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平成29年度税制改正後の役員退職給与の規定に注意

2022/12/16

 平成29年度の税制改正により、上場企業(市場価格のある株式の発行会社及びその関連会社)に対する役員給与において、インセンティブ給与の損金算入範囲が大幅に拡充され、役員退職給与について、新たに「業績連動給与に該当する役員退職給与」という類型が新設されました。この改正は、非上場企業には関係のない改正を思われがちですが、実は、この業績連動給与は、法人税法の規定上、上場企業に限定した規定とはなっていないため、仮に、非上場企業が支給した役員退職給与が、業績連動給与と認定された場合には、全額損金不算入となるリスクをあるので注意が必要です。

1 役員退職給与

 法人税法第34条では、以下の役員退職給与を損金に算入するとしています。

 ① 業績連動給与(法法34①三)
 利益の状況等の指標を基礎に算定される給与のうち、法人税法で定める一定の要件を満たしたものをいいます。詳しくは、下記の2を参照してください。

 ② 退職給与で業績連動給与に該当しないもの(法法34①本文)
 ただし、上記①又は②に該当していたとしても、不相当に高額な部分及び事実を隠蔽し、又は仮装して経理された給与の額については損金の額に算入されないとされています。(法法34②③)

2 業績連動給与

 「業績連動給与」とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標など一定の業績を示す指標を基礎に算定される給与とされます。(法法34⑤) 

 この業績連動給与のうち、法人税法第34条第1項第3号に定める主として以下の要件を満たした場合に限って損金の額に算入されます。

 ①交付される金銭の額又は株式等の数の算定方法が、その給与に係る職務を執行する期間の開始の日以後に終了する事業年度の利益の指標や株式の市場価格の指標及びこれら2つの指標と同時に用いられる売上高の指標を基礎とした客観的なもので有価証券報告書に記載されたもの

 ②会社法第404条第3項に規定する報酬委員会が決定したもの

 ③上記①及び②その他法令で定める内容が、②の手続きの終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていること

 つまり、一定の業績を示す指標を基礎に算定された給与は、上場企業や非上場企業にかかわらず、一旦「業績連動給与」とされますが、非上場企業の場合には、上記に定める有価証券報告書の記載要件等 を満たすことができませんので、結果として全額損金不算入とされます。

3 功績倍率法により決定された役員退職給与

 中小企業の場合、功績倍率法により役員退職給与を算定する実務が定着しています。

 この「功績」とは、在任中の会社の業績等に対する功績であり、「功績倍率」とは、この過去の会社の業績等に対する功績の大きさを代表取締役など職務執行の度合いに応じて定めたものということができます。よって、一定の業績に係る指標に基づいて算定された給与と考えれば、業績連動給与に抵触するのではないかという懸念が出てきます。

 この懸念については、平成29年度の改正に合わせて、以下の通達が新設されています。「いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法34条第5項⦅業績連動給与⦆に規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同条第1項⦅役員給与の損金不算入⦆の規定の適用はないことに留意する。」(法人税基本通達9-2-27の2)

 ただし、当該通達に係る逐条解説において、「仮に法人が用いている功績倍率が業績連動給与に該当することとなる利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標等を基礎として算定されるものである場合、業績連動給与に該当するケースも考えられる。したがって、その退職給与が業績連動給与に該当する場合には、業績連動給与の損金算入要件を満たすものでなければ損金の額に算入されないことに留意する必要がある。」としています。

4 実務上の留意点

 よって、過去の会社の利益の状況等に応じて、一定割合の特別加算を行うような役員退職給与規定を定めている場合には、上記3で解説したとおり、平成29年度の税制改正後は、業績連動給与に抵触するリスクが生じていますので、今一度、役員退職給与規定の見直しを行って、思わぬ否認リスクを回避する等の備えをしておくことが重要です。

執筆:湊義和 税理士/監修:大橋充佳 税理士

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