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税務調査対策 得意先から受領し、簿外で保管した商品券は重加算税対象か

2022/01/21

 緊急事態宣言が昨年9 月30 日に解除され、税務署から税務調査の通知が急増しました。12 月は調査のまとめの時期ですが、納税者(A)から税理士(B)に相談がありました。

A「私の会社は、現在税務調査を受けています。卸売業なのですが、帳簿調査では特に問題がありませんでした。その後、会社の事務所内の机の中や棚などあちこちを現物確認調査されました。」
B「現金商売でないのに、珍しいですね。」
A「金庫の中に商品券が50 万円ほどありました。得意先の商品の販売目標を達成したときに、報奨金として頂いたものを、10 年来使用せずに金庫に保管したものです。法人の収入に計上する必要はないと考えていました。しかし調査官は、意図的に商品券の計上を除外したので、重加算税対象と言われました。」

  貯 蔵 品 50 万円 / 貯蔵品計上もれ 50 万円

B「今お聞きした限りでは、意図的と言う根拠が不明です。事実の隠蔽・仮装がないので、国税通則法68 条の重加算税の要件を満たしていません。」

国税通則法第68 条
・・・過少申告加算税・・・規定に該当する場合・・・において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは・・・過少申告加算税に代え・・・重加算税を課する。

A「ただ単に、商品券を金庫に保存していただけなのですが・・・調査官から、税務署で質問応答記録書を作成するので来署するよう要請があったので、これから行こうと思っています。」
B「ちょっと待ってください。それは貯蔵品計上もれというよりは、各決算期での雑収入計上もれと考えるべきです。その場合、例えば6年以前の報奨金の受取が30 万円だとしたら、更正の期間制限(国税通則法70 条)により、商品券50 万円中30 万円は更正されません。正しい修正仕訳は次のとおりです。」

  貯 蔵 品 20 万円 / 雑収入計上もれ 20 万円

B「また、現状では、税務署は隠蔽・仮装を立証してないので、重加算税を賦課できません。」
A「それでは、何故質問応答記録書を作成するのでしょうか。事実関係を確認するだけと言われました。」
B「調査官の言う事実とは、唯一無二の客観的な事実ではなく、隠蔽・仮装を立証するための主観的な事実である、と私は考えます。それは、見方を変えれば、隠蔽・仮装の証拠の創出になります。」
A「意味がよく判らないのですが。」
B「質問応答記録書の作成に協力し、署名をしたにもかかわらず、後日、調査官が再度、その作成への協力を求めてくることがあります。その理由は、恐らく、当初の質問応答記録書では隠蔽・仮装を立証できていないので、税務署内の審理担当者あるいは上司から、その取り直しを指示されたからです。」

東京国税局課税第一部国税訟務官室の開示文書
「調査に生かす判決情報第75 号 平成29 年5月」
記録書は、調査担当者(質問者)が納税義務者等(回容者)から聴取した内容を記録するものではありますが、最終的に課税要件事実の立証に役立つものでなければ作成する意味がありません。したがって、回答者の協力が得られる場合には、必要な範囲で聴取と文書の作成・念査を繰り返し、より内容のある記録書を作成できるように努めるべきです。

B「つまり、調査官は質問応答記録書の記述を、隠蔽・仮装の証拠としたいのです。」
A「納税者はその作成に協力する義務はあるのですか。」
B「質問応答記録書は行政文書です。」

質問応答記録書作成の手引について(平成25 年6 月 国税庁課税総括課)
「はしがき」より抜粋
質問応答記録書は、調査関係事務において必要がある場合に、質問検査等の一環として・・・質問応答形式等で作成する行政文書である。
・・・納税義務者等に対し署名押印を求めるに当たっては、強要していると受け止められることがないよう留意する。

B「行政文書は民間人には関係のない書類です。」

行政機関の保有する情報の公開に関する法律第2 条第2 項
この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録・・・であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。・・・

B「また、調査官が納税者に対し、その作成の協力要請をすることは、質問でも検査でもないので、質問検査権の行使(国税通則法74 条の2)でもありません。したがって、納税者はその作成に協力する義務はありません。」
A「それでは、質問応答記録書の作成に協力しないほうが良いですね。」
B「そんなことはありません。調査には協力しなくてはならないので、質問応答記録書の作成にも、原則として協力するべきです。しかし、納税者が特に悪質な行為をしていないのであれば、熟慮する必要があります。」

国税庁レポート2021 P37
国税庁では・・・不正に税金の負担を逃れようとする悪質な納税者に対しては、適切な調査体制を編成し、厳正な調査を実施することとしています。

A「判りました。先生にお聞きしたことをよく考えて、質問応答記録書の作成に応ずるか決めたいと思います。ご指導有難うございました。」

執筆:鴻秀明 税理士/監修:長野匡史 税理士

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