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相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例

2021/11/26

1.自己株式の取得

 自己株式の取得とは、会社が発行した株式を株主から買い取ると手続きのことで会社法155条各号に会社が自己株式を取得できる場合が規定されています。

 非上場の会社では、一般的に株主から譲渡承認請求があった場合に株主総会(取締役会設置の場合は取締役会)の決議によって自己株式の取得が決定されます。

 非上場の会社の株式は、上場企業のようにすぐに売却・換金できる市場がありませんので、当該株式を売却したくてもすぐに買い手が見つかるとは限りません。見つかったとしても、既存の株主は会社にとって好ましい者であるかについて検討をしなければならず、第3者への売却・換金のハードルは上場株式に比べて非常に高いのが実情です。

 そこで既存株主は、投下資本の回収を図る手段として会社が買い手となる自己株式の取得を選択することが実務上多くなります。

2.みなし配当課税

 自己株式の取得を通じた投下資本の回収の際には、みなし配当課税を検討する必要があります。

 本来配当とは、会社が獲得した利益を株主に分配することをいい株式数に応じた金銭が実際に株主へ支払われます(会社法105条1項1号)。

 みなし配当は、会社法上の配当ではありませんが、所得税法25条1項5号により、自己株式の譲渡対価の額のうち譲渡した株式に対応する資本金等の額を控除した残額は利益の配当とみなされ所得税の課税対象となります。

 みなし配当は、個人の所得の計算上配当所得として扱われます(所得税法25条1項5号)。配当所得は原則として総合課税として他の所得と合算したうえで課税所得が算出されますので、みなし配当の金額や他の所得の金額よっては、思いがけず高額な所得税が生じることもあり注意が必要です。

3.相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例

 非上場会社のオーナーに相続が発生した場合、当該株式は相続人にとって相続財産の対象となります。長年利益が蓄積されてきた会社の株式評価額は高額になるケースも多く容易に換金できない財産であるため、相続人は相続税の納付に頭を悩ませることも少なくありません。

 そのような場合、会社が買い手となる自己株式の取得によって相続した株式を換金し、納税資金を捻出する方法が考えられますが、前述の通り譲渡人である相続人には「みなし配当課税」として高額な所得税が生じる可能性があります。

 しかし、後述する要件を満たす場合には「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」を適用することで、「みなし配当課税」に伴って生じる高額な所得税を圧縮できる可能性があります。

 当該特例は自己株式の譲渡対価の額のうち譲渡した株式に対応する資本金等の額を控除した残額をみなし配当とせず、交付を受ける金銭の全額を株式の譲渡所得に係る収入金額として取り扱う規定です(租税特別措置法9条の7)。

 「みなし配当課税」では、原則として総合課税により最大で累進税率45%※に相当する金額の所得税が課税されます。当該特例を適用すれば、申告分離課税として当該株式の譲渡所得金額の15%※に相当する金額が所得税となります。みなし配当の金額や他の所得の状況にもよりますが両者の税率の差分だけ所得税の圧縮につながります。

※平成25年から令和19年までは、復興所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。

≪相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例の要件≫

 当該特例は、相続又は遺贈により財産を取得して相続税を課税された人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合に適用があります。

 特例の適用を受けるためには、その非上場株式を発行会社に譲渡する時までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社を経由して、発行会社の本店又は主たる事務所の所在地の所轄税務署長に提出することが必要になります。

 執筆:坂部啓太 税理士/監修:山元俊一 税理士

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