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あらためて考える「壁」、そのいろいろ(所得税編)

2023/09/26

 アルバイトやパートで働いていると、よく耳にする「103万円の壁」。
 年収と税金、103万円の壁とは?超えるとどうなる?

1 年収(給与収入)が103万円以下であれば所得税が非課税
 パートやアルバイトなどの収入も所得税の課税対象ですが、年収103万円を超えない場合には、所得税を納付する必要はありません。
 なお、住民税については、年収103万円以下でも課税される場合があります。

2 年収(給与収入)103万円の壁を超えると税金が増える
 103万円の壁とは、アルバイトやパートなど給与収入で働く人が、年収103万円を超えると税金が増える年収のボーダーラインのことです。年収が103万円を超えると扶養から外れてしまい、自分が納付する税金や配偶者や親が納付する税金に影響が及びます。これが「103万円の壁」です。
 現在、配偶者や親に扶養されており、かつ、自分や家族が納付する税金を増やさないで働きたい場合には、年収が103万円を超えないようにすることがポイントです。

(1) 自分の収入に所得税がかかる
 年収が103万円を超えると、自分が納付する所得税・住民税が発生・増加します。例えば、年収120万円の場合、超えた17万円に対して所得税率5%を掛けた8,500円が所得税(プラス復興特別所得税2.1%)となります。
 住民税は、所得金額に応じて増える所得割と、所得金額に関わらず定額を負担する均等割(通常5,000円)があります。一般的に年収が93万円~100万円を超えると、住民税が発生するので、所得税がかからない場合でも住民税の納付が必要な場合があります。
(2) 配偶者が納付する税金に影響がある(所得1000万円超の配偶者を除く)
 税制上、配偶者の扶養に入っている場合、配偶者には「配偶者控除」が適用されます。
 但し、パート主婦(主夫)の配偶者の配偶者控除は、2018年の税制改正により、103万円の壁ではなく、「配偶者特別控除」の満額が適用される年収150万円が税制上のボーダーライン(扶養者の所得制限あり)になりますので、年収が103万円超でも配偶者の税金に影響はありません。
(3) 親が納付する税金に影響がある
 親の扶養に入っている子どもの収入が103万円以下ならば親の所得から扶養控除額が適用されますが、103万円を超えると、子ども自身に所得税や住民税が発生するだけでなく、親が納付する税金も増えます。
 扶養控除額について、特に19歳~22歳(特定扶養親族)は他の年齢よりも控除額が大きく、所得税63万円、住民税45万円が控除されます。例えば、扶養者の所得税率が10%なら、単純計算で63,000円、住民税は税率一律10%なので45,000円の合計108,000円の税負担が増えます。
 学生は、勤労学生控除を利用すると所得税は年収130万円以下、住民税は年収124万円以下までは学生自身に課税されませんが、親などの扶養に入っている場合は、年収103万円を超えると親の扶養からは外れるので、留意する必要があります。

3 年収103万円がボーダーラインになっている理由
 「103万円」は基礎控除額と所得控除額を足した金額です。
 年収が103万円以下の場合に所得税がかからないのは、所得税の算出において基礎控除(48万円)と給与所得控除(最低55万円)があるからです。

(1) 基礎控除
 納税者の合計所得金額が2,400万円以下の場合は、基礎控除額は48万円です。
(2) 給与所得控除
 給与所得控除の金額は、給与の金額に応じて異なり、年間の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)が162万5,000円までの場合、控除額は55万円です。
(3) 「年収103万円」に通勤手当は含まれるのか?
 勤務先から支給される通勤手当や交通費のうち、非課税分(通常の給与に加算して支給する1カ月あたりの合理的な運賃等)は103万円に含まれません。通勤手当や通勤用定期乗車券の額が非課税となる最高限度額は、1カ月あたり15万円です。1カ月の交通費などのうち、15万円を超えた分は課税されます。
 勤務先が複数ある場合や退職した場合には、すべての勤務先から得た収入を合算して、所得を計算します。

4 「103万円の壁」まとめ
(1) 年収が103万円以下の場合:課税所得なし(所得税は0円)
 年収が103万円以下の場合は基礎控除と給与控除を差し引けば、課税所得は残らないため、所得税の納付は不要です。
(2) 年収が103万円を超える場合:超えた分に対して課税される
 年収120万円の場合、「120万円-103万円=17万円」に対して課税されます。
 所得税の税率は、課税所得金額が1,000円から194万9,000円までは5%であるため、上記の例における所得税は17万円 × 5% = 8,500円です。
 所得税に加えて、復興特別所得税(2037年まで、基準所得税額の2.1%)や住民税などの納付も必要です。

5 その他の税金・社会保険に関する年収の壁
 103万円の壁以外にも、税金・社会保険に関わる年収の「壁」はいくつか存在します。
 106万円・130万円・150万円・201万円の壁について説明します。

(1) 106万円の壁(主婦、フリーターの社会保険の壁)
 106万円の壁は、社会保険の壁です。1社で年収106万円を超えると、学生ではない社会人であるパートやアルバイトをしている人には社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が求められます。
 対象となる勤務先の従業員数は、101人以上が対象(2024年10月~51人以上)。給与から社会保険料が引かれるため手取り額は減少しますが、将来受給可能な年金の金額が増えるメリットがあります。
(2) 130万円の壁(扶養から外れる社会保険の壁)
 学生も主婦(夫)、フリーターも関係します。1社ではなく合計年収で判断されます。
① 配偶者の扶養に入っている人は、年収130万円を超えると扶養から外れて、勤務先の社会保険か国民健康保険や国民年金への加入が必要です。
② 親の扶養に入っている子で20歳を超える子は、年収130万円を超えると国民健康保険の支出が増えることになります(20歳を超えると収入に関係なく国民年金を払い始めます)。
 (3) 150万円の壁と201万円の壁(配偶者特別控除の壁)
 「配偶者特別控除」(配偶者の年収制限あり)は、パート主婦の年収が150万円までなら満額、それ以降徐々に減額し、年収201万円で控除はなくなります。
 ① 150万円の壁
 年収が103万円を超える配偶者を持つ扶養者(夫または、妻)は、配偶者控除の適用を受けることができません。代わりに、「配偶者特別控除」の適用を受けることができる場合があります。これは、配偶者の年収が150万円以下ならば、納税者(扶養者)は最大38万円まで控除を受けられる制度です。
 但し、配偶者の年収が150万円を少しでも超えると、配偶者特別控除を満額の38万円は受けられなくなります(減額された金額は可)。
② 201万円の壁
 201万円の壁は、「配偶者特別控除」適用のボーダーラインです。
 配偶者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の適用金額が減っていき、そして配偶者の年収が201万円を超えると、配偶者特別控除は完全に適用されなくなります。
 一定の金額以上の収入を得たい場合は、手取り金額とのバランスを確認しながらうまく付き合うことが大切です。

執筆:石井克美 税理士/監修:横田崇 税理士

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