日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

実務に役立つ税務会計オンラインラボ

低解約返戻金型保険商品の評価見直しについて

2021/06/25

 令和3年4月28日、国税庁から「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(保険契約等に関する権利の評価)に対する意見公募(令和3年5月27日まで)が公表されました。

 これは、令和元年7月8日以降に締結した法人税基本通達9-3-5の2(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)に基づく契約につき、本年7月1日以後に契約者変更した場合の所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)の取扱いを遡及して変更するものです。

 最近の一部の保険会社に見られた、行き過ぎた節税話法による保険募集に歯止めをかけるものとなります。

1.問題の所在

 保険契約者は、約款により、契約上の権利のすべてを第三者に継承させることができ、移転価格は時価(所得税基本通達36-37により、未経過保険料や積立配当金を含んだ解約返戻金の額)とされます。今回の見直しは、所得税基本通達36-37へのただし書の追加の形をとります。

 問題になったのは、契約当初から一定期間の解約返戻金の額が低く設定されている法人契約の「低解約返戻金型逓増定期保険」です。法人で契約後数年間、低解約返戻期間のうちに保険料を支払い、その後、保険契約者の地位を法人から個人に変更します。この時点では、法人が支払った保険料と比較して低い金額での変更になります。その後個人として保険料を支払い、低解約返戻期間終了後に契約を解約します。この時点で個人が受け取る解約返戻金の額は大きく跳ね上がっています。

 過去、この保険につき、国税庁と外資系保険会社顧客との間で争いがありました(平成27年4月21日国税不服審判所裁決(東裁(所)平26第96号、裁決事例集99号参照)。

 ただ、この時は解約した個人が必要経費にできるのは一時金を受け取った個人が自ら負担して支出したといえる金額、すなわち「法人から個人に契約者変更した時の解約返戻金の額+個人で支払った保険料の合計額」であり、「法人が支払った保険料+個人が支払った保険料の合計額」ではないことが争点とでした。移転価格を時価にする点については、他に評価方法がなかったためか、所得税基本通達36-37による解約返戻金の額である点はそのまま準用されました。

2.具体的には?
 
 問題とされた保険の保険料は、通達により、最高解約返戻率により保険料の一定割合を資産計上します。例えば、最高解約返戻率70%超85%以下の場合、保険期間の当初40%相当期間は保険料の60%相当額を資産計上しますが、解約返戻金の額とは乖離が発生します。

  (例)年間保険料1000万円、最高解約返戻率70%超85%以下

         解約返戻金額       資産計上額
  1年目     0万円(0%)     600万円 
  2年目    20万円(1%)    1200万円
  3年目    60万円(2%)    1800万円
  4年目   120万円(3%)    2400万円⇒契約者変更
  5年目  4250万円(85%)      0万円

 法人から個人に、4年目の保険料支払後、解約返戻金の額120万円で契約者変更します。この場合、個人は時価での変更なので課税はされません。

 法人は資産計上額2400万円-変更価額120万円=2280万円が雑損失となり、過去4年間で1600万円を損金算入してきたので合計3880万円、支払った保険料4000万円の97%を損金に算入することになります。

 その後、5年目に個人で保険料1000万円を支払った後に解約すると、個人の一時所得の額は、4250万円-(120万円+1000万円)-特別控除50万円=3080万円となり、その2分の1の1540万円が他の所得と合わせて課税対象となります。

 個人は1120万円の支出で4250万円の解約返戻金を取得し、かつ、一時所得なので課税面でも優遇されていました。

 このように、法人は支払った保険料の大部分を損金にし、個人は2分の1課税の形で有利に法人から利益移転を受けていました。

3.改正案では?

 今後、解約返戻金の額が法人の資産計上額の70%未満の場合、資産計上額で移転されることになります。上記の例でみると、資産計上額2400万円×70%=1680万円>解約返戻金の額120万円なので、個人への移転価格は2400万円となります。その結果、

・法人の損金算入額:3880万円⇒1600万円
・個人の支出金額 :1120万円⇒3400万円

と、節税効果は大きく低減します。

4.最後に

 今回の保険契約の権利の評価額の見直し自体は必要と思われます。しかし、解約返戻金の額が法人の資産計上額の70%未満、とする70%の数値基準が妥当なのかは不明です。

 また、同時に公表された注書の中で、解約返戻率の低い定期保険等(法人税基本通達9-3-5)及び養老保険(法人税基本通達9-3-4)の見直しの可能性も示唆されています。引き続き、注目したいと思います。                                        

執筆:追中徳久 税理士/監修:坂部達夫 税理士

PAGE TOP