列車の騒音による土地の利用価値をめぐりバトル
2021/11/11
平成27年2月、請求人は相続により土地を取得し、法定申告期限内に相続税の申告書を提出した。平成30年12月、請求人は相続した土地が広大地に該当すること、また、騒音測定をしたところ、D鉄道H線の列車走行により約80デシベル以上の騒音が生じていることから、国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」に記載された利用価値が著しく低下している宅地に該当することなどを理由に相続税の更正の請求をした。
しかし、原処分庁は、広大地については認める一方、騒音により利用価値が著しく低下している宅地とは認めなかったことから争いが起きた。争点は、本件土地は、利用価値が著しく低下している宅地として減額して評価すべきか否か。
請求人は、「平成30年9月21日午前10時から約1時間、本件土地で騒音測定をしたところ、D鉄道H線に最も近い地点で最大85デシベル、最も離れた地点で最大79.5デシベルの騒音が計測されており、これはG県の一般地域(道路に面する地域以外の地域)のうち第二種住居地域における騒音に係る環境基準の昼間(6時から22時)の基準値である55デシベルをいずれも上回るもので、D鉄道H線の列車の走行数からすると、騒音の発生頻度も高い」と主張。
また、「A市では、宅地の固定資産税評価額の決定に当たり、鉄道騒音に対する減価補正(鉄道騒音補正)が定められており、本件土地の平成27年度の固定資産税評価額は、鉄道騒音補正として鉄軌道中心線からの最短距離が10m以内である場合の0.90の補正率を適用して計算されている。A市は、本件土地が鉄道騒音により利用価値が低下していると判断したものであり、相続税の評価額においても固定資産税評価額と同様、鉄道騒音による価値下落の影響をしんしゃくすべきである」とした。
一方の原処分庁は、「本件測定は、測定時間が1時間程度で、測定方法も明らかでなく、その測定結果を基に著しい鉄道騒音があるか否かを判断することはできない」、「固定資産税評価額の決定における鉄道騒音補正は、鉄軌道中心線から一定の範囲内に所在することを要件として、その距離に応じて画一的に適用されるものであり、本件土地に鉄道騒音補正が適用されていることをもって、本件土地の取引金額が鉄道騒音による影響を受けていることにはならない」などとした。
審判所の現地調査でも相当程度の騒音を認める
これに対して審判所は、本件土地について「①評価上適用すべき路線価には騒音要因がしんしゃくされていないこと、②列車通過時に相当程度の騒音が日常的に発生していたと認められること、③A市は本件土地の固定資産税評価額の算定上、鉄道騒音補正を適用したこと」が認められると指摘。
そして、「本件土地は騒音により取引金額に影響を受けることが認められることから、騒音により利用価値が著しく低下している土地に該当するため、本件土地全体を利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、当該価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額により評価するのが相当である」と判断した。
なお、原処分庁の「請求人の測定時間が1時間程度で、測定方法も明らかでない」との主張に対して審判所は、「本件測定の結果のみに基づいて騒音が発生していたと判断するものではない」として、「審判所の現地調査でも、列車通過時は普通の会話が聞こえづらい程度の騒音が認められ、それが何デシベルであるか客観的に確定する証拠は存在しないが、相当程度の騒音があることは、経験則上、容易に肯認できる」として請求人を支持した。(令和2年6月2日裁決)