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居住用家屋の敷地である土地を遺言により法人に寄附したい

2021/07/26

1.相談内容

 相談者(甲)は80歳を超え、推定相続人である3名の弟妹(乙ら)は皆70歳を過ぎています。甲の居住用家屋の敷地は無道路地です。乙ら相続人はそれぞれ居住用不動産を所有しています。甲は高齢者の乙らにできるだけ手間をかけずに財産を相続させたいと考え、遺言執行人となる弁護士と公正証書遺言を作成していました。預貯金は乙らにそれぞれ持分3分の1ずつ相続させ、不動産は公共性の高い法人に寄附をする旨の遺言を考えています。

 甲の相続財産及びみなし相続財産は次の通りです。

(1)居住用家屋:1,000千円(昭和44年12月新築)
(2)(1)の敷地である土地:270㎡、60,000千円、無道路地
(3)預貯金:20,000千円
(4)生命保険金(みなし相続財産):15,000千円
 合計:96,000千円

 甲の相続が発生したときの税金がどれくらいになるか、とご相談がありました。本稿では、みなし譲渡について検討を加えます。

2.遺言の形態によるみなし譲渡

(1)不動産の寄附について
 不動産の現物の寄附は受入れ側の手続きが煩雑であるなどの理由から、団体によっては受け入れられない場合もあります。そこで、不動産を現金に換えてから寄附をする換価遺言を採用する場合も考えられます。

① 不動産のまま法人に遺贈した場合
 被相続人の不動産を現物のまま法人に対して寄附した場合には、その遺贈にかかる資産が土地、建物、有価証券等の譲渡所得の起因となるものであるときは、相続開始の時に被相続人がそれらの資産をその時の時価により譲渡したものとみなして譲渡所得課税が行われます(所法59)。寄附先が法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの(人格のない社団等)に該当する場合についても、所得税法上、法人とみなされるので、みなし譲渡課税の適用があります。なお、寄附先が国又は地方公共団体である場合には、その遺贈はなかったものとみなされる(措法40①前段)ので、みなし譲渡にかかる所得税は非課税となります。公益法人等に対する不動産の遺贈について、一定要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた場合には、その遺贈はなかったものとみなされ、所得税は非課税となります(措法40①後段)¹。

②換価遺言とした場合
 
ここで、遺言書に「不動産は法人が遺贈により取得後換価して代金を受け取る」とする換価遺言の場合はどうでしょうか。換価遺言とは、遺言により相続財産を換価し、その換価代金により相続債務、遺言執行にかかる費用等を清算した後に清算後の金銭(残額)を受遺者に分配する遺言をいいます。 換価遺言による遺贈の目的物は換価代金すなわち金銭と考えられます。所得税法59条は、ア、法人に対する贈与  イ、相続のうち限定承認にかかるもの  ウ、法人に対する遺贈  エ、個人に対する包括遺贈のうち限定承認にかかるもの  オ、法人に対する低額譲渡による資産の移転をみなし譲渡の課税対象としていますから、換価された金銭が法人に遺贈されたと解した場合には、被相続人の資産が直接法人に移転があったものではないため、所得税法59条が適用されるかどうかの検討が必要です。換価遺言により換価される相続財産は、遺言執行が行われる間に金銭という資産に変化するものの、その相続財産の実質である経済的価値は、遺言の効力により法人に移転しますから、これは遺言により資産の移転があった通常の遺贈と同視でき、したがって、所得税法59条にいう「遺贈」により資産の移転があった場合に含まれ、換価資産の移転が相続開始時にあったものとして、みなし譲渡課税の適用があると解すべきである²とされています³。みなし譲渡課税が行われないとすれば、換価遺言により法人に移転された資産のキャピタル・ゲイン課税が行われる機会がなくなってしまうからです⁴。
 なお、このように換価されて法人に遺贈される場合には、不動産そのものを事業の用に供したと認められないことから、措置法40条の適用はないものと思われます。

3.むすび
 甲は乙らに手間をかけずに相続させたい、公のためになる法人に寄附をしたい、という思いで上記のような遺言案を考えておられました。しかし、無道路地である土地を法人に受け入れられない可能性も高いと考えられます。甲の家屋と宅地は被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(措置法35条3項)の適用要件を充足できる状態にありましたので、不動産を法人に遺贈せず、相続人乙らに換価遺言により相続させる旨の遺言に変更し、相続人の譲渡所得税の申告に当たっては措置法35条3項の適用により、それぞれが3,000万円の特別控除を受けられるようになればよろしいかと思います。
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¹受遺者である法人に対する課税関係については、法人は相続税の納税義務者にならないので相続税は発生せず、認定非営利活動法人等の一定の団体を除き、法人税が課税されます。ただし、持ち分の定めのない法人に対し財産の遺贈があった場合において、遺贈をした申告その他特別の関係がある者の相続税の負担が不当に減少する結果となる場合には、当該法人を個人とみなして相続税が課税されます(相法66④)。また人格のない社団等に対する遺贈の場合についても、人格のない社団等を個人とみなして贈与税又は相続税が課されます相法66①)。

²小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」税務大学校論叢 85号87頁(2016年)

³小林栢弘『Q&Aと図解で分かりやすく解説 遺言執行時にまつわる税金』27頁(税務研究会税研情報センター、2004年)

⁴所得税法59条について金子宏教授は「所得税法は、資産の譲渡により収入として実現したキャピタル・ゲインに対してのみ課税することを原則としているが、例外的に、一定の無償の譲渡(法人に対する贈与および遺贈、限定承認にかかる相続および包括遺贈)または著しく低い対価による法人への譲渡があった場合には、時価による譲渡があったものとみなしている(59条)。これは「みなし譲渡」と呼ばれるが、未実現のキャピタル・ゲインに対する課税の例であって、キャピタル・ゲインに対する無限の課税繰延を防止することを目的としている。」『租税法[第23版])』267頁(弘文堂、2019年)

執筆:川﨑啓 税理士/監修:滝口利子 税理士

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