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小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)-相続開始前3年以内に新たに被相続人等の貸付事業の用に供された宅地等について-

2025/12/08

1.はじめに

 小規模宅地等の特例は、宅地等の評価額を大幅に減額することができる規定で相続税実務の中でも重要な規定です。

 今回は、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」のうち相続開始前3年以内に新たに被相続人等の貸付事業の用に供された宅地等の取り扱いをご紹介させていただきます。

2.貸付事業用宅地等の特例と3年縛り規制の概要

 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等のうち、「貸付事業用宅地等」に該当するものは小規模宅地等の特例の適用があり、200㎡を限度に最大で50%の評価減を受けることができます。

 当該特例の適用を受けるためには、当該宅地等が「貸付事業用宅地等」に該当していなければなりません。

 貸付事業用宅地等に該当するための要件はいくつかありますが、当該宅地等が相続開始前3年以内に新たに被相続人等の貸付事業の用に供された宅地等であった場合、当該宅地等は貸付事業用宅地等に該当しませんので小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。

 これは、いわゆる3年縛り規制であり平成30年の税制改正によって加えられた要件です。ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行っていた場合には、例外的に3年縛り規制の適用はなく、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、他の要件を満たす限りにおいて貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地の特例の適用を受けることができます。

3.「新たに貸付事業の用に供された」場合とは何か

 相続開始前3年以内に新たに被相続人等の貸付事業の用に供された宅地等は原則と貸付事業用宅地等に該当しませんが、「新たに貸付事業の用に供された」とはどのような場合を指すかが問題となります。

 「新たに貸付事業の用に供された」とは、貸付事業以外の用途であった宅地等が貸付事業の用に供された場合や、宅地等やその上にある建物等が「何らの利用がされていない場合」にその宅地等が新たに貸付事業の用に供された場合をいいます。よって、ただ賃貸借契約が更新された場合や賃借人の退去後速やかに賃借人の募集を行い賃貸を開始した場合などは、「新たに貸付事業の用に供された場合」に該当しません(措通69の4-24-3)。

4.「政令で定める貸付事業」とは何か

 被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて引き続き「政令で定める貸付事業」を行っていた場合には、3年縛り規制はありません。

 そのため「政令で定める貸付事業」が何かが問題になりますが、これは貸付事業のうち準事業以外のものが該当します(措令40条の2⑲)。

  貸付事業とは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業をいいますから、貸付事業から準事業を除いた「不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業」が「政令で定める貸付事業」に該当することとなります。これを「特定貸付事業」といいます。

 ちなみに準事業とは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものとされていますから、貸付事業から準事業が除かれる「特定貸付事業」とは、おのずと「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われていた不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業」となります。

 このことは、措置法基本通達69の4-24-4でも明らかにされており、具体的には所得税法基本通達26-9、27-2の取扱いを参考に社会通念上事業と称するに至る程度の規模かを判定することが示されています。

 ちなみに所得税法基本通達26-9は不動産所得の事業的規模を判定するためのいわゆる5棟10室基準であり、同通達27-2は、有料の駐車場及び自転車置き場の所得について自己の責任で他人の物を保管する場合とそうでない場合の所得区分を示す通達です。

5.特定貸付事業が「引き続き」行われていない場合

 事業的規模で行われる不動産貸付けは、「特定貸付事業」に該当します。相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等により、相続開始前3年以内に新たに当該貸付事業の用に供された宅地等は、例外的に「貸付事業用宅地等」から除外されず他の要件を満たす限りにおいて小規模宅地等の特例の適用を受けることができるのは今まで述べた通りです。

 この場合に問題となるのは、特定貸付事業が「引き続き」行われていなかった場合にどうなるのかということです。

 3年縛り規制の例外となる取扱いは、あくまでも「当該被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業をおこなっていた」ことが求められます。

 そのため相続開始前3年以内の期間中に、被相続人等が不動産を売却し事業的規模から外れ、準事業に該当してしまう期間、いわば特定貸付事業の空白期間が生じた場合には「相続開始の日まで3年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行っていた被相続等の当該貸付事業の用に供されたもの」に該当しませんから、3年縛り規制の例外的な取扱いはないこととなります。

 なお、前述のただ賃貸借契約が更新された場合や賃借人の退去後速やかに賃借人の募集を行い賃貸を開始した場合などは、「引き続き」特定貸付事業が行われていることとなります(措通69の4-24-5)。

執筆:坂部 啓太 税理士 監修:湊 義和 税理士

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