などと好評でした。金融機関も事業性評価に慣れていませんので、審査担当者が企業の収益性や将来性などを評価しやすいようにお膳立てすることが、税理士事務所の重要な役割だと考えます。金融機関としても、税理士事務所のサポートや指導力に期待しているところは大きいと思います。

――書籍の内容を落とし込んだソフトも開発されたとお聞きしました。
 本書を読んでいただければ、事業性を向上させる流れは分かると思いますが、中小零細企業の経営支援をより実践しやすくするため、私が代表理事を務める職業会計人の研究団体「一般社団法人コンサル技連(略称CML)」において、本書の内容をクラウド上で運用するソフト「経営メダリスト」を開発しました。ソフトには、今後の計画を入力すると、該当しそうな助成金や補助金が表示される機能のほか、コミュケーションと人材育成に活用できる『日報』の機能も搭載されていますので、中小零細企業はもちろん、税理士事務所でも活用できると思います。

――最後にメッセージをお願いします。
 変化のスピードが激しい今日において、企業を継続させていくためには、最終的には財務内容に帰結するものの、それを根底で支える企業の成長や商品の独自性などのレベルアップは欠かせません。そして、これらの定性的な項目の評価、すなわち事業性評価を高めるために欠かせないものが、継続的改善の仕組み作りです。そのためのコンサルティングを多くの税理士事務所に実践していただき、全国の中小零細企業を元気にすることが、日本経済の活性化に繋がってくると信じています。

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