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納税者の答述の証拠化

2024/02/13

はじめに
 納税者の答述を証拠化する書類には、供述調書(刑事捜査)、質問調書(犯則調査)及び質問応答記録書(税務調査)があります。しかし、税理士界隈で納税者の答述の証拠力に関して論じられることはあまりありません。その理由として考えられることは、証拠の議論は裁判を前提に行われることが一般的であり、税務調査の現場では証拠を法律的に検証する機会が少ないからと考えます。 
 本稿では、刑事事件、行政事件、民事事件における答述証拠に関する法律を比較紹介します。

1 供述調書
 供述調書は、刑事捜査において検察官により作成されます。脱税の被疑者、被告人の供述を証拠化する調書であり、その手続きは、刑事訴訟法等に基づき明確にされています。 
 供述調書は、被告人(脱税者)の署名又は押印があれば、原則として証拠能力(刑事訴訟において採用できる形式的な資格)が認められます。証拠の証明力(裁判官に心証を持たす力があるかどうかの実質的価値)は、裁判官の自由な判断に委ねられています。
 供述調書は、脱税者・脱税被疑者の署名又は押印がなければ証拠に採用されません。

刑事訴訟法
317 条 事実の認定は、証拠による。
318 条 証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。
322 条 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、・・・

2 質問調書
 質問調書は、犯則調査において査察官が脱税の犯則嫌疑者に質問した時に作成されます。犯則調査は国税通則法に基づいて行われる強制調査であり、犯則事実の存否とその内容を解明することを目的とする手続です。犯則事実が確認された場合には、告発が行われることから、犯則調査は行政手続であるにもかかわらず、実質的には刑事手続に準ずる手続とされています。
 したがって、犯則調査における脱税の犯則嫌疑者の答述の証拠化(質問調書)は、刑事捜査における脱税者、脱税被疑者の答述の証拠化(供述調書)に準じて行われます。

国税通則法
(調書の作成)
第152 条 当該職員は、この節の規定により質問をしたときは、その調書を作成し、質問を受けた者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤りがないかどうかを問い、質問を受けた者が増減変更の申立てをしたときは、その陳述を調書に記載し、質問を受けた者とともにこれに署名押印しなければならない。ただし、質問を受けた者が署名押印せず、又は署名押印することができないときは、その旨を付記すれば足りる。

3 質問応答記録書 
 質問応答記録書は、税務調査において調査官により作成され、納税者は署名押印を求められます。しかし、その法律の根拠は見当たりません。また、質問応答記録書の作成は質問でも検査でもないので、調査官の納税者に対する質問検査権の範囲外の調査手法となります。したがって、公文書である質問応答記録書の作成に、民間人である納税者に協力させることを強制できません。

国税通則法
(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
第74 条の2 国税庁、国税局若しくは税務署・・・又は税関の当該職員・・・は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、・・・質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件・・・を検査し、又は当該物件・・・の提示若しくは提出を求めることができる。

 質問応答記録書の証拠力が裁判で争われる場合、課税処分取消訴訟(行政訴訟)となり、国税通則法、行政事件訴訟法等の定めに従って判断されます。それらに定めのない事項は、民事訴訟の例によります。

行政事件訴訟法
(この法律に定めがない事項)
7 条 行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。

 民事訴訟法の定めでは、公文書である質問応答記録書は、私文書である申述書等に比べて証拠としての価値は高く、納税者の署名又は押印がなくても、真正に成立したものと推定されます(形式的証拠力)。裁判官は、その内容の証拠力の程度を自由心証主義で判断することができます(実質的証拠力)。

民事訴訟法
(文書の成立)
228 条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
(自由心証主義)
247 条裁判所は・・・自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

おわりに
 質問応答記録書の写しは、調査の場では納税者に交付されません。その作成過程に調査官の誘導や強制、納税者の誤解があっとしても、後日、納税者がその証拠力を争うことが難しい仕組みになっています。なぜなら、国会(納税者の立場にも配慮)ではなく国税庁(調査官の利便を重視)が創設した調書であり、納税者への配慮に乏しいからです。 
 質問応答記録書の透明化、適切な運用と納税者保護のために、その法制化が望まれます。

執筆: 鴻 秀明 税理士/監修:髙橋 毅 税理士

 

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