日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

実務に役立つ税務会計オンラインラボ

納税者の疑問に満額回答できなかった話(都道府県民税均等割りの二重課税について)

2021/09/27

 関与先である納税者から「これって何?」という質問とともに個人住民税の納付書を提示された。この納税者は前年に事業を開始した方で、東京都のS区に居住し、東京都N市で事業を行っている。そのため、事業地における住民税の均等割りの納付書を始めて見たので何だろうと疑問に思われたようだ。

 一応、その場ではS区に居住しているために通常の住民税はそちらでかかるが、N市で事業をしている以上、N市の住民サービスも受けることになるのでそのための課税である旨説明したが、ここでふと新たな疑問が生じた。市区町村民税は確かにこの理由で課税されるのはわかるが、居住地も事業地もどちらも東京都なのに別途都民税が課税されるのはなぜなんだろうか?ということである。

 この方が例えば事業地が埼玉県さいたま市であれば居住地である東京都と事業地である埼玉県の住民税が課税されるのはわかるが、この方の場合、居住地も事業地もどちらも東京都である。なぜ都民税がどちらにも課税されるのか答えを出すことができなかった。

 私自身は居住地=事業地であるため、これまで課税されることはなく、疑問が生じることはなかったが、もし私が居住地と別の市区町村に事務所を構えたら課税されていたことなのでもっとしっかり確認しておく必要がると感じた。そのため、この点について簡単にまとめてみることにする。

1.この課税の問題点

 この課税の問題点は次の2つに集約されると思う
  ①行政の都合で課税されたりされなかったりする。
  ②法的に課税を決めていても根拠が脆弱。(さらにいえば、現在の状況に合わない。)

 ではこの問題点について一つ一つみていこう。

2.問題点を具体的に検討する

 ①行政の都合で課税されたりされなかったりすることについて

 これは別に都道府県が意図的に課税したりしなかったりする、ということではない。行政区分の変更により、居住地や事業地に変更がなくても課税が新たに発生する、という事である。

 そもそも、道府県民税均等割りの二重課税についてネットで調べると、新潟が結構出てくる。なぜかというと、新潟市は平成17年に平成の大合併により12市町村(その後1町追加)の合併を行い、平成19年に政令指定都市に移行した。これにより、当初から市内に住み同じ市内で別の地で事業を行っていた人は、大合併時は問題なかったが(むしろ、居住地と事業地が別の市町村だったのに同一市町村になったがために道府県民税の均等割りの二重課税が解消した人が多くいたのではないだろうか。)政令指定都市になったことにより、場所によっては居住地と事業地が別の区になり、それまでなかった課税が発生したためである。

 このように、納税者側には全く変更がないのに行政区分が変更になったことにより課税は発生したりしなかったりするのである。これに疑問をもった方が新潟には多かったということだろう。

 平成の大合併により、これまである意味スルーしてきた問題点があぶり出されたともいえるが、行政の都合で課税がされたりされなかったりするのはいかがなものだろうか。

 ②法的に課税を決めていても根拠が脆弱かつ現在の状況に合わないことについて

 この課税については、地方税法第二十四条第一項第二号及び同条第七項によるが、ここで第一項第二項を見てみると“市町村内に住所を有しない者”とあり、道府県は問うていない。

 また、この問題については平成3年広島地方裁判所判例により、二重課税ではない、とされたこともあり、いまだにこの判決が引用されている。この判決では「ある市町村に事務所等を有する個人が当該市町村内に住所を有しない場合、当該市町村が、同人の住所が右市町村の存在する道府県内に所在しているか否か及び同一道府県内の他の市町村にその者の事務所等が所在しているか否かをどのような方法で確認するか、また、ある個人が同一道府県内の複数の市町村に事務所を有している場合、同人に係る均等割の賦課徴収をどの事務所所在市町村が行うかが不明確になるという問題が生じることになる。そこで、右のような複雑な問題を回避して賦課徴収事務の簡素化を図るとともに、道府県民税均等割の徴収を確実に行うことを目的として同一道府県内の異なる市町村内に住所と事務所を有する個人には、それぞれの市町村ごとに道府県民税均等割を課すように定められなものということができるから、右目的は正当性を有するというべきである。」とあるが、現在、マイナンバー制度が整ってきている以上、事業所はあるが住所が存在しない個人の住所を特定することは容易であり、賦課徴収の際にその点が確認できる以上、この判決時の理屈はもはや通らないのではないか。この判決が出た当時の状況と現在の状況は変わっている。行政サービスが便利になってくるのは歓迎だが、それを利用すれば簡単に改善できることをそのまま放置、というのはいかがなものか。

3.まとめ

 現在はいろいろな行政行為が変化を起こしている。こうした中、課税の世界ももう少し変化に合わせた対応を考えていく必要があるのではないか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ⅰ 地方税法第二十四条第一項第二号「道府県内に事務所、事業所又は家屋敷を有する個人で当該事務所、事業所又は家屋敷を有する市町村内に住所を有しない者」
ⅱ 地方税法第二十四条第七項「第一項第二号に掲げる者については、市町村民税を均等割により課する市町村ごとに一の納税義務があるものとして道府県民税を課する。」
ⅲ 昭和63(行ウ)17「市民税県民税賦課決定処分取消請求事件」平成3年1月30日広島地方裁判所 ちなみに、この裁判の原告は税理士。


執筆:栗林秀幸 税理士/監修:横田崇 税理士

PAGE TOP