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相続・事業承継Vital Point of Tax

改正された暦年贈与と相続時精算課税制度および贈与を巡る諸論点の検討

2023/11/14

令和5年度税制改正により贈与税の暦年課税と相続時精算課税の見直しがされ、原則、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。今回は、この贈与税の見直しに関し、筆者がこれまでよく質問を受け、検討を行ってきた諸論点について、Q&A方式で解説をします。
アドバイザー/山崎 信義   税理士

Q1 今回の改正の目的について教えてください。

A 財務省の税制改正の解説等によれば、今回の改正は、①生前贈与でも相続でも最終的な税負担を一定にする税制を構築することと、②生前贈与による若年層への資産移転の促進を目的としています。①については、財産を分割して贈与を繰り返す方法により暦年課税の贈与税の計算上、相続税よりも低い税率を適用することを抑制するために、贈与を受けた財産を相続財産に加算(生前贈与加算)する期間が相続開始前3年間から7年間に延長されました。また、生前贈与と相続で税負担が一定となる相続時精算課税においては、その利用件数の向上のため暦年課税とは別に基礎控除が設けられました。一方、②については、暦年課税において生前贈与加算を7年間に延長することで、早期の贈与による若年層への資産移転を進めることとされました。

Q2 暦年課税に係る生前贈与加算の期間が相続開始前7年間に延長されるのは、いつの時点での相続からですか。

A 令和13年1月1日後に開始した相続から、加算期間が相続開始前7年間となります。被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合には、原則、その贈与により取得した財産の価額(贈与時の価額)が、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上加算されます。
 ただし、この延長には経過措置があり、令和9年1月以後に開始した相続より改正前の3年から順次延長されます。令和9年1月1日から12年12月31日までに開始した相続については、令和6年1月から相続開始日までに受けた贈与財産の額が加算対象とされ、令和13年1月1日後に開始した相続から加算期間が7年となります。
 例えば令和10年1月1日に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以降に受けた贈与が加算対象となり、令和13年7月1日に相続が開始した場合には、令和6年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。

Q3 被相続人が生前に孫に財産を贈与していた場合において、その孫が遺贈により財産を取得しなかったときは、Q2の生前贈与加算の期間延長の対象になりますか。

A 生前贈与の加算期間の延長の対象になるのは、Q2のAの下線部の通り、被相続人から相続又は遺贈により財産(死亡保険金等のみなし相続・遺贈財産を含む)を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合です。被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった人が被相続人から生前に贈与を受けた財産の価額は、加算期間の延長の対象にはなりません。

Q4 相続時精算課税制度について、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産から110万円の基礎控除が創設されますが、受贈者(相続時精算課税適用者)が令和5年以前に精算課税の選択をしていた場合であっても、この基礎控除の適用ができますか。

A 令和5年以前に相続時精算課税の選択をしている人が令和6年以後に贈与を受けた場合についても、110万円の基礎控除は適用されます。なぜなら、今回の改正の経過措置を定めた附則19条の4項は、「(110万円の基礎控除を定める)新相続税法第21条の11の2の規定は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用する。」としており、令和6年以後に相続時精算課税の選択届出をしている場合のみに限定していないからです。

Q5 相続時精算課税について、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物が災害により被害を受けた場合の減額特例が設けられましたが、相続時精算課税適用者が贈与により取得した非上場株式を純資産価額方式により評価する際に、その株式の発行会社が所有する土地又は建物が災害により被害を受けたときについても、減額特例の適用を受けることができますか。


A ご質問の減額特例は、非上場株式の純資産価額の計算では適用されません。相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物が、その取得後に災害により被害を受けたことにより、特定贈与者の死亡時の価額が贈与時点の価額よりも下落した場合であっても、特定贈与者に係る相続税の計算上は贈与時の価額を加算するのが原則です。これが今回の改正により、その贈与により取得した土地や建物につき令和6年1月1日以後に生ずる災害により一定以上の被害を受けた場合は、所定の要件を満たすことにより、相続税の計算上、加算する贈与財産の価額から被害を受けた部分に相当する額の減額が認められることになりました。
 ただし、この減額特例は、相続時精算課税適用者が贈与により取得した土地又は建物に限って適用され、非上場株式の純資産価額の計算上は適用されません。

Q6 暦年課税の基礎控除と新設の相続時精算課税の基礎控除には、どのような違いがあるのでしょうか。

A 相続時精算課税の場合、基礎控除以下の価額の財産の贈与は贈与税と相続税がかかりません。一方、暦年課税の場合は、被相続人から生前に暦年課税に係る贈与によって取得した財産のうち相続開始前7年以内に贈与されたものは、基礎控除額110万円以下の贈与財産も含めて、贈与税の課税の有無にかかわらず全て加算されます。したがって、毎年110万円以下の贈与を継続して行う場合は、相続時精算課税の選択が有利になります。
 なお相続時精算課税に係る基礎控除の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。

Q7 基礎控除制度の創設により、令和6年以降、相続時精算課税の選択をする人が増えることが予想されますが、このような中、税理士は実務上、どのような対応をすべきでしょうか。

A 相続時精算課税に係る贈与を検討する贈与者や受贈者に対し、税理士は少なくとも以下の留意点を説明することが求められます。
①相続時精算課税適用者が特定贈与者から基礎控除以下の価額の財産の贈与を受ける場合は、贈与税や相続税は課税されませんが、基礎控除を超える価額の財産の贈与を受ける場合には、贈与税の申告や納税が必要なケースが生じ、特定贈与者の死亡時にはその受贈財産に対して相続税が課税されます。
②相続時精算課税はいったん選択すると撤回することができません。将来の税制改正により、相続時精算課税が当初よりも不利な制度に変更された場合であっても、暦年課税に戻ることができません。
③贈与者が死亡した場合の相続税計算では、贈与財産が原則として贈与時の価額で加算され、相続時の価額が贈与時よりも下落したときには相続税計算上不利となります。

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