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第5回:拒否権付種類株式(いわゆる黄金株)を活用した対策

2021/06/24

1.拒否権付種類株式とは

 拒否権付種類株式(黄金株)とは、株主総会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、黄金株を保有する株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの(会社法108条第18号)です。具体的には、会社が定めた特定事項の決議については、通常の株主総会以外に、黄金株を保有する株主(1人だけが保有する場合にはその1人)の承認が必要となります。つまり、黄金株保有者が承認をしないと、その事案は承認されないこととなり、黄金株保有者は拒否権を持つこととなります。

 どのような事項について黄金株を保有する株主の承認を必要とするか(拒否権の範囲)は、会社が自由に決めることができますが、広範囲な事項を対象としてしまうと、常に黄金株を保有する株主の承認が必要となり、会社経営が円滑に進まなくなってしまう可能性があります。そのため、一般的には合併、事業の譲渡、定款変更、取締役の選任・解任など、会社の重要事項に限定することが多いようです。

2.事例による黄金株を活用した対策

【事例】
長男が会社を継いでくれることとなりました。今のところ経営も順調で株価も上昇基調が続きそうなため、これ以上株価が上昇する前に、社長である自分が保有する自社株式を長男に譲りたいと考えています。ただ、全株式を譲ってしまった後に、長男が会社経営で暴走するようなことがないか心配です。何かよい方法はないでしょうか。

【解説】
(1)黄金株の活用
 上記の事例は、黄金株を活用することで、解決できる可能性があります。具体的には、社長が保有する株式のうち、1株だけを黄金株に転換し、黄金株については社長自身がそのまま保有を継続します。残りの普通株式(黄金株以外の株式)については、贈与等の方法で後継者に移転します。これにより、社長は1株しか保有していないにも関わらず、一定の事項に関する拒否権を持ち続け、後継者の経営を牽制することができるので、黄金株以外の普通株式について早期に安心して後継者に譲ることができます。

(2)黄金株を活用する場合の留意点
 黄金株は非常に権利が強い株式であるため、万が一でも後継者以外の相続人等が取得すると会社経営が混乱に陥る可能性があります。そのため、後継者に安心して経営を任せられる状態となるなど、一定期間経過後に自社で買い取り、黄金株を消却する等の対応が必要となります。社長が保有し続ける場合には、遺言で、黄金株については後継者が取得するようにする等の対応が必要です。

 なお、他の種類株式同様、黄金株の内容については自社の商業登記簿謄本に記載されるため、外部からも内容を把握することが可能です。場合によっては、父親が引き続き息子の経営に干渉していると思われるなど、あまりよくない印象を持たれてしまう可能性もあるため、活用に際しては十分な検討が必要です。

【今回のまとめ】

 社長が保有する株式のうち1株を黄金株に転換し、その1株は自身で継続保有することにより、株主総会における一定事項について拒否権を確保する一方、残りの株式については後継者である長男に譲ることで、株価上昇前に実質的に株式の移転を完了させることができます。ただし、あまりに拒否権の範囲が広いと、経営が円滑に進まなくなる可能性があるので、留意が必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士・公認会計士 小野寺太一)

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