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中小企業において役務提供収益に収益認識会計基準を適用した場合の法人税と消費税の課税標準

2024/06/24

 コンサルタントや設計、技術指導などの役務提供に係る収益については、仕事の完成まで長期にわたるものであっても、法人税法64条の工事進行基準の対象にはなりません。しかし、「収益認識に関する会計基準」(平成30年3月30日付企業会計基準第29号)(以下「収益認識会計基準」という)の要件を充足すれば、平成30年度法人税の税制改正により、会計上のみならず法人税法上もいわゆる工事進行基準(発生ベース)で所得を計算することができます。

 ところが、消費税の課税標準の額の算定については、収益認識会計基準の影響はありません。課税標準の計算において、法人税と消費税との間に齟齬が生じます。

1 コンサルタント業務等役務提供についての収益認識会計基準の取扱い
 収益認識会計基準は他の会計基準に優先して適用され、その開始時期は令和3年4月1日以降開始する事業年度ですが、中小企業においては任意とされています。

 収益認識会計基準では5つのステップで収益を認識します。収益の期間帰属の判定は最後のステップ5で行います。それによりますとコンサルタント業務等の役務提供について、いわゆる工事進行基準(発生ベース)の適用可能性は下記同基準38項(3)で判定します。

(一定の期間にわたり充足される履行義務) 38.


次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間 にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(適用指針[設例 7])。
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の 価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること(適用指針[設例 4])
(3) 次の要件のいずれも満たすこと(適用指針[設例 8])

① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること


2 法人税法における収益認識会計基準の位置づけ
 収益の計上時期については、平成30年3月に企業会計基準委員会により収益認識会計基準が公表されました。これに伴い平成30年度法人税の税制改正により、法人税法22条の2が新設されました。収益の計上時期について、法人税法22条2項を適用するか、法人税法22条の2第1項を適用するか、いずれの規定にも「別段の定めがあるものを除き」とされているところから、解釈の難しいところではありますが、いずれも引渡基準とされていることから、基本的には齟齬はありません。

 収益認識会計基準を適用した場合には、通達があります。法人税基本通達2-1-21の2(履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係る収益の帰属の時期)では、「その履行に着手した日から引渡し等の日(・・・)までの期間において履行義務が充足されていくそれぞれの日が法第22条の2第1項<収益の額>に規定する役務の提供の日に該当し、その収益の額は、その履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度の益金の額に算入される」。つまりいわゆる工事進行基準(発生ベース)が適用されると説明しています。

3 消費税における取扱い
 国内において役務提供をした場合は、その契約した役務を全部提供したときに消費税の納税義務が発生します(消費税法4条 消費税基本通達9-1-5)。一方、法人税法64条に規定する長期大規模工事について工事進行基準を適用した場合は、その工事の引渡し時ではなく、工事進行基準による収益の計上時期に消費税の課税時期とすることができます(消費税法17条)。役務提供による収益は、法人税法64条の対象にはなりません。従って、役務収益について、収益認識会計基準を適用していわゆる工事進行基準(発生ベース)した場合は、法人税については収益を計上した時期、消費税については役務を全部提供したときに納税義務が発生し、両者の課税標準の額の計算上齟齬が生じることとなります。

執筆:滝口 利子 税理士/監修:追中 徳久 税理士

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