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インタビューInterview

ChatGPTの現状とこれから~税理士業務への影響を探る~

2025/06/16

セブンセンス税理士法人
ディレクター
大野 修平公認会計士・税理士

 ChatGPTをはじめとする生成AIは、驚異的なスピードで進化を遂げている。あらゆる業界において業務の効率化やサービスの向上をもたらすと期待されているが、税理士業務にはどのような影響があるのだろうか。「ChatGPTの現状とこれから」をテーマに、大野修平公認会計士・税理士に話を聞いた。

――大野先生はChatGPTを早くから利用されていますが、初めてChatGPTに触れた時、どんな印象を持たれましたか。
 
 大きな衝撃を受けましたね。AIの普及で仕事が奪われると言われていましたが、ChatGPTが登場した時、本当にその可能性があると危機感を覚えました。当初は、事実と異なる情報を生成するハルシネーションが発生しやすく、メディアでも「ChatGPTは平気で嘘をつく」などと面白おかしく取り上げられていましたが、それからChatGPTは凄まじいスピードで進化し、現在では回答精度が驚くほど格段に向上しています。
 
――ChatGPTを利用すると何ができるのでしょうか。
 
 体を使うこと以外であれば、ほぼ何でもできると思います。例えば、バスケットボールをプレーすることはChatGPTにできませんが、バスケットボールのトレーニング方法を知りたい場合は、ChatGPTに質問すれば様々なトレーニング方法を教えてくれます。その際、自分が強化したいところを詳細に伝えると、その人にとって最適なトレーニング方法を導き出してくれます。
 
――質問の出し方にも工夫が必要というわけですね。
 
 ChatGPTへの指示や質問は『プロンプト』と呼ばれますが、プロンプトが漠然としていると、曖昧な回答になったり、想定とは違った情報が出てくることがあります。できるだけ具体的で詳細な指示をプロンプトに含めると、より的確な回答を引き出すことができます。とはいえ、あまり慣れていないと、「どんな質問をすればいいの?」と悩むこともあると思いますが、2 0 2 3 年1 1月にChatGTPが大幅にアップデートされ、初心者でも簡単に特定の目的のためにChatGPTを働かせられる「G P Ts」(ジーピーティーズ)という新機能が追加されました。
 
――「GPTs」とはどのようなものですか。
 
 ChatGPTをカスタマイズして、特定の課題解決に特化したオリジナルのChatGPTを作成できる機能です。プログラミングの知識などは必要なく、有料プランで契約してる人は誰でも簡単に作ることができます。私もすぐにビジネスモデルの構築をサポートする「びじねすもでるんβ」というGTPsを作成しました。説明書も何もありませんでしたが、1時間ほどで簡単に作ることができました。
 
――他人が作ったGPTsを利用することもできるのでしょうか。
 
 はい。2024年1月にGPT Storeが公開されています。これは、GPTsを閲覧・使用できるほか、オリジナルのGPTsを作成・共有することができるプラットフォームです。すでに多くのユーザーがG P T sの作成に参加しており、日々、新しいGPTsが生まれています。ボタンや選択肢が用意されているGPTsもありますので、文章を考えずにクリックするだけで回答を得ることもできます。
 
――全世界でGPTsが作られているわけですね。
 
 そうですね。私たちセブンセンスグループでも、オリジナルのGPTsを作ってみようという企画を立ち上げ、2024年11月に『第1回ChatGPTプロンプトコンテスト』を開催しました。グループ内でChatGPTを活用している社員たちが考案したユニークなプロンプトを発表してもらい、創造性、効果性、拡張性、実現可能性、プレゼンテーション力の5つの基準で審査を行い、最優秀賞を獲得した社員には、セブンセンスにちなんで7万円の賞金を贈呈しました。
 
――今後、税務申告をサポートするGPTsも出てくるのでしょうか。
 
 すでに税務関連に特化したGPTsは存在しています。現在は情報提供が中心ですが、これからAI技術がさらに進化し、それらが組み合わされば、申告書の作成までサポートするものが出てくるかもしれません。税金の計算方法や申告書の書き方などを非税理士に教えてもらえば税理士法違反になりますが、生成AIは単なるツールですから、的確なアドバイスを無料で得られるとなれば、多くの人が利用するかもしれませんね。特に、ChatGPTなどの生成AIは、膨大な税法のデータや最新の税制改正などを学習できますので、将来的には知識面では税理士よりも圧倒的な優位性があるといえます。
 
――将来的に、生成AIは税理士事務所の仕事を奪うと思われますか。
 
 電卓が普及するまでは、そろばんが得意だった人が重宝されましたが、電卓を使いこなす人が増えてくると、そろばんを使いこなせる人の需要は減っていきました。その後、エクセルを使いこなせる人が出てくると、今度は電卓を素早く操作できる人の需要がなくなりました。このように、新しいテクノロジーが仕事を奪うのではなく、テクノロジーを使いこなせる人が仕事を奪っていく、その繰り返しだと思います。
 
――次は、生成AIを上手く使えるかどうかがカギになるわけですね。
 
 そうとも言えますが、これまでと違うのは、電卓やエクセルが出てきた時は、それを操作するという新しい業務が生まれ、それを人間が担ってきました。しかし、生成AIはゼロからコンテンツを生み出すことができます。特に、ディープリサーチなどの自律型のAIは、自ら学習しながらゴール達成に向けて実行していきますので、今度は人間が不要となる場面も出てくることが考えられます。
 
――いつ頃、そうした時代がくると思いますか。
 
 個人的には2年くらいで大きな変化が起きると思っていますが、5年後という人もいれば、10年後、20年後と考える人もいるでしょう。ただ、生成AIに限らず、テクノロジーによる仕事の自動化はすでに始まっています。最近の飲食店では、テーブルのタッチパネルで注文し、店員の代わりに配膳ロボットが料理を運んできます。食事後の支払いはテーブルで電子決済すれば、レジでやり取りする必要もありません。飲食店のように多くのスタッフが必要だったところでも、従来の半分くらいの人員で回せるようになっているわけですから、主に頭だけを使うホワイトカラーの仕事はもっと削減できるはずです。冒頭に述べましたが、ChatGPTなどの生成AIの進化のスピードは凄まじいので、今から危機感を持って真剣に考えていく必要があると思います。
 
――税理士事務所では、どう対応していけばよろしいでしょうか。
 
 ChatGPTなどの生成AIが、今後どのように発展して、社会にどう関わってくるのか、誰にもハッキリとは見えていません。ただ、これまでの仕事のやり方が大きく変わってくるのは間違いないでしょう。職員や関与先のために、何より自分のためにも、社会の流れに取り残されないように最新の技術に触ってみることが大切だと思います。数百万円のシステムを導入するとなれば抵抗がありますが、有料版のChatGPTでも月額3,000円くらいですから、勉強代だと思って利用してみることをお勧めします。きっと、現時点でのテクノロジーの進化を肌で感じるはずです。

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