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所有者不明土地制度と課税関係

2022/09/26

Ⅰ 背景
 近年、日本は人口減少・少子高齢化の進展、更には都市への人口移動による地縁・血縁関係や土地の所有意識が希薄化し、その帰結として所有者不明土地が増加しているといわれている。
 この所有者不明土地は、都市開発やインフラ整備等を行おうとする際、事業の進捗に支障をきたすことも多く、公共的な事業のために利用する場合の障害となっていた。このような状況を踏まえ、所有者を特定することが困難な土地について、その利用に関する新たな仕組みの構築など法整備を行うこととなり、令和元年6月1日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下、「所有者不明土地法」という)が全面施行された。

Ⅱ 制度の概要
 この制度は、概略次のようになっている。

1.所有者不明土地を円滑に利用する仕組み

1)公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得)
 所有者不明土地を収用等しようとする場合、収用委員会の裁決に代わり都道府県知事の裁定により審理手続きを経ずに土地を取得することを可能とした。

2)地域福利増進事業の創設(利用権の設定) 
 地域福利増進事業を実施する場合、都道府県知事の裁定により、最長10年間(延長も可)の使用権を設定¹することを可能にして事業を推進しやすいようにした。

 ここで、地域福利増進事業とは、所有者不明土地を公園の整備といった地域のための事業に利用することを可能とする制度で、地方公共団体だけでなく、民間企業、NPO、自治会等が事業主体となることができる。主な施設対象としては、以下が挙げられている²。

〇 公園、緑地、広場、運動場
〇 道路、駐車場
〇 学校、公民館、図書館
〇 社会福祉施設、病院、診療所
〇 被災者住民のための住宅
〇 購買施設、教養文化施設(周辺に不足している場合)

2.所有者の探索を合理化する仕組み

 ある土地の所有者を探索する場合、まずは登記簿謄本を取り寄せて登記簿上の所有者を特定し、そこから真の所有者を特定する作業に入るが、そこには個人情報や行政の壁などがあり、最終的には特定できないこともしばしばあった。そこで、探索の範囲及び情報提供をしやすくする仕組みを創設して探索を合理化する仕組みを整えた。

1)土地等権利者関連情報の利用及び提供
 土地の所有者の探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等)について、行政機関が利用できる制度を創設した。

2)長期相続登記等未了土地に係る不動産登記法の特例
 長期間(死亡後10年³)にわたり相続登記がされていない土地がある場合、登記官が公共の利益となる事業主体からの求めに応じて法定相続人情報を探索し、その結果を登記所へ備え付けると共に、事業主体者へ提供する特例を創設した。

3.所有者不明土地を適切に管理する仕組み

 民法の財産管理制度に係る特例として、所有者不明土地のために特に必要がある場合に、管理について利害関係人しか請求できなかったものを地方公共団体にも請求権を付与できる特例を創設した。

Ⅲ  所有者不明土地制度と課税関係
 さて、所有者不明土地に関して課税関係が生じるのは、1公共事業における収用手続の特例により所有権が移転したとき、2地域福利増進事業の創設により土地使用権が設定されたとき、に金銭補償を受ける場合である。これを、補償金を支払う事業者側と受け取る権利者側とに分けて考えねばならないが、今回は特に、金銭補償を受け取る側(特に個人)に焦点を当てて考察する。ただし、これは所有者不明土地を前提にしているため、いったい誰が受け取るのか、という疑問が生じる。所有者が不明の場合、当該補償金は供託⁴される。しかし、所有者不明土地であっても、持分が判明している所有者と持分の判明していない所有者(これらを「確知所有者⁵」という)及び不明所有者が混在している場合もある。このときは、持分が判明している所有者には個別に補償金を支払うことができるため、課税関係が生じることになる。

 以降、税法解釈はあくまでも私見です。実務にあたっては税務当局と相談してください。

1.公共事業における収用手続の特例の場合

 所有者不明土地が収用手続きの特例規定により所有権が移転する場合、所得税では譲渡所得となり「収用交換等の場合の譲渡所得の特例」が適用される。また、消費税の取り扱いは「土地の譲渡」として非課税となる。

2.地域福利増進事業における土地使用権の設定の場合

1)不動産所得と譲渡所得

 地域福利増進事業は所有者不明土地を公園の整備といった地域のための事業に利用するために土地使用権等を設定することであるが、この設定の対価として支払われる補償金は、所得税では不動産所得に該当すると思われる⁶。これは所得税法26条で、不動産所得とは『不動産等の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得をいう』とされその括弧書き内で、「地上権の設定、その他他人に不動産等を使用させることを含む」旨規定しているところ、この所有者不明土地の使用権の設定は、まさにこの規定そのものと思われるからである。

