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自社株の相続税評価額 「配当還元方式」をめぐる争いの行方

2016/10/20

 会社の「事業承継対策」と言えば、会社の自社株の相続税評価額をいかに引下げるかが主要な問題のひとつだ。こうしたなか、従業員に自社株の受け皿会社や従業員持ち株会を設立させるなどして自社株を分散させ、自社株の相続税評価額を「配当還元方式」で廉価な評価額になるよう対策を講じたところ税務署から否認されたケースがある。現在、この事案は裁判所で争われており、判決が出れば改めて注目されるものとみられる。今回は、この事案の国税不服審判所の裁決事例をチェックする。

1.問題の背景

 平成19年、A社株式を発行する非上場会社の代表取締役が亡くなった。それにともない、その配偶者(以下、B氏という)や子、孫がA社株式を取得。争いとなったのは、その株式の相続税評価額だ。
 B氏は、取引相場のないA社株式について「配当還元方式」で評価し申告したところ、税務署から「類似業種比準方式」で評価すべきとして申告漏れを指摘。更正処分等を受けたことから、審査請求・裁判に及んでいる。
 税務署が取り上げている「類似業種比準方式」とは、取引相場のない株式の相続税評価の方法のうち、評価する非上場会社と類似する業種の上場会社の株価を参考に、1株当たりの配当、利益、純資産額を比較して評価額を算出する方式のこと(財産評価基本通達180ほか)。

 一方、B氏が採用した「配当還元方式」とは、取引相場のない株式の相続税評価の方法のうち、財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)に規定された評価方法。その株式を発行している会社の経営に影響力がない程度の議決権しかない株式を取得した株主が、会社を支配する同族株主グループに入っていない等の場合には、その株式について配当しか期待できないことから、「配当還元方式」は1年間に受け取る配当を10%の利率で割り戻して計算する方法だ。「類似業種比準方式」の評価方法よりも評価額が低くなる傾向が強く、そのため事業承継を視野に入れた相続税対策では、その適用が検討されることになる。

 だが、ことはそう簡単ではない。事業承継では、次の身内の経営者の経営権を確保したり、会社の意思決定への影響力を強固なものにする、つまり株式保有を集中させる方向に振るのがセオリーだ。ところが、「配当還元方式」を適用する場合のポイントは、相続により株式を取得した株主が「同族株主グループに入っていないかどうか」、取得した株式が「会社の経営に影響力がない程度の議決権しかない程度かどうか」という点になる。すなわち、「配当還元方式」の活用を前提にする場合には、会社の影響力や支配の確保といった事業承継で求められることと矛盾する要素があるため、そこが問題になるわけだ。
 A社の場合を見てみると、相続開始前後において筆頭株主グループの保有する株式の議決権の議決権全体に対する割合が30%未満で、B氏とその同族関係者の持つ議決権割合が15%未満と認められれば、B氏の取得した株式の相続税評価の方法は「配当還元方式」となる(財産評価基本通達188⑶)。
【財産評価基本通達188(3)】同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

2.A社の対策と争点

 
A社グループには、安定株主対策として、A社株従業員株持ち株会のほか、従業員が出資者となっていたC社があった。C社は、平成16年に金銭の貸付業や株式投資業務を目的とする会社として設立された。従業員がA社を退職した際、A社株従業員持ち株会を脱退するにあたり、C社の出資もC社(実質的に被相続人やA社役員)がA社従業員の中から指名する取り決めをしていた。A社の代表取締役である被相続人は、平成19年になって、C社に対してA社株を72万5千株譲渡している。こうしたことなどにより、C社保有のA社株は、B氏ら一族のコントロールを離れたと見立て、C社はB氏との同族関係になく、「配当還元方式」の適用基準をクリアすると考えた。


 しかし税務署は、C社は「法人税法施行令第4条第6項に規定する本件被相続人又は請求人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者に該当するから」同族関係者に該当するとして、A社株の相続税評価にあたり、B氏と同族関係者の保有する議決権割合は15%を超えるため、「配当還元方式」の適用はないとして否認した。争点の核心は、C社が同族関係者であるかどうかだ。

 同族関係者とは、財産評価基本通達188のカッコ書きで「法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。」とされている。法人税法施行規則第4条の6項は次の通りだ。
【法人税法施行令第4条第6項】個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、第三項及び前項の規定を適用する。

 C社が被相続人または請求人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者かどうかは、事実認定によることになる。認定にあたっては、法人税基本通達1-3-7(同一の内容の議決権を行使することに同意している者の意義)が参考になる。

 1-3-7 令第4条第6項《同族関係者の範囲》に規定する「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」に当たるかどうかは、契約、合意等により、個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している事実があるかどうかにより判定することに留意する。(平19年課法2-3「四」により追加)(注)単に過去の株主総会等において同一内容の議決権行使を行ってきた事実があることや、当該個人又は法人と出資、人事・雇用関係、資金、技術、取引等において緊密な関係があることのみをもっては、当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者とはならない。

 審判所は、こうしたことを踏まえ、大まかに次のような事実関係を認定している。
1)C社は、A社の株式を一時的な受け皿として引き受けるために設立されたものであること、総資産の大部分が本件株式であること
2)平成19年以降、被相続人は、同人及びその一族の将来の相続税対策のため、同人らのA社における議決権割合を15%未満にすることを目的として、同人が出資者を決定することができるC社に自らの所有するA社の株式を譲渡することとし、C社の法人格を利用したことが認められること
3)C社の出資者は、いずれもA社の役員又は従業員であり、A社を退社した後は、C社の出資者たる地位を失うことになっていたこと
4)C社の出資者及び出資の譲受人は、いずれも被相続人がこれを決定することができたことが認められることからすれば、C社の出資者が、A社の代表取締役であった被相続人の意に添った対応をすることが容易に認めることができること
5)C社は、被相続人の死亡後開催されたA社の取締役を選任する重要なA社の株主総会において、C社が所有しているA社の株式に係る議決権行使を、C社の出資者でも役員でもない請求人に委任していること

 こうしたことから審判所は、C社について「創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者」と判断。結局、B氏と同族関係者の保有する議決権の割合は15%を超え、B氏が取得した株式について「配当還元方式」での評価は認められないとしている(平成23年9月28日裁決)。

 裁判では、「創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者」をめぐる事実関係の認定について審理が行われている模様だ。同族関係者の認定をめぐる司法判断は、同族関係者(同一の内容の議決権を行使することに同意していた者)の規定が置かれた平成1 8年の法人税法施行令改正以降、おそらく初めてのケースになるだけに、多くの注目を集めそうだ。

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