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第14回: 保有株数の減少による非上場株式にかかる相続税の軽減対策

2022/02/28

1.保有株数の減少による非上場株式にかかる相続税の軽減対策のポイント

 オーナー経営者の相続税の課税対象とされる自社株式(非上場株式)の相続税評価額は、[(財産評価基本通達に基づいて計算した)株価×被相続人の保有株数]の算式により計算されます。このため、オーナー経営者の保有株数を生前に他者に移転して減らすことにより、自社株式の相続税評価額を引下げ、非上場株式に係る相続税の軽減を図ることができます。

 この保有株数の減少対策を考える場合には、株式の移転により会社経営に悪い影響を与えないことが必要であり、移転先の選定が重要となります。このため実務では下記2のように自社にとって友好的な者(典型例としては(1)後継者、(2)従業員持株会)を自社株式の移転先とする対策が行われます。

2.具体的な自社株式の移転対策

(1)後継者への自社株式の贈与による効果

 オーナー経営者の保有する株式につき、後継者へ贈与を行って自社株式の保有株数を減らし、非上場株式の相続税評価額を引下げることができます。

 また、後継者に自社株式を集中させる(一般的には自社株式の保有割合を、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の議決権を確保することを目安とします。)ことで、後継者がその会社の次のオーナーとして安定的に経営をしていくことが可能となります。

(2)後継者に自社株式の贈与を行う場合の留意点

①後継者以外の相続人の遺留分の問題
 後継者に自社株式を集中させた結果、後継者以外の相続人の遺留分を侵害してしまい、相続トラブルとなる可能性があります。自社株式を後継者に集中させる場合には、後継者以外の相続人の遺留分の確保について十分な検討が必要となります。

②贈与税の負担
 暦年課税制度により贈与税が計算される場合には、贈与する株式の株価および株数により、税負担が高額になる可能性があります。したがって、贈与税の課税方法として相続時精算課税制度を選択して贈与税の負担を軽減する、または非上場株式にかかる贈与税の納税猶予および免除制度の適用を受ける等により、贈与税の負担を軽減する対策の検討が必要となります。

③贈与した財産は相続税の課税対象となる場合があること
 相続または遺贈により財産を取得した個人が被相続人から受けた相続開始前3年以内の贈与財産は、相続税の対象とされます。また、相続時精算課税制度の適用を受けた全ての贈与財産は、贈与者の相続税の対象とされます。この場合、贈与を受けた財産は、贈与時の相続税評価額を基に相続税が課税されます。したがって、贈与時よりも相続時の相続税評価額が下落した場合は、贈与しない場合に比べて相続税の計算上は不利になります。

3.従業員持株会への自社株式の譲渡

(1)従業員持株会の概要

 非上場会社における従業員持株会は、一般的には民法上の組合として組成されます。したがって、この項では民法上の組合に絞り説明します。従業員持株会は、従業員持株会設立契約書(組合契約に相当します。)と持株会規約を定めることで、登記を行うことなく設立することが可能で、持株会の理事長が各会員から信託を受けて議決権を行使します。従業員持株会自体には法人格がないため法人税の申告は不要です。従業員持株会は民法上の組合であることから、税務上、持株会の理事長名義となっている株式は、会員がその出資割合に応じて共有するものとして取扱われます。

 オーナー経営者および後継者が安定的に経営を行うことに支障が生じない範囲内で、保有株式を従業員持株会に移転することは、将来の相続税対策および事業承継対策として有効です。さらに、従業員の財産形成に寄与することができ、経営参画意識を持たせることも可能です。

(2)従業員持株会の活用における留意点

①退職時の取扱いを持株会規約に規定しておくこと
 組合の規約で会員である従業員が退職(死亡退職を含む。)した場合、従業員は自動的に退会し、持株会は退職者の持分に応じた払戻しを行うことと、退職時における払戻しのための株式の価格の算定方法を定めておく必要があります。規約でこれらを定めておかないと持分権が従業員でない人に相続されたり、高額な買取りを求められたりする可能性があります。規約には「退会時に持分の払戻しを受ける株式の価格の算定は、配当還元価額を参酌して行う。」などと定めておくことが重要です。

②議決権の制限を考慮すること
 従業員持株会に移転する株式を配当優先無議決権株式(株主総会で従業員持株会への自社株式の譲渡による相続税の軽減効果議決権を行使することができず、配当を受ける権利のみを付与された株式)に転換しておけば、経営者および後継者の議決権に一切影響を与えません。しかし、配当が継続できないと従業員持株会の会員の不信感が高まり、従業員持株会を維持していくことが困難となる場合もあるので注意が必要です。

【今回のポイント】
 保有株数の減少による非上場株式にかかる相続税の軽減対策においては、後継者以外の株式の移転先として従業員持株会がしばしば候補に挙げられます。この場合は、自社の経営に支障をきたさないように、上記3(2)の留意点を参考に慎重に対応することが必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義)

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