 ただし、所得税法33条1項括弧内において、他人に不動産等を使用させる行為の設定にあたって支払いを受ける権利金の額がその土地の価額の2分の1を超える場合は一律に譲渡所得としている通り、対価の額によっては譲渡所得となると思われる。

 この件について金子宏教授は「地上権の設定等にあたって教受される権利金は、通常は不動産所得に含まれるが、地上権が譲渡性を与えられている等、一定の要件を満たす場合には譲渡所得にあたる⁷」とされ、一定の要件とは、「その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなものは、(省略)譲渡所得に当たるものと類推解釈するのが相当である⁸」と判例を引用されている。

 一方で、所有者不明土地法に係る土地使用権等の基礎となる土地を譲渡した場合には、当然に譲渡所得となり、これは、長期譲渡所得の軽減税率の対象⁹とされている。

2)不動産所得の計算の時期

 地域福利増進事業を行う事業者は通常土地使用権等の対価を一括して支払うことが想定される¹⁰が、その場合、一括受領した額をその年の不動産所得として計上(注)することになる。しかし、一定の要件を満たせば臨時所得として平均課税の適用を受けることができる。

 では、土地使用権等の設定時に所有者不明状態でその対価が供託され、その後、所有者が確定し当該供託金が支払われた場合は、何時収益を認識するかが問題となるが、それは、供託金を請求した年分の所得と認識するものと思われる。

 以下はタックスアンサー№1376「不動産所得収入計上時期(令和4年4月1日現在法令)」の引用である。

(1)契約や慣習などにより支払日が定められている場合は、その定められた支払日
(2)支払日が定められていない場合は、実際に支払を受けた日
  
ただし、請求があったときに支払うべきものと定められているものは、その請求の日
(3)賃貸借契約の存否の係争等(未払賃貸料の請求に関する係争を除きます。)に係る判決、和解等により不動産の所有者等が受け取ることになった係争期間中の賃貸料相当額については、その判決、和解等のあった日

 (注)賃貸料の額に関する係争がある場合に、賃貸料の弁済のために供託された金額については、(1)または(2)に掲げる日

 地域福利増進事業申請時の裁定申請書に供託に関する記述があると思われるが、確定した所有者が不明のため、(2)の但書の通り、供託金の請求日の属する年の不動産所得になると思われる。

3)消費税
 
 「土地に係る権利の設定の対価」として非課税取引となる。

Ⅳ おわりに
 この所有者不明土地法ができたとき、私は「これで、あの曽祖父名義の土地を綺麗に整理できる」と考えた。今回、この法律を調べるうち、あくまでも公共的な事業を行う場合に機能するものと知り「そりゃそうだ」と納得もした。
 しかし、この所有者不明土地法の関連法改正のラインナップをみると、「関係ないや」じゃ済まされないものがたくさん用意されていることに気づく。詳細は次に譲るが、主なものとして①10年経過後の遺産分割の新たなルール(令和5年4月1日施行)②相続登記申請の義務化(令和6年4月1日施行)③住所等変更登記申請の義務化(令和8年4月までに施行)④相続人申告登記制度の創設(令和6年4月1日施行)がある。これらは、すべて所有者不明土地の解消・発生予防のための政策として用意されたものだ。
 我々実務家は、これらの改正が税にどの様に影響していくかを注視しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
¹ 土地使用権等は、賃借権や地上権等のように契約により生じる私法上の権利ではなく、法律に基づく行政処分により設定される公法上の権利とされる。
² 国土交通省 所有者不明土地ハンドブック~迷子の土地を出さないために~令和4年3月
³ 令和4年4月1日以前は30年だった。
⁴ 所有者不明土地法17条
⁵ 所有者不明土地法7条1項 所有者で知れているものをいう
⁶ 参考として「土地を10年間使用する旨の強制使用裁決を受け、土地収用法に基づき一括払いされた損失補償金は、不動産所得として受領した年分の総収入金額に算入すべきとした事例」福岡高裁那覇支部平成7年(行コ)第1号がある。(上告棄却・確定)
⁷ 金子宏 租税法23版 弘文堂 237頁
⁸ 最高裁昭和45年9月23日言渡 昭和41年(行ツ)第44号所得金額等審査請求棄却決定取消請求上告事件
⁹ 租税特別措置法31の2第二項8の2号
¹⁰ 所有者不明土地法17条により、裁定により定められた補償金全額を一括で供託する必要がある。

【参考文献】
国土交通省 所有者不明土地ハンドブック~迷子の土地を出さないために~令和4年3月
金子宏 租税法23版 弘文堂
編著 所有者不明土地法制研究会 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法 解説 大成出版社

筆:横田崇 税理士/監修:栗林秀幸 税理士

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