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インタビューInterview

東日本大震災の地震保険金は1兆3千億円 地震リスクと経済的備えの大切さ

2019/03/05

栗山 泰史 氏
(一社)日本損害保険協会 シニアフェロー(東日本大震災時:中央対策本部事務局長)

 
 東日本大震災の発生後、日本損害保険協会が設置した中央対策本部の事務局長として指揮を執った栗山泰史氏。保険金の迅速な支払いに向けて奔走する中、保険金を受け取った被災者から「地震保険は一条の光だった」といった感謝の声が次々と届き、地震保険の大切さを改めて感じたという。そこで当時の経験を踏まえ、将来の発生が危惧されている大規模地震と経済的備えの重要性について語ってもらった。





――中央対策本部では、どのような活動をされていましたか。
 東日本大震災の発生後、日本損害保険協会は東京に中央対策本部、仙台に現地対策本部を即時に設置しました。未曾有の大災害を前にして、まず、損保協会長から「迅速・的確・公平な地震保険金支払い」と「親切かつ丁寧な相談対応」を最重要課題とする方針が示されました。私が事務局長を務めた中央対策本部では、主に地震保険を中心とする相談対応、地震保険金支払いのための損害調査活動、政治・行政・マスコミ対応などを行いました。


――震災直後は現地を動き回るのも大変だったと思います。
 現地調査やガソリン確保のために「緊急通行車両の指定」を警察当局が認めてくれたのは大いに役立ちましたね。また、衛星写真を用いて全損一括認定地域を認定する共同調査を各社が協力して実施し、認定地域の現地調査を省略できたことも迅速な保険金の支払いに繋がりました。何より、自ら被災しながら、誰よりも早く行動した現地の代理店との連携は非常に重要なものとなりました。


――東日本大震災では想定外の津波が襲いました。
 地震保険における浸水損害は、床上浸水を一部損と認定する規定でしたが、ダムや堤防の決壊による洪水と異なり、津波による浸水は、海水の塩分やヘドロなど建物へのダメージがきわめて高く、現場の調査員からも、とても一部損というような状況ではないとの悲鳴にも似た声が多く寄せられました。そこで、財務省・金融庁との協議を経て、津波による浸水損害への認定基準を明確化し、床上浸水は半損にしました。また、津波によって保険証券などが流されてしまった方のために、本人確認できれば書類の提出を不要とする措置を講じました。東日本大震災では、余震なども含めると1兆3000億円を超える地震保険金が支払われています。


――苦しい状況の中で保険金を受け取れるのは嬉しいですね。
 地震発生からしばらくして、被災契約者から地震保険に関する様々な声が寄せられましたが、中でも「私にとって地震保険は、真っ暗なトンネルの先に見えた、一条の光でした」といった被災者の感謝の声が非常に多く、私自身、地震保険が被災後の生活再建にとって必要不可欠な制度であることを改めて認識しました。


――地震保険は、家や家財を修理するための保険というイメージがあります。
 確かに、地震保険は、家と家財の損害について保険金を支払う「モノ保険」であると説明されてきましたが、地震保険法では、この保険を「地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする」としています。家や家財の損害だけでなく、亡くなった家族の葬儀を行い、当面の生活資金を賄い、中古の自動車を買い、大きな心の傷を負った子供にささやかな娯楽を与えるといった、将来の生活に向かって最初の一歩を踏み出すためのとても大切な保険だといえます。


――地震保険には、絶望を希望に変える力があるわけですね。
 保険金を受け取った被災者からも「保険金という原資があるのとないのとでは次のステップに向かう気力が全然違うのです」といった声が寄せられています。東日本大震災の後、現地の代理店の意識も変わり、火災保険に地震保険を付帯しない場合は、専門職業人としての職責を果たしたとはいえないため、火災保険の契約そのものをお断りするケースもあると聞いています。保険を扱うプロとしての職業倫理の高さを感じます。

阪神淡路大震災の支払保険金は、
東日本大震災のわずか16
分の1!?

――これから発生が予測される大地震について教えてください。
 過去の経験値から、地震発生のメカニズムやエネルギーの集中による地震発生の危険をある程度推測することは可能となりました。中でも、東海・東南海・南海の3連動地震の発生が危惧されていますが、その危険度はますます高まっていると言われています。さらに、首都直下型地震の発生も危惧されています。しかし、地震の発生を正確に予測することは難しく、代表的なのが、2016年4月に発生した熊本地震です。


――熊本地震はまったく予測できなかったのでしょうか。
 熊本地震を引き起こした「布田川・日奈久断層帯」については、活動そのものは予測していましたが、2016年1月1日基準の発生確率は「不明」あるいは「ほぼ0%~数%」と決して高いものでありませんでした。2016年10月に発生した鳥取県中部を震源とする地震では、未確認の断層が震源となっており、予測もできていませんでした。


――日本のどこに住んでいても、大地震のリスクは避けて通れないわけですね。
 明治以降の主な地震を見ても、北海道から九州まで、日本のあらゆる地域で地震災害が発生しています。すぐそこに地震の危機が迫っているといっても過言ではありません。阪神淡路大震災は、経済的損害としては東日本大震災に匹敵するものの、1995年3月末時点における兵庫県の地震保険の世帯加入率は2.9%と低く、地震保険による保険金支払いは783億円と東日本大震災の16分の1でした。以来、地震保険の加入率も高まってきましたが、将来起こり得る地震災害を考えますと、もっと普及すべき保険だと考えます。


――阪神淡路大震災では、大規模火災の映像がニュースで流れていました。
 神戸市の長田区などでは地震火災によって多くの住宅が焼失しました。しかし、地震による損害は、火災保険をはじめ多くの保険で免責となっています。当時、損保業界としても地震保険の普及を図ることの大切さを改めて痛感し、地震による火災は、火災保険ではなく地震保険で支払われることを国民に伝えるため、テレビコマーシャルなどを通じて広告宣伝を積極的に展開しました。


--最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
 近年、震災だけでなく、異常気象による災害も各地で発生しています。地震による損害は、火災保険では免責となりますが、台風などによる風水災も、契約内容によっては支払いの対象にならない場合があります。関与先を守るという点からも、是非、税理士の先生方から関与先に対し、現在加入している保険で自然災害を十分にカバーできるのか、ご確認して頂ければと思います。税理士の先生方は、関与先企業にとって経営全般のアドバイザーという存在ですが、会社の成長を「光」とするならば、自然災害等による不測の損害は「影」の部分だといえます。経営者は光のほうに目が向きがちですが、影の部分への備えをしっかり講じておくことも重要です。災害時には、建物や機械などの物的被害のほか、サプライチェーンの寸断による売上減少や操業停止なども想定されます。最近は、BCP(事業継続計画)の重要性が唱えられています。経営者と一緒に自然災害等の不測の事態から会社を守るための対策を考えてみてはいかがでしょうか。

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