実務に役立つ税務会計オンラインラボ

遺産分割前の銀行預金の引き出し 

2026/10/26

 今回は、遺産分割前の銀行預金の払戻し制度を紹介します。

 まず、制度の概要は次の通りです。

 相続人は,被相続人の預貯金のうち、被相続人の預金口座ごとに以下の計算式で求められる額までについては、他の相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができます(民法909条の2)。遺産分割の取り扱いについては、払戻しをした相続人が遺産の一部分割をしたものとみなされます(民法909条の2)。

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)民法909条の2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。


1.単独で払い戻しできる金額

 単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金の額)×(3分の1)×(払戻しを求める相続人の法定相続分)になります。

 同一の金融機関(複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払戻しの限度額は150万円(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)です。

2.金融機関での手続

 金融機関には、被相続人の法定相続情報証明書(作成日から1年以内のもの)もしくは戸籍謄本等および払い戻しを希望する人の印鑑証明書などの書類を提出します。通常の相続による払い戻し手続きとほぼ同様であり、金融機関へ申し込んでから実際に振り込まれるまでには、書類の不備がなければ2~3週間で払い戻されるものと考えられます。

3.制度の利用における注意点

(1)相続人が一金融機関につき150万円まで相続税の納税資金として引き出すことができるようになるので、相続人間でもめており、遺産産分割協議がまとまらないのであれば、相続税の納税準備のために残高証明の取得と合わせて払戻しの手続きを早めに始める必要があります。

 この場合、被相続人の生前に被相続人の預貯金等を相続人ができる限り把握しておくほうが望ましいでしょう。実際の残高までは生前に確認できなくてもよいのですが、口座のある金融機関を知らないとスムーズに払戻しの手続きを行うことができません。

 払戻しがあった場合は、遺産の一部分割により取得したものとみなされるため、相続税の申告において、払戻した金額は払戻した時点の一部分割財産として申告することになります。

(2)相続開始後に、他の相続人がカードなどにより預貯金を引き出していた場合の払戻し金額の残高は、当然のことながら、実際の残高が上限になると考えられます。例えば次のようなケースです。

【例】相続人は子Aと子Bの二人。子Aが、相続開始時点600万円の預金から相続開始後にカードにより550万円を引き出し、残高が50万円になっている場合


 子Bの民法909条の2による払戻し限度額は、相続開始時点の残高600万円×1 /3×法定相続分1/2=100万円ですが、実際の残高は50万円なので、払戻しできる金額は50万円になります。

(3)遺言がある場合は、遺言の内容が優先し、払い戻しができない場合もあるので、注意が必要です。

【参考資料】一般社団法人全国銀行協会のリーフレット
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf

執筆:出岡 伸和 税理士/監修:松本 次夫 税理士

PAGE TOP