事業承継を取巻く環境の変化に税理士はどう対応すべきか?|インタビュー|日税ジャーナルオンライン

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インタビューInterview

事業承継を取巻く環境の変化に税理士はどう対応すべきか?

2017/08/02

玉越 賢治 税理士 税理士法人タクトコンサルティング代表社員

 中小企業経営者の高齢化が急速に進んでおり、多くの企業が今後5~10年間に事業承継のタイミングを迎える。こうした状況の中、関与先の円滑な事業承継を後押しするために、税理士はどう対応すべきなのか――。税理士法人タクトコンサルティング代表社員の玉越賢治税理士に解説してもらった。

 
 中小企業は我が国企業数の約99%、従業員数の約70%を占めており、地域経済・社会を支える存在として、雇用の受け皿として極めて重要な役割を担っています。このため、中小企業の事業承継が円滑に進むことは、日本経済が持続的な発展を続けていくために必要不可欠な要素です。


 一方で、中小企業者数は1999年から2015年までの15年間に約100万者減少しており、ピークであったリーマンショック後も緩やかですが減少傾向が続いています。

 これと同時に、経営者の高齢化も進んでいます。昭和50年代に平均5%であった経営者交代率は、足下約10年間の平均では3.5%に低下しており、経営者の平均年齢は59歳6ヵ月と過去最高水準に達しています。1995年頃には4 7歳前後であった経営者年齢のボリュームゾーンも、2015年には66歳前後に上がっています。

 後継者の育成期間を含めると事業承継の準備には5年~10年程度を要します。中小企業経営者の平均引退年齢は67~70歳程度であることを考えると60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要があります。

 今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定され、事業承継問題は中小企業にとって緊喫の課題であるにもかかわらず、経営者がその意義を十分自覚しているとは言えず、後継者が確定していない企業も数多く存在しています。

事業承継のニーズを引き起こし
     各ステップを継続的にフォロー
 
 中小企業の事業承継問題については、平成13年に中小企業庁が「事業承継税制研究会」を発足させ、翌年14年に相続税における自社株式の10%評価減特例が創設されましたが、小規模宅地等の評価減制度との選択適用だったこともあり、あまり注目されませんでした。


 同庁は、平成17年「事業承継協議会」を発足させ、平成18年に事業承継を円滑に進めるために「事業承継ガイドライン」を公表しました。事業承継協議会では、相続税法のみならず、民法、会社法についても検討を行い、各種中間報告(「事業承継関連会社法制等検討委員会 中間報告」等)を公表しました。これらに基づき、平成20年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が成立し、翌21年には「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度(事業承継税制)」が創設されました。また、同時期に「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に向けて(中間整理)」や「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」も公表しています。

 その後、親族外承継が増加している状況下で、事業承継税制及び経営承継円滑化法の民法(遺留分)特例を親族外承継に適用できるよう拡充するとともに、事業承継税制の使い勝手が良くなるよう数次にわたる改正が行われました。

 平成27年には中小企業のM&Aの指針となる「事業引継ぎガイドライン」を公表しました。同ガイドラインでは、事業引継ぎ支援センターや後継者人材バンクの役割・活用法についても触れています。

 平成28年には、「事業承継ガイドライン」を改訂し、経営者がどのように事業承継を進めて行けばよいのか具体的手順を示しました。また、事業承継ガイドラインをビジュアル化した「経営者のための事業承継マニュアル」も平成29年3月に公表しています。

 これらにより、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の承継パターンすべてについて、法制度、ガイドライン等が出揃ったことになります。中小企業の事業承継支援は、商工会議所・商工会の経営指導員、金融機関等、税理士・弁護士・公認会計士等の専門家や、各都道府県に設置されている事業引継ぎ支援センター等の公的・専門的な支援機関が、それぞれの立場から支援業務に関与し、その役割を担っています。

 事業承継を円滑に進めるためには、経営者が、①事業承継に向けた準備の必要性・重要性を認識し、②経営状況や経営課題を把握(見える化)し、これを踏まえて③事業承継に向けた経営改善に取り組む(磨き上げ)必要があります。その上で、後継者とともに④事業計画や資産の移転計画を含む事業承継計画を策定(社外への引継ぎの場合はM&A準備)し、⑤事業承継の実行に至る、というステップを踏むことになります。

 事業承継を成功させるためには、各支援者が事業承継ニーズを掘り起こし、各ステップを通じて継続的にフォローアップを行うことが大切です。各支援者のうちで税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営に深く関与しています。中小企業の経営実態や沿革、社内・親族間の人間関係等にも精通しています。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起しの他、相続税に関する助言や株価評価、生前贈与のやり方や種類株式発行に関する助言、中小企業会計要領・中小企業会計指針の導入支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援が可能です。税理士は、経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先のトップに位置しており、事業承継に向けた準備を実効的・効率的の進めるにあたって最も身近な専門家です。

 税理士は経営者と一緒になって、ステップ①では、事業承継に向けた準備状況の確認、次に行うべきことの提案、事業承継診断の実施等を行い、②では、会社を取り巻く環境変化やそれに伴う経営リスク等も合わせて把握(会社の経営状況の見える化)し、後継候補者の有無の確認、親族内株主や取引先等への対応策、相続対策等(事業承継問題の見える化)を検討します。③では、事業承継前に経営改善を行い本業の競争力を強化し、経営体制を総点検し、後継者候補となる者が後を継ぎたくなるような経営状態まで引き上げておくことや、魅力作りを手伝うことになります。④では、10年後を見据えた事業承継計画を策定します。自社の現状とリスク等の把握を経て、中長期的な方向性・目標を設定しますが、その期間の中で、いつ事業承継を実行するのかを織り込む必要があります。社外への引継ぎの場合は、M&A仲介会社の選定や、売却条件の検討を行うことになります。⑤では、把握された課題を解消しつつ、事業承継計画に沿って資産の移転や経営権の移譲を実行していきます。

 この10年間にわたり、中小企業の事業承継を取巻く法律、ガイドライン、中間報告等が矢継ぎ早に制定・公表されており、事業承継に携わる税理士は専門家として、これらの法律、ガイドライン、中間報告等を理解・活用して、取引先の事業承継のサポートをすることが期待されます。

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